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日々是好日

街に帰り着くと、冒険者協会への報告はライとステフに任せ、一足先に従魔達と帰宅した。荷物を下ろすと厩舎で騎獣のヒューイとセスに水をやったりブラシをかけたりして労う。東の町から休み無しで走り続けてくれた二頭は、この労いに満足してかゆったりと厩舎に寝そべった。


それから、デューイとルーイを連れて敷地の裏手にあるランディの家へウルリヒを迎えに行った。こういう時の為に、裏手の塀は一部を取り去って木戸にしてある。


「ただいま。ランディ、ウルは?」

「お帰り。ウルならつい先刻(さっき)昼寝し始めたところだから、お茶していきなよ」

「そうさせて貰うかな」


どうもこのところ、迎えに来る時間とウルリヒの昼寝がかち合いがちだ。早く顔を見せて安心させてやろうと、ステフ達と別行動で迎えに来ているのに、間が悪い。


ランディに勧められて、居間で茶を飲みながら寛ぐ。従魔達はウルリヒの寝ている部屋に行った。差し当たっての話題は、間近に迫ったランディの出産に及んだ。


小柄で細身なランディだから、不自然に膨れたその腹は目立つ。最近は、森への薬草採集は疎か、街中の買い出しも控えているという。伴侶のフェルマーの過保護っぷりが留まる処を知らない。


「経過は順調そうだね」

「お陰様で。ヴィルに読み聞かせて貰った手記も役に立ったよ」


ランディの伴侶のフェルマーが持っていた先祖の手記を、字の読めないランディに代わって読み、その内容を噛み砕いて話した事がある。


この辺りに獣人族はいないし、その種族特性で男性の身ながら妊娠したランディにとっては、同じ立場の先人が遺した手記は心強い味方となったのだろう。


「フェルの先祖もだけど、何より出産経験者のヴィルがすぐ側に居てくれるのが心強いよ」

「俺はランディの参考にはならないと思うが」

「それでもさ」


ランディに「頼りにしている」と微笑まれ、頭を掻いた。この年下の友人は、人を煽てるのが上手い。


雑談するうちに、昼寝から起きたウルリヒを従魔達が居間に連れて来た。久しぶりに顔を合わせ、歓声を上げて飛び付いて来るウルリヒを抱き上げる。その確かな重みが嬉しい。


ランディに暇を告げて、ウルリヒを連れて家に戻ると、ステフとライが先に帰宅して荷解きしている最中だった。


「ウルー!」


やり掛けた仕事を放って、ステフがウルリヒに抱き付く。ウルリヒも大喜びでステフに頬擦りした。ライも破顔してウルリヒの頭を撫でている。長丁場の依頼を終えて、漸く日常が戻って来た。


「そう言えば、協会経由で王都のトールから連絡が入ってたぞ」


久々に皆の揃った居間で団欒していると、ライが協会での報告ついでに仕入れてきた話をし始めた。


「南都で捕縛された傭兵達の裁判が終わったそうだ。鉱山行きの有期刑になったらしい」

「鉱山か……厳しいな」

「まぁ、妥当な処だろう。タフな連中だし、刑期が明けたら自由の身になれるんだ。耐えられるさ」

「でも、有罪になったら冒険者協会に復帰するのは無理だろう?」

「協会に所属しなくても冒険者は出来るし、他の仕事も無くはない」

「事情が事情だし、温情で協会預かりとかに出来るんじゃないー?」

「そう上手い事いくかな? どっちにしろ大変だけど」

「違いない」


以前、関わった誘拐事件の実行犯である傭兵達の処遇が決まったらしい。この件の被害者である自分が加害者の傭兵達に同情するのは変かも知れないが、彼等も別件で被害者の一面もあり、複雑な気分になる。


かの傭兵達は、かつてダンジョン事故を装い誘拐され、薬物による洗脳をされ使い捨てされたらしい。物的証拠は無いが、現に治癒の魔力を流し失われた記憶を一部取り戻している。状況証拠にはなるだろう。


「サイラスはどう思っているかな」

「生きててくれるだけでいいって、前は言ってたけど」

「待っているんだろうな」


傭兵達のリーダー格であるアインことファイベルは、死んだと思われていたサイラスの元恋人だった。離れ離れで、記憶も(まだら)にしか戻っていない。この先、二人がどうなるのか。暗澹とした気分になる。


「成る様にしか成らんさ」


ライが悟り澄ました様な事を言う。


「似合わねぇ」

「何言っちゃってるのー」

「煩い」


ステフと思いっきり指差して笑ったら、ライは照れ隠しに反撃してきた。ライの腕が二人分の頭をガシッと締め付ける。


「降参! 降参!」


ステフと一緒にその腕をパシパシ叩いて、拘束を弛める様に促した。ライが頭を放すと、三人で床に転がり大笑いした。そんな大人達の様子を、ウルリヒが離れた所からキョトンと見ていた。






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