隣村での再会
瘴気溜まりの浄化も終わり、後は浄化前に湧いた大量の魔物を掃討すれば今回の討伐依頼は完了だ。
「来た当初の予測より、随分と早く浄化が終わったな」
「有難い。流石は浄化のエキスパートの『翠聖』だ」
打ち合わせ時の協会幹部達の声も、心持ち明るい気がする。こちらも早く街に帰りたいので、予定の前倒しは歓迎だ。
冒険者協会本部の梃子入れがあって、討伐に参加する冒険者も増えている。この分なら、然程かからずに魔物の掃討も終えるだろう。
この近辺の冒険者達にはあまり知られていなかったが、後から本部経由で集まった冒険者達には上級冒険者の『紅刃』『翠聖』の顔はお馴染みらしく、広場や食事場所で騒がれる場面も出て来た。
ヒソヒソと二つ名を囁かれたり、キラキラした視線を向けられるのは、何時迄経っても慣れない。
「放っておけよ。実害無いんだし」
慣れているライは泰然と流してそう言うが、とてもそんな心境にはなれそうもない。
「今回は、何と言っても湿地帯の移動が大変だったよな」
「そういう感想は、全部終わってから言おうよ、ライ」
夕食時のライとステフの軽口も、先の見通しが立った今は気楽に聞ける。
「終わってからと言えば、帰りに隣村の元村長に会いに行きたいんだけど、いいかな」
「あぁ、長老の家の鍵預けて伝言していた人? ヴィルが会いたいなら行こうよ」
「その元村長に悪い印象が無いなら、会ってもいいんじゃないか?」
「元村長は、長老の次に俺が世話になった人だ。会えるなら礼の一つも言っておきたい」
討伐後の寄り道提案に、ステフとライからの異論は無かった。
その後の魔物討伐は、怒涛の勢いで進んだ。特に、戦闘狂の気があるライとルーイは嬉々として討伐し捲っている。このコンビが通った後は、魔物の屍が累々と積み上がっていた。
ヒューイは単独で駆け廻り、群れ単位で殲滅している。ヒューイの狩った魔物は、見事に首だけを落としているので、後の剥ぎ取りがし易い。
「はぁ……彼奴等、調子に乗ってるな」
「止めても無駄だ。やる事やってしまおう……ふぅ」
ステフと二人、溜め息をつきながら剥ぎ取り作業に専念した。量が量なので、目ぼしい素材以外は捨て置き、デューイに一纏めにして積んで貰う。ヒューイ達のおやつ分を残し、他はライに自己責任で燃やして貰おう。
そんな討伐も数日が過ぎると、漸く終わりが見えて来た。後は地元冒険者に任せて引き上げる事になった。
荷物を纏めると、最後に長老の家を掃除して鍵を締める。その手元を見詰めたステフに聞かれた。
「その鍵、どうするの?」
「元村長に会って相談するよ」
騎獣に乗り前線を離れ、隣村へと向かう。記憶には殆ど無いが、町で貰った周辺地図を頼りに進むと程無く辿り着いた。出身地の村と然程規模は変わらない、鄙びた小さな村だ。
騎獣に目を丸くする村人に聞いて村長の家を訪ね、其処で元村長に会った。
「……ヴィルなのか? 大きくなって……」
「お久しぶりです」
あまりに日も経ち過ぎ、境遇も変わり過ぎて、お互いに言葉が出ない。沈黙が続く中、元村長が重い口を開いた。
「ヴィル、昔住んでいた家を見たかい?」
「ええ。前と変わりなくて驚きました」
「お前に無体をはたらいた者達に、修繕や掃除をさせていたんだ。綺麗にしてあったろう?」
「そうだったんだ……で、其奴等は……」
「魔物の襲撃で、殆ど……」
また暫く沈黙が続いた。ただ、先の沈黙より重さは無かった。お互いが思い思いに過去を咀嚼している感じで、不思議な心地良さがある。
「では、お元気で」
「達者で暮らしておくれ」
元村長に長老の家の鍵を返し、隣村を後にした。