告白
ステフへの好意を自覚してしまうと、それまで抑えていた色々な欲求が一遍に押し寄せる。もっと頻繁に会いたいだとか、もっと触れ合いたいだとか、一緒に暮らしたいだとか。そうすると、今まで敢えて遠ざけていたことに突き当たる。
そもそも、何故人と深く関わるのを避けていたのか。それを知られることが怖い。知られて、引かれたり、避けられたり、嫌われたりするかもしれない。怖い。でも、避けては通れない。
ステフとの逢瀬は、お互いの仕事の合間を縫って、昼間に会うことが多かった。それもあり、今まで核心に触れること無く過ぎた。しかし、今回は互いの仕事終わりが重なって、一緒に飲みに行く流れとなった。夜に会えば、昼間とは違う濃厚な触れ合いもあるだろう。
今回は、互いの定宿の食堂ではなく、夜の営業のみの酒場に来た。こういった酒場の多くは、その二階が酔客や酌婦向けの連れ込み宿になっている。おそらく先輩冒険者に入れ知恵されたのだろう、ステフが二階に誘ってきた。
「ヴィル、ここなら知り合いの目もないし、どうかな?」
「……うん、いいよ」
このまま手を拱いていては、先に進めない。意を決して、誘いを受けた。店の給仕から部屋の鍵を受け取ったステフのエスコートで、二階に上がる。部屋に入るなり抱きしめ口付けてくるステフを押し止め、言葉を探す。どうやって真実を告げたらいいのか、告白する言葉が見つからない。こちらの逡巡に、ステフは戸惑っている。誤解しているかもしれない。
「え?ヴィル、嫌なのか?」
「そうじゃない。ただ、先に聞いて欲しいことがあるんだ」
「今?」
「そう。今、言っておかないと、驚かせるかもしれないから」
覚悟を決めて、いざ話そうと思っても、恐怖が先に立つ。話して、引かれたらどうしよう。避けられたりしたら、嫌われたら、どうすればいい。怖い。怖い怖い怖い……
黙って俯いていると、ステフが顔を覗き込む。肩を抱いて導かれ、ベッドの端に並んで座るよう促された。こめかみに額を押し付けたステフが、耳元で囁く。
「言い難いこと?」
「……うん、そうだけど、言わないと……」
「今でないとダメ?」
「ダメ。今じゃないと」
それでも言い澱んでいると、ステフは宥めるように頬を撫でる。目を閉じると、触れている指先が震えているのを感じた。自分より年若いステフに、余裕があるはずもない。相手からの拒絶が怖いのは、自分だけではなかった。うっかり自分の恐怖心に填まり込んで、相手が見えなくなっていた。
「ステフ、俺、実は……」
言葉だけで伝える自信はない。もう、肚を括るしかないだろう。ステフの手を取ると、思い切って己の自身の方へ導く。それを通り過ぎてさらに奥、男には本来あり得ないものに触れさせる。今まで、自分を散々悩ませ、苦しめてきた原因たるものに。
「これ、分かる?」
「……え?これって……」
ステフは下腹部から手を引くと、こちらの手を握る。
「俺、生まれつき両方あるんだ。半陰陽とかふたなりとか言われるヤツだよ」
「……ヴィル」
「これのせいで、人と深く関わるのが怖かった。誰にも知られたく無かった。一生、恋愛と無縁じゃないかって思ってた。今でも怖い。ステフがこれを知って引いたりとか、避けられたりとか、ステフに嫌われたりとか……」
「そんなことない!」
語尾に被せるようにステフが叫ぶ。両腕でがっちりと肩を抱き込まれ、頬が触れ合う。触れ合った頬が濡れているのは、どちらの涙だろう。
「ヴィル、好きだよ。初めて会った時から」
「……ん……」
「ヴィルと一緒に居ると心地良くて、料理も旨いし、綺麗だし、会う度に惹かれてた」
「……うん」
「そりゃ、男となんてあり得ないって悩んだよ……でも、ヴィルならありかなって」
「……ステフ」
「その上、女でもあるって、こんな嬉しいことないよ。間違っても、オレから嫌って離れてくなんて思わないで」
「俺も離れたく無いよ、ステフ」
それから一晩中、互いに今まで抑えていた想いの丈をぶつけ合った。触れ合う肌も、感じる体温も、囁き交わす声も、すべてが愛しかった。