表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
138/166

湿地帯での浄化

夕食後は、明日に備え早めに休もうとテントに戻った。持ち込んだテントは二人用だから、三人で入るとぎゅうぎゅう詰めだ。思わず本音が口を突いて出る。


「狭い」

「でも、テントってあまり大きいのも使い勝手良く無いし」

「いいじゃねぇか、仲良くしようぜ」


その呟きに、両側からほぼ同時にツッコミが入った。何だかんだ言って、ステフとライは気が合うのかも知れない。


「ヴィル、もっとこっちおいでよ」

「そっち狭いんだろ? 俺の方もっと来ていいからな」


それから暫く、ステフとライの牽制し合う様な引き寄せ合戦があり、双方から延びた腕が躰にぐいぐいと絡み付く。やがて、ステフが肩、ライが腰とそれぞれ腕の納まり処を見付けると静かになった。


テントの入口付近には、中に入れなかったデューイとルーイが丸まって休んでいる。ステフのに方からは寝息が聞こえてきた。ライからは聞こえて来ない。


「ライ、眠れないの?」

「こっちの台詞だ。ヴィルこそどうした、寝れないのか?」

「うーん……確かに、普段より寝付きは良く無いな。色々思い出して、ぐるぐるするからかも」

「俺が寝付け無いは只の下心だ。気にせず寝てくれ」

「余計、眠れなくなるだろ……」



呆れて溜め息を溢すと、ライがくくっと笑うくぐもった声がした。それから蟀谷こめかみに唇の感触が当たる。


巫山戯ふざけてないで寝ろって」

「このくらい大目にみろよ。オヤスミ、ヴィル」

「ああ、おやすみ」


無理矢理目を閉じて、呼吸をわざとゆっくりすると、漸く眠りの気配が訪れた。


翌朝、二重に絡んだ腕を押し遣り身を起こすと、緩めた装備を整える。程無く起きたライとは異なり、ステフは相変わらず寝起きが悪い。入口からルーイを呼び込むと、ステフを刷り込みの親認定しているルーイは大喜びでベロベロと顔を舐め回した。


「うわっ、ルーイ! 分かった、もう起きる、起きるからっ‼ やめっ……」


大騒ぎするステフを横目に、身支度を終えたライが一足先にテントを出た。朝食の確保に向かったのだろう。デューイがその後に続く。


欠伸を噛み殺しながら身支度するステフに、櫛を取り出して髪を梳き寝癖を直してやる。ステフはお返しにと、何時もの様に梳った髪を紐で結ってくれた。


村の広場に出ると、朝食のトレーを持ってライが待っていた。


「ヴィル、ステフ、こっちだ」


よくある椅子代わりの丸太を並べた食事スペースとは異なり、素朴な造りの食卓と椅子がある。魔物に破壊された家から持ち出した物だろう。


ライの向かい側に腰を下ろすと、デューイが朝食トレーを前に置いてくれた。お礼に、パンと肉片をやる。デューイは口をモグモグさせたまま、ルーイと連れ立ってヒューイの所に行った。ヒューイは例の如く狩りに行ったろうから、お裾分けが貰える。


朝食の席に、協会幹部達もやって来た。大規模討伐での食事は大抵が幹部との打ち合わせを兼ねている。


「では、『紅刃こうじん)』と『翠聖(すいせい)』ステフの三人は、今日から浄化を最優先で行ってくれ。進捗状況やらは、また夕刻に。魔物の討伐は他の冒険者達で当たる」

「了解」

「任された」

「頑張るよ」


ヒューイを呼び、昨日確保した湿地帯用の橇や履物を載せ出発した。ヒューイで上空から泥濘ぬかるんでいない道を探し、ルーイに中継させてセスを誘導する。そうして、瘴気溜まりのある湿地帯のほとりに辿り着いた。


ヒューイから降り、橇と履物を外す。ヒューイに周辺の魔物を狩るよう指示してデューイやセスと共に行かせた。ルーイは上空で待機させる。


「その網籠みたいなの、何?」

「これは湿地帯で足が沈み込むのを防ぐ履物だよ。こうして靴底に着けて上から紐で結ぶんだ」


履物を装備して、湿地帯に立った。橇を押しながら低い姿勢で進む。


「この橇、必要か?」

「これは湿地帯で漁する時の橇なんだ。浄化が長丁場になるだろうから、休憩したりする沈み込まない足場は要るだろう」

「成る程ね、流石は地元民」

「昨日から何だよ」


ルーイと連携して、瘴気溜まりのほぼ中央を目指す。結界バリアを張りつつ進み、湧いた魔物はステフとライが滅した。慣れない泥濘と低い姿勢で、歩みは遅くなる。


「はぁ……湿地帯って想像以上にキツイ」

「俺も久しぶりで辛いよ」

「こんな泥濘、騎獣も嫌がるぜ」


ルーイが「ギャオー」と鳴いて、瘴気溜まりの中心に着いた事を知らせる。橇を据え置くと、浄化に入った。今回は、魔力循環役のステフと、魔力譲渡役のライの二人掛かりで補助に付いてくれる。浄化範囲は過去最大級だが、休み休みこなそう。


橇の上に腰を落ち着けると、周辺に広く薄く魔力を流していった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ