表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
135/166

打ち合わせ

「今回の大規模討伐についてだが──」


議長役の協会幹部が、思わせ振りに言葉を切る。何やら勿体ぶった仕草で、やけに芝居掛かっていた。そして一渡り参加者の顔を見回すと、続けて口にした事に場が騒然となった。


「──今の処こちらに入っている情報では、瘴気溜まりが沼の上にあるらしい」

「沼って事は、その下は水なのか」

「足場が無いんだな」

「こりゃ厄介だ」

「どうやって浄化するんだ?」


以前、耳にした事を思い出した。過去に神殿から複数の神官を連れて来て浄化を施した際は、瘴気溜まりを取り囲んで魔力を流したらしい。


足場無しでも出来なくは無いだろう。但し、効率は良く無いが。


ただ、浄化はこちらに丸投げだろうに、沼地での作業の事など心配されても大きなお世話としか思えない。


「それから、出現している魔物は主に両生類型だが、それらを狙う鳥類型も多くなっている」

「湧く魔物よりも釣られて集まる魔物の方が困るな」

「遠距離攻撃の手段が無いと太刀打ち出来ないじゃないか」


重ねて告げられる情報に、打ち合わせの参加者がてんでんばらばらに感想を口にするので、全く収拾がつかない。此処に居るのは、この辺りでは名の知れた冒険者の筈だが、それにしては落ち着きが無く見える。


議長役の協会幹部は、街で顔は見掛けていたが、今迄主導的な役割をしている処を見た事が無かった。今回派遣された職員の中で一番職責が高かった為、リーダー的な立場になっているのだろう。


経験不足の為か、打ち合わせの場の筈が、只の雑談場に成り果てている。まだ大した情報も出ていないし、討伐方針も役割分担も示されていない。


これは駄目だ。話が進まない。


「店主さんが議長役をしたらどうだ」

「いや、俺はこうした大掛かりな討伐に携わった経験が無いんだ。街の職員に任せた方がマシだろう」


店主に水を向けてみるが、及び腰で話に乗って来ない。本当に取り次ぎ的な委託業務しかして来なかったらしい。


ざわめきが収まらない中、業を煮やしたライが机をバン、と打ち付けると辺りが一気に静まり返った。


「発言は、議長の許可を取れ! 議長は議事進行をしっかりしろ!」

「「「はい……」」」


田舎町のなあなあな空気が、瞬時に凍り付く。大規模討伐のような組織立った仕事に慣れていない町の冒険者達は、ライの剣幕に震え上がった。流石は上級冒険者の一喝、効果は抜群だ。


怒気を引っ込めたライが、仕切り直す様に協会幹部へ質問を投げ掛けた。


「協会の方で、今回の参加者の戦力把握は出来ているのか?」

「現時点での登録済み参加者の分は……」

「魔物の分布は?」

「瘴気溜まりを中心に、両生類型が広く現出してますね。鳥類型の方はランダムで把握出来ません」


漸く協会幹部が議長として機能し始めた。受け答えする店主や協会職員も、澱みなく言葉を紡ぐ。


「なお、瘴気溜まりに一番近い村は、魔物による被害で壊滅状態だ。生き残りが難民として町まで逃げ延びて来て発覚した。現在、その村の跡地が討伐の前線基地になっている」

「では、我々はその前線に移動してから対策を練るか」


余り得る物の無い打ち合わせを早々に辞し、ライやステフと共に町を出る事にした。このまま此処に居ても、益は無さそうだし、前線詰めの協会職員ならもう少し場慣れしているだろう。


連れ立って会議室を出ると、店主が後を追って来た。


「ヴィル、ちょっと耳に入れておきたい事がある」

「何だ」

「前線を置いている壊滅した村だが、此処から南東の森を抜けた所にある、沼の側の村だ。分かるか」

「まさか……」

「お前の口からはっきり聞いた事は無かったが、ウルリヒから聞いた話から推測するに……ヴィル、お前の生まれ故郷の村なんじゃないか」


店主はこちらを覗う様に見ながら、おずおずと告げる。確かに、ウルリヒに拾われた森の洞窟は、町の南東にあった。村の側には、此処ら辺りで一番大きな沼がある。


もう一生関わる事は無いと思っていた、生まれ故郷。


壊滅、と言ったか。


討伐の前線を置いている、と。


あの村が──


「ヴィル、顔色悪いよ。大丈夫?」


ステフに顔を覗き込まれて、我に返った。まだそうと決まった訳ではない。確かめなければ。


「大丈夫だよ」

「無理しないで」


気遣わしそうなステフの背をぽんと軽く叩くが、ステフの眉根は寄ったままだ。心配をさせてしまった。まだまだ精神修養が足りない。


階段を降りる際、ライから追い抜き様に頭をわしわし撫でられた。思わずムッとすると、ステフが手櫛で髪を直してくれた。


階下にある受付に再び顔を出すと、協会職員に声を掛けた。


「これから前線に移動したいんだが、地図はあるか」

「はい。これがこの辺りの略地図で、この印の所が前線基地の村です」


出された地図はかなりざっくりと描かれた物だったが。生まれて十数年過ごした土地を見誤る事は無い。


印のある、壊滅した村とは──やはり、生まれ故郷の村に間違い無かった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ