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町の協会支所

これから向かう町には、冒険者協会の支所がある。王都や街にある様な、規模が大きく独立した建物の支部では無く、他の施設に間借りするか他業種の者に委託する等した協会の出先機関だ。


その町の協会支所は、町唯一の宿屋兼酒場にあり、店主が委託を受けている。今回の大規模討伐依頼の拠点は、その支所という事になるだろう。恐らく、街から協会職員も派遣されている筈だ。


町に近付くに連れて、行き交う人も徐々に増えていた。歩く人々の他、荷馬車なども多く見掛ける。


「この辺は、もっと辺鄙……って言うか、長閑(のどか)な所だったんだが、やけに人が多いな」

「冒険者協会が動員かけてるんだから、そりゃ人出も多くなるさ」

「それもそうか」


思わず口をついて出た感想に、ステフが返答する。以前の記憶では閑散とした田舎町という雰囲気だったので、その印象が強いのだろう。ステフの言う通り、この大規模討伐に応じた冒険者の往来が増えていると思われる。


街の外壁に比べ簡素な造りの塀が見えて来た。目指す町に辿り着いたようだ。この辺りでは大きな部類の町だが、外門は開いたままで、人々はチェック無しに行き来している。


門を潜ると、記憶にあるのとそう変わらない鄙びた町並みが目に入った。メインの通り沿いに商店が幾つかある他は、然程大きくない民家が建ち並ぶ。南北街道沿いの町よりもずっと小さな規模の町だ。


「うん、町の様子は相変わらずだよ。よくある田舎の町って感じかな」

「外柵は村のよりは頑丈そうだけど、門番はいないんだね」

「前はいた記憶があるから、今は大規模討伐の対応で手が回らないんじゃないのか」

「何か、町の彼方此方に人が溢れてる感じ。冒険者には見えないし、他所の村から来たのかも」


町に入った所で、討伐参加者と思われる冒険者に混じり、一般の人も数多く見掛けた。魔物による被害を受けた村からの避難民が町に身を寄せているらしい。その人混みを縫って、騎獣に乗ったまま協会支所の前まで進んだ。


「え、宿屋? 先に宿をとるの?」

「いや、此処が町の協会支所なんだ」


驚くステフに、町の協会支所の説明をしながら騎獣を降り宿屋の扉を潜る。ヒューイはさっさと宿屋の厩舎に行ってしまった。デューイとルーイは宿屋の中まで一緒について来る。セスは、ライが手綱を宿の者に預けていた。


ステフは協会支所も無い村の出身だし、街に出て来てから支部で冒険者登録をしているので、支所の存在を知らなかったらしい。


流石に経験の長いライはそんな事は無かろうと思っていたが、物珍しそうにしげしげと眺めている処を見ると、知らなかった可能性もある。王都の生まれだと言うし、田舎の事情には疎いのかも知れない。


「あ、ヴィルさん、お待ちしてました」

「やぁ、君が今回こちらに派遣されて来たのか」

「此処で会うとは思わなかったよ、ミリーさん」

「そうね、ステフ君。次の会合までに討伐が終わるといいんだけど」


支所の受付に声を掛けようと近付くと、向こうから声が掛かった。街で顔見知りの協会受付職員だった。この受付職員とステフは、同じ趣味の会で活動しているらしいが、その内容はちっとも教えてくれない。


「今回の大規模討伐は、初めこちらの支所のみで行っていたんですが、どうにも事態が収拾出来ず協会本部から梃子入れがされたんですよ。私達もその一環でこちらに来たんです」

「成る程……」


受付職員と話す後ろで、街から来た協会職員数人が頷いている。その更に後方から、協会幹部が顔を見せた。


「おう、来たか『紅刃(こうじん)』『翠聖(すいせい)』こっちで打ち合わせるから上がって来てくれ」

「おう」


協会幹部が手招きし、ライが片手を挙げて応じる。挨拶を交わしながら進む彼らに続いて階段を上り、二階にある部屋ヘと足を運んだ。


その部屋は、元々は客室だったものを急拵えで会議室仕様にしてあった。宿屋の店主や町の有力な冒険者等が、もう既に着席している。店主は新たに部屋ヘと入って来た者達に視線を遣ると、こちらに気が付き目を瞠った。


「どっかで見た顔だと思ったら、お前、ヴィルか?」

「ああ、久しぶりだな、店主さん」

「もう何年前になるか、ヴィルが此処で冒険者登録したのは……それはそうと、随分と大所帯だな」

「そうかい? こっちは上級冒険者『紅刃』のライで、隣は俺の伴侶のステフ、後は従魔達さ。大猿デューイと羽根竜のルーイ」

「上級冒険者? 伴侶? 従魔達?? ……見ない間に色々あったみたいだな、ヴィル」


冒険者ウルリヒに保護された直後の頃しか知らない店主から見れば、今の自分は変わり過ぎていて頭が追い付かないだろう。唖然とした表情に、苦笑いで返す外無かった。


当時はまだ背も今より低かったし、躰付きもヒョロヒョロで頼り無く、とても冒険者向きには見えなかったと思う。我ながら、よく今迄冒険者を続けてこれたものだ。


「昔話は置いといて、まずは討伐についての情報を摺り合わせようか」


そう声掛けすると、協会幹部が音頭をとって打ち合わせが始まった。




ミリーさん達の趣味の会については、番外編『萌える女達の集い』をご参照下さいm(_ _;)m

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