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再会と和解

誤字修正しました(^.^;

家を出てから走ること暫し、いつの間にか街中でも普段は足を運ばない地区に来ていた。人通りを避けて進むうちに、自然と街の北側にある高級住宅街に入っていたようだ。この辺りは一軒一軒の区画が大きく、建屋もその周りの庭園も手の込んだ造りで、我が家の周辺とは雰囲気が違う。


そんな中、街中とは思えない様な鬱蒼とした木立が見えて来た。他の邸の何区画分もあろうかという規模の木立で、何故こんな街中にまるで森の様なものがあるのかと、唖然として見上げた。


誘われるように木立に分け入り、奥へと進む。植生は東の森に近い。街の風景が目に入らなくなり、周囲の喧騒から完全に遠ざかった辺りに、ポツンと古びた小さな庵があるのが見え、足を止めた。


その時、庵の裏手から出てきてこちらへと来る人影があった。


「おや、こんな所で珍しい顔に会う」

「アーヴァイン?」

「ようこそ我が庵へ、ヴィルヘルム。どれ、茶でも振る舞おうかの」


その人は、以前に東の森で知り合ったハーフエルフのアーヴァインだった。


アーヴァインに招き入れられた庵の中は、狭く雑然としながらも不思議と居心地は悪くない。それは部屋中に立ち籠める薬草の匂いか、はたまた主たるアーヴァインの人柄だろうか。


勧められた椅子に腰掛け、振る舞われた茶を飲む。ご多分に漏れず、出された茶は薬草をブレンドしたものだった。素朴で心安らぐ香りがする。


「この街に住んで長いが、こんな場所があるとは知らなかった」

「それは、我の認識阻害(インビジブル)が掛かっておるからじゃな」

「そんな術が掛かっていたのか……なら、俺は何故此処に入れたんだろう?」

「魔力の感受性が強いか、極端に弱くてズケズケと入り込めるか、何方かじゃの。因みに、ダールは後者じゃった」

「成る程……らしいな」


静かな環境でゆったり茶を飲んでいると、先程迄の荒ぶった感情が波の引くように落ち着いてくる。頃合いを見て、アーヴァインが問い掛けて来た。


「今日は連れが居らぬようじゃの」

「ああ」

「どうした。喧嘩でもしおったか」

「喧嘩と言うか……一方的に俺が腹を立てて飛び出して来たってところかな……」


頬を掻きながらそう言うと、アーヴァインがふっと笑い言葉を継いだ。


「自らそれを言えるのは、もう頭が冷えて来たからじゃろうかの。さて、何があったか聞かせてくれるか」

「大したことは無いんだ。家族と喋っていて、俺の出自に関して話が及んだ時、それに答えられなかっただけの事さ」

「大したことないと言いながら、腹を立てて家を飛び出す程に心を乱すものがあったのじゃろ」

「そうなんだよな……何であんなに腹が立ったんだんだろう」


今、思い返しても、何故あれ程頭に血が上ったのか分からない。自分は、己の出自を知らない。最近になって分かって来た事もあるが、未だ分からない事の方が多いのだ。それに触れられるのが、思いの外堪えるらしい。


「ヴィルヘルム、何故か分からなぬという事を突き詰めなくて良い。自ずと分かって来よう。今、肝心なのは荒立てた物事を収めるに尽きる」

「ああ、そうだな」

「帰って、相手に謝れそうか」

「……努力する」

「ん……誰ぞ来たようじゃの」


アーヴァインが立ち上がり入口の扉に向かうと、程無く戸を叩く音がした。控え目で自信無さ気な音だった。


「今日は客の多い日じゃの」


扉を開けると、其処にはライの姿があった。恐らく、地面に残る魔力の残渣を追って此処迄来たのだろう。


「こちらにヴィルヘルムが来ていないか」

「お主は何者じゃ」

「俺はラインハルト。ヴィルヘルムの同居人だ」

「我はアーヴァイン、この庵の主でヴィルヘルムの知人じゃ。入られよ」


アーヴァインに招き入れられたライは、おずおずと庵の中に足を踏み入れた。こちらと目が合うと、はっとして何か言いかけたが、言葉を飲み込み口を噤む。アーヴァインは物が載っていた椅子を一つ空け、ライに勧めた。それから薬草ブレンド茶を人数分淹れ、再び元の席に戻った。


「ラインハルトはヴィルヘルムを迎えに来たのかの」

「ああ。ヴィルの魔力を追って来たら、此処に着いたんだ」

「魔力を追って……お主は魔眼持ちかの」

「そうだ」

「成る程……通りで……」


アーヴァインはライに、この木立全体に掛かる術の説明をした。普通ならこの木立が見えていても認識せずに記憶にも残らず流してしまうらしい。偶々、魔力持ちが連続して此処を見付けて入り込んだという訳だ。何だか申し訳無い気持ちになった。


「静かに暮らしているのに、済まない」

「いや、偶にはこんな日もあろうて」


アーヴァインは微笑み、こちらの謝罪を受け入れる。そして、こちらとライとを見遣り、小首を傾げた。


「それで、お主等は如何に事を収める」

「あー……ごめん」

「いや、俺もズカズカと踏み込み過ぎた。悪かったな」


大の男二人がペコペコと頭を下げ合う絵面は、端から見れば滑稽だろう。それでもアーヴァインは何食わぬ顔で受け流す。有難い事だ。


その後、暫く三人で和やかに茶を飲み雑談して帰った。帰り着いた我が家では、ステフから心配され、ウルリヒからは泣き付かれた。



ここに出てくるアーヴァインと、その伴侶ダールの話を短編で投稿しました(・∀・)


宜しければ、ご覧下さい(*´ω`*)

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