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閑話 ヴィルの知らない話

ステフはライに招かれて、裏庭に建つ離れに足を踏み入れた。思えば、自宅の敷地内だというのに、此処に来るのは初めてだ。


離れは母屋と比べ小ぢんまりとしている分、室内も間仕切り無しの一部屋のみで、辛うじて水廻りの設えがある位だった。その部屋には、申し訳程度の応接セットが置かれている他は、床面積の大半をやたら高級そうな寝台が占めていた。


「ライ、話って何だよ」

「まぁ、取り敢えず座ってからな」


ライに促され、ステフは二脚ある椅子の片方に腰掛ける。もう一方にライが座り、(おもむろ)に話し始めた。


先刻(さっき)の話、詳しく聞きたいんだが」

「フェルに話した事?」

「ああ」

「詳しくも何も、話した事以上には無いよ」

「まず、何故ヴィルは医師に()せられないんだ?」

「それは……」


ステフ、思わず口籠った。ヴィルが自身の性別を秘匿して、その秘密を大っぴらにしたくない事は承知している。その一環で医師とか産婆とか、躰を見られる可能性がある人物を避けていた。


そうまでして隠している事を、本人の許可無くライに告げるのはステフには躊躇われた。例えウルリヒの存在である程度の憶測はされようとも、ヴィルが公表を望まないなら敢えて口に出す事はしたくない。


「ヴィルの事は本人から聞いてくれ。オレからは言えない」

「成る程……じゃあ、その点は置いておくとして、ステフはどうして情報集めようと思ったんだ?」

「そんなの、成り行きさ。ヴィルの為に何かしてやりたくて、嫌がる事を避けて自分に出来る事をしていたら、そうなっただけで」

「我武者羅に動いて、結果オーライだったって訳か」

「そうなる、かな……」


まだ年若いステフには、知識も経験も無い。何が正解か分からないから、ただ只管(ひたすら)に、好きな人を想って自分に出来る最大限の事をしているだけだった。偶々、ヴィルとステフの得意分野がズレていて、今の処巧く噛み合っているに過ぎない。


「じゃあ、ライだったらどうしてた?」

「俺か……俺がその立場だったら、医師を引っ張って来てヴィルに怒られて、叩き出されていただろうよ」

「あはは……有りそう」

「だろ? ハハハ……」


ステフの問いに自嘲気味な返答をするライと、一頻り笑い合った。


ステフとライに、重なる処は殆ど無い。歳は親子程も違うし、性格もほぼ真逆。外見も派手な強面イケメンのライと穏やかな平凡顔のステフとでは、全く趣が違う。ただ、唯一の想い人を同じくするというだけの繋がりだ。


「ライってとことんヴィルと相性悪いよな。何でそこまで相性悪い相手を諦めきれないのさ?」

「さぁ、何でだろうな……初恋を拗らせたのかもな」

「は、初恋⁉ ライ、その歳まで恋した事なかったの?」

「おい、ステフ……お前、何気に失礼だな」

「いや、だって、初恋? ヴィルが??」


ステフの言葉に、ライは訂正を入れながら遠い目をする。


「正確には、大昔の恋心が拗れて、その想いがヴィルに重なったってところか……あの癒しの魔力、あの顔、あの翠の瞳……」

「魔力、顔、瞳……聖女ヴィルヘルミナ……」


ライがずっと大事に抱えてきた想いの先には、ヴィルの母と覚しき人がいた。


「俺が五歳の時、聖女に会った事がある。王都の神殿で」

「ああ、大きな町では全ての子供に魔力検査するって聞くね。ライもやったんだ」

「やったやった。その所為で魔力持ちなのがバレてエラい目に遭った」

「魔力持ちなんて羨ましいけど、あったらあったで大変なんだな」

「そういうもんさ」


暫くしんみりとした空気が二人の間を流れた。しかし。はたと気が付いたステフが口を切る。


「それなら、ライの好きな人って聖女ヴィルヘルミナじゃないか。ヴィルを聖女の身代わりにしてるの⁉」

「切っ掛けが聖女なだけで、俺が今、ヴィルに惚れてるのは間違い無い」

「でも、聖女に似てるから好きなんだよね?」

「なら、ステフはあの顔抜きでヴィルに惚れられるか? あの綺麗な顔を無視出来るかよ?」

「……オレも切っ掛けはあの綺麗な顔に見惚れちゃって、隠れファンしてたんだもんな。人の事言えない」


ステフもライも、互いの眼を見て頷き合う。


「切っ掛けはどうあれ、今はヴィルを好きで守りたいのは一緒だな」

「おう」

「オレはライを認める。受け入れるかはあくまでヴィル次第だけど」

「ありがとよ」


二人は何方からともなく拳を突き出し、軽く打ち合わせる。そして、ステフは母屋に引き上げ、ライは離れの寝台にゴロリと横たわった。


この離れには不相応な大きさの寝台は、ライの下心満載の衝動買いで此処に置かれている。いつか、この寝台が活躍する日が来るのだろうか。

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