家族の形
「「えぇー⁉」」
「声が大きい。ウルが怯えるだろ」
帰って来た二人にランディの件を話すと、案の定な反応が返ってきた。余りの大声に、抱っこしていたウルリヒもびっくりして固まっている。今にも泣き出しそうだ。我に返ったステフがこちらからウルリヒを受け取り、ヨシヨシと声掛けしながら揺すって宥めた。
「まぁ、叫ぶ気持ちは分かるがな。俺も驚いたから」
「だよな」
「一体、どういう事?」
ウルリヒを抱っこしたステフとライを食卓に着かせ、茶を淹れる。適当に摘んだハーブを乾燥させブレンドした自家製ハーブティーだが、気分を落ち着けるにはいいようだ。
「俺も先刻聞いたばかりで、まだ事情がよく分かってないんだ。フェルマーの祖父の伴侶だった人が残した手記を借りてきたから、これから読んでみるよ」
「ややこしいな……ええと、フェルマーの祖父って人が獣人族で、その伴侶って人が人族の男性なんだっけ」
「じゃあ、どっちもお祖父さんなのか?」
「男性でも産んだ方はお祖母さんになるのかな?」
「こんがらがるから、その辺は追求しないでくれ。俺も分からん」
説明を試みるも、二人からは最もな疑問が投げ掛けられる。自分でもよく分かっていない事を話すのは難しく、最後には匙を投げた。取り敢えず、出来る事からやっていくしかない。
「ステフ、暇をみてフェルに話をしに行ってやってくれよ」
「オレが? 何の話?」
「ええと、出産に際しての伴侶の役割的な?」
「ああ、ウルが生まれた時の話かぁ、分かった」
我が身を振り返ってみても、妊娠から出産、子育てに至る一連のことに、ステフを抜きにしては何一つ乗り切れなかっただろう。情報収集や心身両面でのサポートなど、その献身ぶりには感謝しかない。
翌日、夕食を一緒にと誘い合わせランディ宅を皆で訪れた。ランディと料理している間、ステフがフェルに体験談を話す。その傍らで、ライは従魔達とウルリヒを遊ばせていた。
「なぁステフ、俺はランディにも何をしてやったらいい?」
「フェルがランディを気遣ってする事なら、何でもいいと思うよ。オレ達の場合、ヴィルの体調不良が長かったし、不安がってたし、でもウチは特殊だからさ、医師とか産婆とか頼めなかったし……だから、その代わりにオレが情報収集したんだ」
「情報収集?」
「街の知り合いから出産経験者を片っ端から当たって、話を聞いて回ったんだ」
ステフが遠い目をする。つられて、当時の事を思い出した。原因不明の体調不良で気落ちしていた処で、それが妊娠初期症状と分かった事。その後も、長引く悪阻に悩み、苦しんだ。
自身の性別を秘匿していた為、医師にも相談出来ず、途方に暮れた。いざ出産となっても、産婆も呼べない。その不安を解消に導き、ずっと支え続けてくれたのがステフだ。
「妊娠中の注意事項とかお産の進み方、要る物、産んだ後の事とか、何でも。とにかく話を聞き情報を集めて、それをヴィルに教えた。それから、一緒にどうするか考えて、一つ一つ不安を潰していったんだ」
「成る程……ステフ、その若さで大したものだ」
「えぇー……えへへ」
フェルから褒められて、ステフは照れた様に笑い頭を掻いた。離れた所から話を聞いていたランディは、こちらを覗き込みながら小突いてくる。
「いいヒト捕まえたね」
「まぁな」
「照れる事も無いのか。流石と言うか、何と言うか……」
からかう様に言うランディにしれっと返すと、呆れ半分に笑われた。振り返り、ステフの方に目を遣る。和やかに話すステフとフェルの向こう側で、ライが何とも言えない表情をしていた。
食事が終わり、家に帰って来ると、ライが「ちょっと付き合え」と言ってステフを離れに連れ出した。その間にウルリヒを寝かしつけたり、寝支度を済ませる。ステフが母屋に戻って来たのは、とっぷりと夜も更けた頃だった。
「ステフ、何の話だったんだ?」
「男と男の話し合いさ」
「えぇーヤラシイ」
「そういう意味じゃないから‼」
幾ら聞いても、ステフはライとの話を教えてくれなかった。男同士の内緒話なんて、やっぱりヤラシイと思う。仲間外れなんて、拗ねてる訳じゃないから。