表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
127/166

家族の形

「「えぇー⁉」」

「声が大きい。ウルが怯えるだろ」


帰って来た二人にランディの件を話すと、案の定な反応が返ってきた。余りの大声に、抱っこしていたウルリヒもびっくりして固まっている。今にも泣き出しそうだ。我に返ったステフがこちらからウルリヒを受け取り、ヨシヨシと声掛けしながら揺すって宥めた。


「まぁ、叫ぶ気持ちは分かるがな。俺も驚いたから」

「だよな」

「一体、どういう事?」


ウルリヒを抱っこしたステフとライを食卓に着かせ、茶を淹れる。適当に摘んだハーブを乾燥させブレンドした自家製ハーブティーだが、気分を落ち着けるにはいいようだ。


「俺も先刻(さっき)聞いたばかりで、まだ事情がよく分かってないんだ。フェルマーの祖父の伴侶だった人が残した手記を借りてきたから、これから読んでみるよ」

「ややこしいな……ええと、フェルマーの祖父って人が獣人族で、その伴侶って人が人族の男性なんだっけ」

「じゃあ、どっちもお祖父さんなのか?」

「男性でも産んだ方はお祖母さんになるのかな?」

「こんがらがるから、その辺は追求しないでくれ。俺も分からん」


説明を試みるも、二人からは最もな疑問が投げ掛けられる。自分でもよく分かっていない事を話すのは難しく、最後には匙を投げた。取り敢えず、出来る事からやっていくしかない。


「ステフ、暇をみてフェルに話をしに行ってやってくれよ」

「オレが? 何の話?」

「ええと、出産に際しての伴侶の役割的な?」

「ああ、ウルが生まれた時の話かぁ、分かった」


我が身を振り返ってみても、妊娠から出産、子育てに至る一連のことに、ステフを抜きにしては何一つ乗り切れなかっただろう。情報収集や心身両面でのサポートなど、その献身ぶりには感謝しかない。


翌日、夕食を一緒にと誘い合わせランディ宅を皆で訪れた。ランディと料理している間、ステフがフェルに体験談を話す。その傍らで、ライは従魔達とウルリヒを遊ばせていた。


「なぁステフ、俺はランディにも何をしてやったらいい?」

「フェルがランディを気遣ってする事なら、何でもいいと思うよ。オレ達の場合、ヴィルの体調不良が長かったし、不安がってたし、でもウチは特殊だからさ、医師とか産婆とか頼めなかったし……だから、その代わりにオレが情報収集したんだ」

「情報収集?」

「街の知り合いから出産経験者を片っ端から当たって、話を聞いて回ったんだ」


ステフが遠い目をする。つられて、当時の事を思い出した。原因不明の体調不良で気落ちしていた処で、それが妊娠初期症状と分かった事。その後も、長引く悪阻(つわり)に悩み、苦しんだ。


自身の性別を秘匿していた為、医師にも相談出来ず、途方に暮れた。いざ出産となっても、産婆も呼べない。その不安を解消に導き、ずっと支え続けてくれたのがステフだ。


「妊娠中の注意事項とかお産の進み方、要る物、産んだ後の事とか、何でも。とにかく話を聞き情報を集めて、それをヴィルに教えた。それから、一緒にどうするか考えて、一つ一つ不安を潰していったんだ」

「成る程……ステフ、その若さで大したものだ」

「えぇー……えへへ」


フェルから褒められて、ステフは照れた様に笑い頭を掻いた。離れた所から話を聞いていたランディは、こちらを覗き込みながら小突いてくる。


「いいヒト捕まえたね」

「まぁな」

「照れる事も無いのか。流石と言うか、何と言うか……」


からかう様に言うランディにしれっと返すと、呆れ半分に笑われた。振り返り、ステフの方に目を遣る。和やかに話すステフとフェルの向こう側で、ライが何とも言えない表情をしていた。


食事が終わり、家に帰って来ると、ライが「ちょっと付き合え」と言ってステフを離れに連れ出した。その間にウルリヒを寝かしつけたり、寝支度を済ませる。ステフが母屋に戻って来たのは、とっぷりと夜も更けた頃だった。


「ステフ、何の話だったんだ?」

「男と男の話し合いさ」

「えぇーヤラシイ」

「そういう意味じゃないから‼」


幾ら聞いても、ステフはライとの話を教えてくれなかった。男同士の内緒話なんて、やっぱりヤラシイと思う。仲間外れなんて、拗ねてる訳じゃないから。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ