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伴侶の心得

大規模討伐依頼も峠を越えた。後は散発的な間引きと撤収作業のみとなり、招集された冒険者達は順次、引き上げる事となる。漸く街に帰れると、ホッと胸を撫で下ろした。


一方、昨日のコボルト討伐以降、ステフとライが傍から離れない。前線に戻ってからも、食事がてら協会幹部に報告する間も、両隣をがっつり固めている。二人を置き去りにして魔物の群れに特攻した事が、余程堪えたらしい。


テントに引き上げ休む頃になってもガードが弛まず、両側からべったり貼り付かれたまま横になる。いい加減鬱陶しい。これでは休まらない。


「頼むから、もう、あんな無茶はしないで」


ステフからはそう言って泣き付かれた。聞き捨てならない。


「無茶? 俺はキャリア十年の冒険者だぞ? 何言ってる」

「そうさ、無茶だ! ヴィルは唯一無二の浄化能力者だよ? 護衛より前に出るなんて、とんでもない!」

「何を──」


反論しようと口を開きかけた処で、それを遮る様にライも口を挟んで来た。


「ステフの言う通りだ。ヴィルは俺らに護られててくれなくちゃ困る」

「勝手な事を言う……」


人をどれだけ過保護扱いする気なのか。ストレス発散の為に暴れたのに、余計ストレスが溜まるなんて、一体何なんだ、どうしてこうなった。


翌朝、ヒューイに乗って街に戻った。ヒューイは自宅の厩舎に、ライやステフは冒険者協会へ報告にとそれぞれ分かれて出掛ける。こちらはデューイとルーイを連れ、自宅の裏手にあるランディの家にウルリヒを迎えに行った。


「ランディ、何時も急にウルを預けて済まない。助かるよ」

「いや、困った時はお互い様さ」


出迎えたランディは何時もよりゆったりした服装で、心持ち動作もゆっくりしている様に見える。居間に通され、香草茶や果物で(もてな)された。


「そう言えば、珍しくウルが飛んで来ないな」

「それがね……」


やけに静かだと思ったら、ウルリヒは迎えに来る少し前に昼寝し始めたらしく、別室で寝かされていた。通りで飛んで来ない訳だ。デューイは寝ているウルリヒに付き添うつもりか、その足元で丸くなった。


「すぐ起きると思うよ。それ迄、ゆっくりしていって」

「ありがとう。頂くよ」


二人で香草茶を啜りながら話していると、外から帰って来たランディの伴侶のフェルマーがのっそり居間に顔を出した。仕事帰りであろう、フェルマーの服には大鋸屑(おがくず)が付いている。


「よう、ヴィル。依頼は終わったのか?」

「フェル、お邪魔してるよ。お陰様で依頼は無事済んだ」


暢気(のんき)に挨拶を交わす隣で、ランディは口喧しくフェルマーの世話を焼く。


「もぉ、着替えてから来てよ。居間が大鋸屑だらけになるだろう?」

「寝室はウルが寝てるじゃないか」

「フェルの着替えはお風呂場に用意してあるから!」


ランディがフェルマーの背中を押して居間から追い立てる。フェルマーは笑ってランディに押されながら、離れる間際にランディの額に口付けて行った。残されたランディは、湯気でも出そうな程真っ赤になった。


「……その、ご馳走さま?」

「えぇと……あの……お粗末様でした?」


以前からランディには甘いフェルマーだったが、ここ最近の振る舞いは前にも増して糖度が高い気がする。住まいを森から街に移したり、仕事も時間を短く調整したり、ランディヘの過保護度が留まる所を知らない。


「ランディ、もしかして体調良く無いのか? フェルが異様に過保護だけど」

「まぁ、体調悪いっちゃ悪いかな……大した事無いよ。病気じゃないし。それより、ヴィルに折り入って相談があるんだ」

「相談?」

「実は、俺……身籠ったらしくて」

「はぁ⁉」


余りに衝撃的なランディの告白に、頭が追い付かない。こちらの戸惑いを余所に、ランディは言葉を続ける。


「ヴィルは出産経験あるだろう? 色々、教えて貰えると助かる」

「ちょっと待て、ランディ……ランディは男だったよな?」

「ヴィルもだろう? 同じさ」

「いや、俺はちょっと特殊だから」


混乱しながらも、何とか話を聞き出した。フェルマーが獣人族の血を引いており、その特性から条件さえ揃えば同性間でも妊娠可能なんだとか。フェルマーの祖父に当たる人が獣人族で、その伴侶が人族の男性だったらしい。現に、ランディも妊娠しているのだから、疑いようが無い。


「そうか、出産や子育てを見越して街に移って来たんだな」

「それに、経験者の側なら心強いし」

「ちょっと……いや、かなり違うと思うが……まぁ、協力するよ」


何でも、その伴侶だった男性が体験を手記に残しているという。ランディと一緒にそれを読み込んで、来たる事態に備えよう。


「あ、フェル。聞いたよ、おめでとう」

「ありがとうな、ヴィル。今度ともよろしく頼むよ。ランは初めての事だから、ヴィルがいてくれて助かる」

「ああ、俺に出来る事なら」


その後、着替えてさっぱりしたフェルマーからも重ねて協力を頼まれた。了承しつつお祝いを言う。話している内に昼寝から覚めたウルリヒを引き取って、家に帰って来た。


ステフが帰って来たら、この驚きのニュースを共有しよう。フェルマーには、ステフから伴侶の心得を語ってやってくれ。


ランディ達の詳細については、ムーンライトに投稿した短編『君と暖かな家を』をご参照下さい(^O^)/


ある意味、異世界BLあるあるですかね(=o=;)

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