フィールド討伐
中一日おいて、ダンジョン班はフィールド班の討伐に合流した。なかなか街に帰れない事とか、外野の雑音とか、諸々の鬱憤を晴らすべく討伐に打ち込む事にしよう。ストレス発散には、魔物相手に暴れるに限る。
朝になり、支度の整った者から順次、フィールドに出て行く中を、翼犬のヒューイに乗って出撃する。隣には、申し合わせた様に、大山猫のセスに乗ったライが居た。
「飛ばすから遅れるなよ、ライ!」
「心配無用!」
索敵を展開し、より多くの魔物がいる辺りを目標にして、ヒューイを走らせた。
「そろそろ見えて来るぞ」
「あ、あれかなー……あれは、んー……コボルト?」
暫く走った後、目視範囲に入った魔物の群れは、前にも東の森で遭遇した事のあるコボルトだった。ただ今回は以前のと違い上位種のいる群れらしく、系統立った動きを見せていた。きちんと守備を固めて無闇に突っ込んで来る事も無く、隊列を分け前衛や後衛、遊撃もいる。それに比して、群れの規模も大きかった。
「見るからに、前のと一味違うな。こっちも本腰入れてかからないと」
ヒューイから飛び降りて従魔達に指示を与えると、その場でコボルトを待ち受ける態勢に入った。
「ヒューイは群れの後方から突撃、デューイは側方から遊撃に回って。ルーイは初撃を任せるから、此処で待機」
「オレは?」
「ステフは俺の護衛ね」
「任せてー」
指示通りに散開する従魔達と入れ代わりに、セスに乗ったライが近付いて来た。
「ヴィル、俺の持ち場は⁉」
「ライはルーイの初撃が入り次第、自由に動いてくれて構わないよ。強いて言えば、デューイが左翼の遊撃に回ったから、右翼を任せたい」
「よし、任せろ‼」
やがてコボルトの前衛がルーイの攻撃範囲に入った。ルーイのブレスが炸裂する。
「ギャオー!!」
それを皮切りに、四方からコボルトの群れヘの攻撃が始まった。ライも従魔達も流石の攻撃力だが、上位種の指示がいいのかコボルト達の守りも固い。何時もより攻撃の通りが悪かった。真っ先にボスの首を獲っていたヒューイも、今回ばかりは後衛の守備が厚くおいそれと近付けないようだ。
一進一退の攻防が続く。現状を打破するには、やはり上位種の首を獲りたい。ここは奇策をとるのがいいかもしれない。
「ルーイ、来い!」
「ギョエー」
手を振り上げ、呼んだルーイの前足に掴まる。
「えぇっ、ヴィル⁉」
驚くステフを置いて、上空へフワリと舞い上がった。
「ルーイ、ボスの真上で離して」
「ギャオッ」
ルーイから離れると、下に落ちながら短剣を構え、上位種の首を狙う。落下の勢いに乗って剣を振り抜き首に斬り付けると、一撃離脱とばかりに上位種を蹴って後ろに跳んだ。自身には結界をしっかりかけておく事も忘れない。上位種を守っていた後衛の輪から転がり出て、再びルーイを呼ぶ。
「ルーイ!」
しかし、ルーイが来るより早くセスが駆け寄ると、ライに引っ張り上げられた。コボルトの群れから離脱しながら、ライの叱責を受ける。
「司令塔が最前線出てどうする! 持ち場を離れるな‼」
「そうは言っても、こうも膠着したら奇策に出なきゃ埒が開かないだろう」
「ヴィルが出るまでもない、俺を呼べよ!」
言い返すと、ライから更に怒られた。その上、哀しそうな目で見られる。いたたまれない気持ちにさせられるが、こちらにも言い分がある。
「俺だって冒険者の端くれだ! 護られてばかり居られるか!! 大体、お前ら二人の所為でストレス溜まってるんだ、暴れてやる‼‼」
そう叫ぶと、呼ばれて近くに居たルーイに手を伸ばす。ルーイに掴まり、セスの背から上空へ飛ぶと、再びコボルトの群れに特攻を仕掛けた。
コボルトの群れは、最初の奇襲で態勢が崩れ、そこから切り込んだヒューイが上位種の首を獲っていた。ボスが居なくなった群れは、最早数が多いだけの烏合の衆で、後は機械的に殲滅していくだけだ。
コボルト相手に暴れていると、いつの間にか隣にステフが並んで、盾を展開しコボルトの攻撃から守ってくれていた。ステフに目を遣ると、ちらりと恨みがましい視線が来る。ニヤリと不敵に笑い返した。
随分と時間は掛かったが、コボルトの群れを殲滅し終えた。間を置かず、剥ぎ取り作業に入る。今回も剥ぎ取りは魔石のみで、他は解体の苦手なライが炎で焼き払った。
ヒューイを呼び、前線に引き上げる。その道中で、ステフが背後から抱き着くと耳元で溢した。
「置いて行く事ないじゃないか」
「今回はストレス溜まってたから暴れたかったし、それに、ステフにも腹立ててるんだからな」
「……えぇ?」
「昨日の夕食、ライと二人して俺に何をした?」
「あ……あれ? ヴィル、そんなに嫌だった?」
「嫌だ」
「そっか……ゴメン」
謝ってから肩口に額を擦り付けるステフに、手を差し伸べて撫で擦り宥める。かなり落ち込んでいるようだ。少しはフォローしておくのがいいかもしれない。
「……嫌なのは、人前だった事だからな?」
「人前じゃなかったら?」
「嫌じゃないよ」
ステフは前線に戻るまでの間、背中に貼り付いたままだった。