魔力循環
再会に浮かれている所に、協会幹部へ連絡をしていたライが近付いて来た。少し手前で立ち止まると、焦点の合わない眼をしてこちらを見ている。あれは魔眼を使っているのだろうか。
暫くして、ふっと我に返った様に姿勢を正し、声を掛けてきた。
「幹部連中に帰還報告しに行くぞ」
そしてダンジョン班一行は、前線に詰めている協会幹部の許に向かう。第一報はライから通信魔道具でしていたが、改めて帰還報告をすると、疲れているだろうからと早々に解散となった。
報告がてら協会幹部から聞いた話では、フィールド班の方も順調に魔物を討伐出来ていて、この大規模討伐依頼が終わるのも近いという。早く街に帰りたい。
「そう言えばステフ、一緒に引き上げて来ちゃったけど、良かったのか?」
「オレ、遊撃役だから融通が利くんだ。でも、流石にそろそろ戻らなきゃだな」
ステフは名残惜しそうにぎゅっとハグしてから離れ、ヒューイに乗り討伐に戻って行った。
入れ代わりに、ライが近付いて来て腕を廻し引き寄せる。
「ステフのお陰で、ヴィルの体調不良の原因が分かったよ」
「何? 先刻、魔眼でこっち見てたよな」
「後で説明してやるから、今は休め」
そう言うなり、自前のテントに押し込まれて寝かされた。ライも一緒になって横になり、懐に抱き込み魔力を補充してくれている。以前なら抵抗があったこの体勢も、余りにも度々される所為かいつの間にやら慣れてしまった。
「……ん? 前と何か違うような……」
「ステフの真似をしてみた。楽になったか?」
「ああ。だけど、何処が違う? 真似って?」
浮かぶ疑問点を矢継ぎ早に投げ掛けると、ライは笑って背を撫でながら返答した。
「要するに、ヴィルは自力で魔力を循環させるのが下手くそなんだ。元々の魔力量が多くて、周囲にだだ漏れしてる位だし、それに、俄仕込みで魔法の出し方だけ覚えて、基本をすっ飛ばしてるし」
「教えたのライだろうが」
「まぁ、そうなんだがな。そんなこんなで、今迄はヴィルが単独で魔力循環する機会がなかったって訳だ」
ちょっと不貞腐れると、宥める様にライが頭をポンポンと叩く。
「だから、いざ魔力切れになってしまうと、外から受け取る魔力を自力で循環出来ずに只管溜め込むしかなかった。オマケに、ヴィルは魔力の器がバカでかいから、なかなか溜まらない。それで体調不良が長引いたんだ」
「不調の原因は分かったけど、それとステフがどう絡むんだ?」
「ステフはヴィルと真逆だ。元々は魔力が無いに等しいステフが、ヴィルからだだ漏れの魔力を浴びる様に受けて魔力発現し、どうにかこうにか使える迄になった」
「……で?」
「だが、ステフの器は極端に小さい。ヴィルに合わせる為には、少ない魔力を最大限効率良く巡らせて威力を補う他なかった。ステフは必要に迫られて魔力循環が巧みになったんだろう」
「それって……」
「つまり、お前ら二人分の魔力循環をステフが一手に担っていたって事だ」
衝撃だった。知らない処で、ステフに随分と負担をかけていたらしい。少し気分が落ち込む。すると、ライはポンポン叩いていた頭を、今度は慰める様に撫で始めた。雑で大雑把な癖に優しい手付きだ。
「別に落ち込む事は無いさ。ステフが魔力発現したのはヴィルのお陰だし、魔力循環をステフが肩代わりしていたのだって無意識にやっていた事だろうし、お互い様って事だ」
「でも……」
「これから追々、俺が基本から叩き込んでやるよ」
「嫌だなぁ。ライの教え方、キツいから」
ライと初めて会った頃の、魔力訓練を思い出して気が重くなった。そして、疲れからか、撫でられる手が心地良かったからか、ゆるゆると眠りに落ちていった。