ダンジョン班の帰還
往路で間引きとマッピングをしっかりしていたお陰か、復路はかなり楽に進めた。時折、再出現した魔物とかち合う位で、実に平穏な道行きだ。回復が思わしくなく碌に歩け無い為、ずっとデューイに抱えられたお荷物状態だったが、これなら然程気に病まずに済む。
こまめに休憩をとりながらでも、行きの倍以上速いペースで進んでいる。この分だと、明日にも地上に戻れるだろう。
「ヴィル、今回は魔力の回復が何時もより遅くないか?」
休憩の度に魔力譲渡してくれるライが、こちらの顔を覗き込みながら言う。
「そうだな。言われてみれば、何時になく遅い」
「此処では治療もままならない。地上に戻る迄は耐えてくれ」
「了解。戻ったらゆっくり休むさ」
荒れ地の階層をさくさくと通り抜け、草原の階層も最短距離を進んで行き、今日は階段手前の安全地帯で野営する事になった。
「ヴィルは休んでいろよ、言う迄も無いが」
「解ってる」
「回復の遅い原因、思い当たる事はあるか?」
「さぁ……今回は瘴気が濃かった位じゃないか?」
話す間に、デューイから地面に下ろして貰うが、立っていられずヨロヨロと座り込み、そのまま地面に突っ伏して眠ってしまった。
次に目を醒ました時には、地面では無く毛布の上に横たえられていた。背後にはデューイのモフモフとした毛皮を感じる。そして、正面にはモフモフとは無縁の筋肉質な胸板がある。いつかの再現かの様なシチュエーションだ。
「……ん……起きたのか、ヴィル?」
「ああ」
「野営地に下ろすなり眠っちまったんだぞ、お前は。躰の調子はどうだ?」
「頭がクラクラする」
「まだ魔力切れから回復しないのか。困ったな」
そう言うと、ライはぎゅっと抱き込む腕に魔力を流す。じわりと染み込む魔力は温かく心地よい。なのに、砂地に水を撒く様に、全然魔力が足りない状態が辛かった。
翌朝、皆が起きてくると、態勢を整えて階段を上がり洞窟型階層に入った。此処を脱けたら地上に戻れる。一段と進むペースが上がった。
「もうダンジョンは見飽きたー! 早く帰りたいー‼」
「文句言ってないでさっさとゴブリン斃すッスよ」
もう再出現の魔物位ではライとルーイの出る幕は無く、同行パーティーがサクッと片付けていた。
「あー……行きに通路を埋め尽くしてた鼠、もう無いー」
「ダンジョンあるあるだよな」
往路では斃した魔物の屍が至る所で累々としていたが、既にダンジョンが吸収したのか、ガランとした空間が続いている。狭い通路を潜り、幾つもの広間を通り過ぎて行く。再出現した魔物は、この階層に元々いるであろう弱いものばかりだった。
最初に入った時には魔物で溢れていた大広間は、今では数体のコボルトやゴブリン、それとスライム位しか見当たらない、だだっ広い空間となっていた。その魔物達も、レベルの違いからか近付く事も無い。無視して先を急ぐ。
地上に戻って、ホッとする間もなく前線に向けて移動する。ダンジョン内とは違い、地上では通信魔道具が使える。ライが小型通信魔道具を取り出し、早速前線詰めの協会幹部に帰還の報を入れていた。その隣で自分は真っ先にステフヘと通信を入れた。
「ステフ、聞こえる?」
『ヴィル、ダンジョンから戻ったの?』
「ああ、今、地上に出たところ」
通信を切るより早く、ヒューイが駆けて来るのが見えた。
「ヴィルー‼」
ステフがヒューイの上から飛び降りて来る。デューイに抱えられたまま手を広げて待っていると、ステフがデューイから掻っ攫う勢いで抱き上げた。
「流石は街の名物カップル! お熱いなぁ」
「街起こしイベントの人前結婚式を思い出すよ」
「いやぁ、眼福眼福」
煩い外野の雑音も、今は気にならない。ステフに抱き上げられた途端、二人の間で魔力が勢い良く巡り出す。それ迄の魔力切れによる不調が嘘の様に引いていった。
「ヴィル、顔色が良くなってきたな」
ディートに言われて、体調が戻ってきた事を自覚する。我ながら現金だ。
「ステフのお陰かな。ありがとう」
「えーオレ? あー……どういたしまして……?」
再会の喜びに浸っていたステフは、いきなり礼を言われて訳も分からずドギマギしていた。