魔物流出の元凶
討伐に出た皆が基地に戻った処で、今後の方針を話し合った。
「取り敢えず、この草原地帯の間引きは完了と見ていいだろう」
「例の嫌な感じがする魔物は浚えたか?」
「今いる分は全部討伐したと思うが、下層階から上がって来てるって?」
「下層から来てるのは、その嫌な感じとかいう魔物だ。十中八九、下に何かある」
「それなら、態勢を整えて、明日から下層に全員で降りてみよう。方針決定は其処の状況次第だな」
主に上級冒険者の二人とディートが話し、同行パーティーの面々は神妙な顔をして口も挟まず聴いている。何か意見はないかと話しを振ってみた。
「君等の方からは何かないか?」
「いやー『紅刃』やら『翠聖』『韋駄天』やらのビッグネームとダンジョンに同行出来て嬉しいです!」
「そういう事じゃなくて……」
確か、中堅の冒険者パーティーと聞いていたんだが、まるで街の子供か冒険初心者か何かの様な反応をされて戸惑った。
「特に意見は無い、て事だな?」
「はい!」
何が嬉しいのか、満面の笑みで返答する同行パーティーの様子に、曖昧な笑みで頷き返した。
「じゃあ、今日の処は休むか」
「此処で?」
「いや、上に戻った方が安全だろう。明日の移動距離は少し延びるがな」
草原は間引きしただけで魔物はまだいる。安全面を鑑み、昨夜野営した上層階に引き上げて休む事になった。
一度魔物を殲滅した上層階は、まだ魔物の再出現は無い様で、草原地帯で結界を張り夜明かしするよりはいいだろう。
前回の野営と同じ様な位置を陣取り、各々就寝態勢をとる。ルーイは声を掛ける前にディートの所に行き、スリスリと懐いていた。こちらはデューイの毛皮でモフモフと癒されながら横になる。程なく眠りの中に落ちていった。
どの位時間が経ったのか、ふと目が醒めた。躰の正面にあったデューイの毛皮が背中側にある。そして、今正面にあるのは、少しもモフモフしていない硬い筋肉質な胸板だった。デューイの反対側にいた筈のライが、何故かこちら側にいて自分を抱き込んでいる。
「おい、ライ! お前、向こう側にいた筈だろう」
「寝てたら、デューイの寝返りに巻き込まれたヴィルがこっちに降って来たんでな、受け止めただけさ」
言われてみれば、自分が寝入った側とは反対側にいる。嘘では無さそうだ。
「そりゃどうも。元の位置に戻るよ」
「起きるにはまだ早い。このまま寝てろ」
「戻るから放せって」
「いいから寝てろ」
暫く押し問答した末に、根負けしてそのまま二度寝した。ライは嬉し気に抱き込む腕を強め、頭に頬擦りしている。思わず溜め息が溢れた。
翌朝、身支度と食事を終えると、階段を降り草原地帯へと向かった。ディートの案内で、下層への階段まで最短距離を進む。粗方の魔物は間引いてあったので、その道行きはスムーズだった。
「下層への階段って、アレか」
「うわー、何だ? 禍々しい」
階段が近付くと、如何にもおどろおどろしい靄が漂っている。その為、昨日のディートも階段の位置を確認しただけでそれ以上近付く事が出来なかった。
「見るからに瘴気溜まりがありそうだな」
「まずは、アレをどうにかしないと先に進めない」
皆をその場に留め置くと、単身瘴気の中に進む。浄化はこちらの十八番だ。衿元から魔力の発動媒体にしているペンダントを引っ張り出し、掌に握り締める。浄化の時に何時も思い浮かべるイメージ――――瘴気溜まりに落ちたステフを救い出す――――を胸中に、魔力を練っていき、それを一気に解き放った。
階段周りの瘴気は、あっという間に消え去った。何度も浄化依頼を熟して来た為か、これ位の規模の瘴気なら大して負担にならない。
「流石はヴィルさん、鮮やかなお手並み」
「これが『翠聖』の浄化か。こんなに間近で見られるなんて」
外野でボソボソと噂しているのが漏れ聞こえる。煩い。
「ほら、さっさと先に進むぞ!」
浮ついている同行パーティーに発破をかけ、陣形を整えて下層階に降りて行った。
第三層は、階層全体が荒涼とした荒れ地だった。つい最近、浄化に駆り出された砂漠と、街を含む中央平原との間にある荒れ地を思い出す。地上の荒れ地は、まだ所々に潅木の繁みやら草地やらが点在していたが、このダンジョンの荒れ地は瘴気の影響もあってか、更に殺伐とした風景が広がっている。
階段上で浄化した為か、一部の瘴気は消えていた。だが、まだ瘴気溜まり本体が何処かにあるらしく、どんよりとした空気に満ちている。彼方此方から聞こえる魔物の咆哮も、その場の禍々しい雰囲気を煽っていた。
「ヒューイがいないと、上から瘴気溜まりを探せなくて不便だ」
「いないものは仕方がない。出来る事をするだけだ。ダンジョン探索陣形で行くぞ!」
この階層は瘴気の影響で、斥候による事前探索が出来なかった為、全員で纏まって慎重に動く事になった。洞窟型ダンジョンの時と同じ陣形で、ソロリソロリと荒れ地を進む。
先へ進む程、瘴気が濃くなっている。瘴気溜まりがあるのは確実だ。
「来た! 魔物の群れだ‼ 右前方、数は十から二十」
ディートが叫び、皆一斉に警戒態勢をとった。