草原の攻防
一夜明け――――と言っても、ダンジョン内では昼夜の区別はつき辛いが――――ダンジョン班は態勢を整えると、下層へと向かった。
階段を抜けた辺りが大きな磐の様になっており、その他は一面がダンジョンの中とは思えない程の広々とした草原地帯だった。その草原の彼方此方から、魔物の気配がする。索敵にかかる範囲だけでも、数十を越える数がいた。
「此処から先は、ほぼ乱戦状態になるだろう。気を引き締めて行けよ!」
ライが全員に檄を飛ばす。皆、真剣な面持ちだ。
「ざっと索敵で見た限りでは、上層階で出た魔物と然程レベルは変わらんようだ。ただ、数が異様に多い。長丁場になるだろう。適宜、休憩をとりつつ頑張ってくれ」
ライに続き、皆に注意事項を話す。視線をディートに向けると、頷き返し彼が話の先を続けた。
「俺と斥候の彼はなるべく戦闘を避けて下層への階段を探す。ヴィルは結界で基地を維持しつつ休憩に来た者の回復役、残りはライを先頭に各方面に散開して間引きだ」
「行くぞ、野郎共‼」
「「「おう‼‼」」」
ライとルーイが先陣を切り、皆が飛び出して行く。それをデューイと見送り、基地となる此処に結界を張る。デューイは護衛や怪我人の搬送役として居残った。
結界を維持しながら、索敵で戦況を見る。随時、伝言魔法で魔物の多い場所に誘導していく。暫くすると、矢の切れた弓使いやら怪我した盾役やらがパラパラと休憩しに戻って来た。
「ダンジョン内の魔物って、確かにこの辺りに出る魔物と大差無いんだけど、何かしら違う気がするんだよな」
休憩に来た弓使いが、矢を補充しながら溢す。
「どんな風に違うんだ?」
「毛色が違うっていうか、凶暴っていうか、何か外の魔物と違うんだよ。上手く言えないけど」
他にも、休憩しに戻って来た面々が異口同音に魔物の印象について話す。弓使いと同じパーティーの剣士が、思い付きを口にした。
「何処かでこんな感じの魔物の違いがあった気がする」
「何ていうか……大規模討伐の時と似た様な感じ?」
剣士の言葉に、弓使いが応える。大規模討伐と聞き、思い当たる事があった。
「それって、普段そこらにいる魔物と、瘴気溜まりから湧いた魔物との違いの様なものか?」
「そう、それ! 正にそれだよ! 上手い事言うなーヴィルさん」
人を煽てる様に言う弓使いに苦笑しながら、考えを巡らせる。ダンジョンに大量発生した魔物と、瘴気溜まりから湧いた魔物が似通っているらしい。どういう事だろう。
再び草原へ飛び出して行く彼らと入れ違いに、最前線で奮闘していたライが休憩に戻った。情報交換の序に、先程の会話で出た魔物の違いについて話す。
「ダンジョン内の魔物が外のと感じが違うって聞いたが、ライはどう思う?」
「特に何とも思わずに斃しちまってたな。気を付けて見てみるよ」
脳筋な武闘派は細かい観察までは気が回らないらしい。
「魔物流出を収める為にも、原因究明は欠かせない。少し気に留めておいてくれ」
「了解。行ってくるぜ」
離れ際に、ライがわざとらしく耳元に顔を寄せて囁くので、思わず拳を繰り出すと、ガシッと受け止められた。ライはその拳を手に取り、握った拳を開いて頬に押し当てる。
「ステフにする程の甘々な対応は無理でも、もう少し俺にも甘くしてくれたっていいだろう、ヴィル?」
「生憎、甘々なのはステフで売り切れだ。ライには塩対応しか残ってない」
「ツレナイなぁ」
そう言って、ライは取った手の指先に口付けて離れた。気の利いた返しが出来ず悔しい様な、何か物足りない様な、奇妙な感じが胸の内でモヤモヤと渦巻く。隣にいたデューイが、宥める様に肩をポンポンと叩いた。
索敵範囲内の魔物が随分と数を減らしてきた頃、ディートが戻って来た。
「下層への階段を見付けたが、其処から魔物が上がって来てるみたいだ。もしかして、下層階に何かあるんじゃないか?」
まだまだ、ダンジョン探索は終わりそうにない。