ダンジョン班 打ち合わせ
前線にて先発隊と合流すると、その中に見知った顔ぶれがあった。
「アベル! 本隊で見掛けなかったから、今回の合同討伐は参加を見送ったかと思ったよ」
「ヴィルさん、街で冒険者なんぞやってて、こんな実入りのいい依頼書逃す訳無いっしょ」
「先発隊に同行してたんっすよ」
「ヴィルさんとご一緒出来て嬉しいです!」
アベル達はパーティーは、ステフと同郷出身者の集まりで、まだ経験が浅いが討伐依頼には果敢に挑んでいる。こちらの声掛けに、リーダーのアベルを始め斥候のネイサンや後衛のホリーが返答した。
「君らはフィールド班か?」
「ああ」
「丁度良かった。ステフがヒューイとフィールド班に回るから、同行してやって」
「ヴィルさんは?」
「俺は何故かダンジョン班に回ることになった」
「「「えー⁉ ヴィルさんとステフが別行動?」」」
そんな会話をする横で、当のステフはパーティーで前衛のグスタフと話し込んでいる。寡黙なタイプのグスタフだが、弟分のステフには気安いらしい。
遠くから、協会幹部の呼ぶ声が掛かった。ダンジョン班の打ち合わせだろう。
「呼ばれたから行くよ。じゃあ、またな」
「気を付けて」
「そっちも」
一声掛けて呼ばれた方へ歩く。その刹那、ステフがぐいっと引き寄せてきて、唇が額を掠めた。軽く微笑み返し、指の背で頬を摩りその場を離れる。後ろ髪を引かれるとはこの事だろう、と思った。
ダンジョン班の打ち合わせでは、協会幹部から同行するパーティーに引き合わされた。街では中堅冒険者に当たるパーティーで、ダンジョン経験はそこそこだという。
「うわっ、王都の最強戦力『紅刃』と街の有名人『翠聖』じゃないか!」
「今回は『韋駄天』も出るのかよ」
「協会の本気が見えるな」
同行パーティーの連中が、こちらを見てはヒソヒソと噂しているが、声が丸聞こえだ。ヒソヒソ話す意味が無い。
「そう言えば『韋駄天』って知る人ぞ知るダンジョンエキスパートだよな」
「それと同じくらい、パーティークラッシャーで通ってるけどよ」
「え、何で?」
「ダンジョン攻略中に、メンバー内で惚れられて迫られたり、メンバー同士で取り合いになったりで、パーティー崩壊するんだと」
「へえー成る程……」
聞こえて来る噂話があまり気分のいいものではない為、わざとらしく咳払いして辞めさせた。かつてのディートが、ダンジョンエキスパートと言われる程の研鑽を積みながら、ダンジョン攻略を諦めソロに転向した経緯が伺えて、やるせない。
「気を遣わせたな、ヴィル」
「いや、どうって事ない。俺だって似た様なもんだ」
「でもヴィルはあまり噂にはなってないよな?」
「俺の場合、報復がえげつないからな。下手に噂話に出来ないのさ」
ディートが続きを聞きたそうにしていたが、協会幹部がダンジョンの攻略概要を話し始めたので一旦棚上げになった。
「では、合同討伐ダンジョン班は、『紅刃』のライをリーダーとして攻略を開始する! 今回は、未発見のダンジョンだった為、事前情報が一切無い。なので、街でも言った通りダンジョン調査を優先して魔物流出が終わり次第、攻略は打ち切りにしてくれ」
話し終えた協会幹部が、ダンジョン班の面々をぐるりと見渡す。それに対し、皆が頷き返した。
「うむ、皆の健闘を祈る。安全第一で行ってくれ」
「「「「おう‼」」」」
また苦手な脳筋のノリで協会幹部とダンジョン班が盛り上がっている。少し引き気味にそれを眺めていた。
横で、同じく脳筋ノリに馴染めないディートが、先程の話を蒸し返した。
「ヴィル、先刻の話だけど、えげつない報復って?」
「気になる?」
「後学の為に、是非!」
こんなに食い付きがいいとは思わなかった。既婚者のディートが参考になるかは疑問だが、話の種にはなるかもしれない。
「俺、普段から薬草の採集が専門だろう? だから、仕事の序に幻惑茸を採って干したものを常備しておくんだ」
「幻惑茸?」
「掌サイズの、軽い幻覚作用と媚薬効果のある茸さ。干すと縮んでこのくらいになる」
腰の魔法鞄から現物を取り出し、大人の指位に縮んだ物を見せる。
「これを、夜這いに来た馬鹿を返り討ちにして押さえ込み、下の口から突っ込んでやるのさ。見物だせー?」
「本当にえげつない……」
「これくらいやり返さないと、キリがないぞ」
クスクス笑って隣を見ると、ディートがかなり引いていた。反対隣で、ライが声も上げずに肩を揺らし笑っていた。
因みに、幻惑茸の情報提供はダールだったりする。