『韋駄天』ディート
誤字報告、ありがとうございましたm(_ _)m
街の冒険者協会支部で、件の手付かずダンジョン周辺の大規模合同討伐が発表された。上級冒険者は、当然のように指名依頼がかかる。皆で協会に出向き、依頼を受ける。ウルリヒを預ける依頼をする為に、ランディにも同行して貰った。
受付カウンターで指名依頼を受ける事と、その間の託児依頼を済ませた。序に依頼内容も確認しておく。
「今回の討伐はダンジョンの周辺でいいのか? ダンジョン内は含む?」
依頼の範囲を受付職員に聞いていると、奥の部屋からお呼びが掛かった。
「ヴィル、質問の件だが、こっちもちょっと聞きたい事がある。こっちで話そうか」
支部長直々の呼び出しだ。ステフやライと共にカウンター奥の会議室へと向かった。
「今回の合同討伐の範囲について聞きたいんだけど」
「俺としては、そちらの御仁について聞きたいんだが」
「支部長、何を今更。『紅刃』のライなら紹介するまでも無いだろう」
「いや、そうじゃなくて!」
支部長の言い草が、この間のダールに似ている気がする。
「なんで王都の最強戦力が街に居るかが聞きたいんだ!」
「ライなら、先日からうちに押し掛けて来て住んでる。離れだけど」
「押し掛けて……離れ……って、上級冒険者が?」
支部長の問いに、三人が無言で頷き返す。支部長は呆けたように口を半開きにして固まっていた。
「そんな事より、依頼範囲について答えてくれ」
「そんな事⁉ ……まぁ、いいか。今回の合同討伐はだな……」
何だか疲れた様子の支部長は、漸くこちらの問いに答える気になったらしく、討伐計画を語った。
まず先発組が周辺の魔物を間引きしつつ前線基地を置き、本隊が合流してから周辺討伐班とダンジョン調査班に分かれて討伐を進める。ダンジョンからの魔物流出が止まった時点で、依頼は完了となる。その際、ダンジョン調査も切り上げになる。
「俺らはダンジョン班か?」
「全くの手付かずダンジョンで情報も無い。危険度も未知数だ。出来れば上級冒険者の君達にはダンジョンの方を任せたいんだが、どうだね」
ライの問いに、支部長が答える。
「しかし、上級とは言えダンジョンは専門じゃない。むしろ俺達はフィールド攻略向きだと思うんだが。取り敢えず、翼犬はダンジョンに入るのは難しいな」
懸念材料を口にすると、支部長も腕を組み考え込んだ。すると、ステフが意外な提案をした。
「それなら、オレがヒューイと周辺討伐班に回るから、ヴィルとライでダンジョンに行きなよ」
「え、俺とライで?」
「そういう事なら、喜んで! 任せとけ、ダンジョンアタックなら何回か経験ある」
「……ハァ……仕方がない。引き受けた」
数日の準備期間を経て、大規模合同討伐隊の本隊が街を出発した。その中に、知り合いの顔を見付け声を掛けた。
「ディート、君が合同討伐に加わるなんて珍しいな」
「いやぁ、斥候が足りないって支部長に泣きつかれてさ」
ディートは街の中堅冒険者で、『韋駄天』と異名を誇るスピード特化型だ。普段はその俊足を活かして、身一つで街道を駆け抜ける運び屋として名を馳せている。どちらかと言うと、自分と同じく攻撃力の乏しいタイプで、討伐には向かない筈だ。
「斥候か。……って事は、ディートはダンジョン班か?」
「ああ、その通り。俺、一応は一通りの斥候スキルはあるからさ。罠察知や解除、鍵開けとかはダンジョンでは必須だろう? この辺はダンジョンが少ないから、そういうスキル持ちがいないらしくて」
「成る程ね」
そう言われてみれば、自分を含め街の斥候型冒険者は、ダンジョン必須スキルを持ち合わせていない。ディートが身に付けている事の方が奇跡的だ。街の冒険者協会にとっては僥倖だろう。
「……で、そちらは?」
ディートの視線は、連れ立って歩くライに向けられている。またか。何度目かの紹介をする。
「うちの押し掛け同居人だよ。上級冒険者『紅刃』のライさ」
「押し掛け……上級冒険者が街に二人も……君ら、どういう関係なんだ?」
ディートは色々と頭の中に渦巻く思いを棚上げして、一番の疑問を口にした。
「知り合い」
「同居人」
「第二夫候補」
三人が口々に別の言葉を挙げたので、ディートは益々困惑した。その間も、三人して好き勝手にバラバラな事を言い合っている。
「知り合いは無いだろう、ヴィル」
「ライってば、自分で同居人は無いよ。もっと強気で行かないと」
「ステフ、ファンクラブ目線はやめてくれ」
その様子を見ていたディートは、溜め息混じりに呟いた。
「君ら三人がとっても仲がいいって事はよく分かった」
仲がいい、とは。解せぬ。
ここで登場するディートは、ムーンライトに投稿している短編「もう一度君と」に出て来ます(^^)
R18ですが、宜しければどうぞ\(^o^)/