押し掛け同居人
それから数週間、単発の討伐や採集等の子連れで熟せる依頼を幾つか請けているうちに、我が家の増改築工事は終わった。
「随分と早く仕上がったな」
「いやぁ、施主さんに工賃弾んで貰っちゃいましたんでね」
職人達はほくほく顔だ。ライの奴、幾ら注ぎ込んだんだろうか。
裏庭の厩舎の並びに小綺麗な離れが出来上がり、直接の出入口に母屋と繋ぐ渡り廊下もつけてある。渡り廊下は、母屋の勝手口へと繋がっていた。
母屋では、屋根裏部屋にベッドが置かれ、梯子の替わりに階段が設えられた。ウルリヒは其処が自分の部屋だと解ると殊の外喜び、ルーイに乗って何度も部屋を出入りした。
「ご機嫌だな、ウル」
「こんなに喜ぶなんてねー」
ウルリヒはあっさりと屋根裏部屋での寝起きを受け入れた。夜中に愚図る事もない。却ってこちらが少し寂しい思いをした。
ランディ達の街で住む家先も決まり、もうすぐ引っ越して来る。場所は、なんと我が家の丁度真裏で、表から行くと遠回りだが裏庭からは直ぐ行ける所だ。うちと似たような変形した敷地で、間口が狭く奥行きがある。建物も二人暮らしなら充分な広さだ。
「よくこんな物件を見付けてきたな」
「フェルの昔馴染が商人同盟にいてね、その人の口利きさ」
「持つべき物は友、ってところだねー」
街に来た序に寄ってくれたランディが、茶飲み話にそう言っていた。フェルもそう顔の広いタイプではないが、永くこの街を拠点にしているからか、それなりに人脈もあるのだろう。
冒険者協会によると、例の東の森に出たコボルトは、街から見て北東方向にある丘陵地帯から流れて来たらしい。其処に手付かずのダンジョンが有り、放置されていた為に魔物が溢れて、元いた魔物が追いやられたという話だ。
「また近々大規模合同討伐が組まれそうだな」
「長く家を空けるのも辛いねー」
「ランディ達が引っ越して来てくれて助かるよ」
ステフと居間のソファに腰掛けて話している時、ポケットの中の通信魔道具が鳴った。魔石に触れ、起動する。
「ヴィル、聞こえるか?」
「ライ?」
「ああ。工房に大口受注が入ったとかで随分と待たされたが、やっと通信魔道具が出来上がったんだ。明後日にはそっちヘ行けるぜ」
「こっちも工事は終わってる」
「楽しみだ。じゃあな」
通話を終え魔道具を下ろすと、こちらの顔を覗き込むステフと目が合った。
「ヴィル、ライがこっち来るの?」
「ああ、明後日には着くとさ」
「嬉しい?」
「別に」
ステフは笑ったような困ったような複雑な表情で、ぎゅっと手を握ってきた。
「……ちぇっ、独り占めも、もう終わりかー」
「ステフ?」
「オレだけのヴィルだったのになー」
「ライは只の押し掛け同居人だろう? ステフが気にする事ないよ」
「ヴィルってば、分かってないなー」
ステフは笑った。困ったような顔のまま。その表情が何時ものステフらしくない気がして、寂しい。
「ステフ、嫌なら嫌って言ってくれ」
「嫌って訳じゃないよ……嬉しくないだけで……」
「今からでも、ライに同居断るか?」
「断らなくていいって……そのうち、割り切れるから……」
夜、ウルリヒはいそいそと屋根裏部屋に引っ込み寝入った。デューイやルーイもウルリヒに付き添っている。
寝室で、ステフと二人きり、寄り添って眠りについた。
そして翌日、予定よりも早くライが街に着き、真っ直ぐ我が家にやって来た。
「これから世話になるぜ! よろしく」
「「いつ帰ってもいいからな」」
「そりゃあねぇだろ⁉」
我が家はこれから、少し賑やかになりそうだ。