戦い終わって日が暮れて
事後処理も終え、辺りはすっかり暗くなってきた。一旦、拠点に引き上げる事にして、皆で連れ立って歩き出す。
「慌ててぶっ飛んで来たから、夕飯食いっぱぐれたぜ」
「こっちもだ。用意しかけた夕飯があるから、仕上げて食べよう」
「人数が増えたから、先刻ヒューイが仕留めて来た魔猪も捌いて焼こうよ」
歩きながら雑談していると、少し前を歩くダールからモノ問いた気な視線を受けた。
「何だ?」
「ヴィル、そちらの御仁は?」
「情報通のダールさんが知らないとは思わなかった。上級冒険者『紅刃』のライだよ」
「それは知ってるさ。だから、何故此処に上級冒険者様がぶっ飛んで来るのかが聞きたいんだ」
「……偶々だ」
「ほぉ……そうか……」
ダールがジットリした眼付きでこちらを見る。鬱陶しい。これ以上、ヤツの大好物なゴシップネタを与えてたまるか。逆に問い返す。
「ダールさん、今日はやけに大人しくしていたな。アーヴァインさんと一緒だからか?」
「……別に、何時もとそう変わらんだろう」
「いや、大違いだ」
「……気のせいだろう」
「流石のダールさんも伴侶の前ではカワイイもんだな」
ダールが目を剥いてこちらを見るが、しれっと視線を躱す。普段、散々に噂のネタにされて掌の上で転がされているのだ、これ位の意趣返しは当然だろう。ダールは何か反論しようと口を開くが、言葉が出ないようだ。
「ダール、どうした?」
隣を歩くアーヴァインが、ダールの挙動不審を目にして声を掛けた。ダールはチラリと目を遣るだけで応えない。アーヴァインがダールの顔を覗き込むが、ダールは外方を向いた。
何なんだ、アレは。噂好きで煩いくらい口数の多いあのダールが、伴侶の前では別人のようだ。借りて来た猫か。
拠点を置いた森の閑地に着くと、テントに避難させていた夕飯を取り出し調理を再開した。竈に火を入れ、冷めてしまったスープを温め直し、火の周りに肉の串を刺す。隣で肉の追加にと、ステフが魔猪を捌いた。その肉は、アーヴァインとダールが手分けして切り分けたり串に刺したりしている。
その間、閑地から少し離れた水場に、ライが水汲みがてら騎獣達を連れて行った。戻って来ると、セスを労い毛繕いをしてやっている。ヒューイが羨ましそうに見ているので、後でモフモフしてやろう。
「温め直したのから食べようか」
デューイに手伝って貰い、鍋からスープを注ぎ分けて皆に配る。串焼きも、焼けた分から手渡していった。空いた場所に、次の肉串を刺していく。皆、空腹だったとみえて、黙々と腹に収めていた。
先に焼いてあった串焼きは、行き掛けに従魔達が狩った灰色狼の肉で、食べ慣れているせいか特に代わり映えしない味だ。後から追加した魔猪の串焼きは、オーク肉と似ているがあっさりめで、ハーブ塩と相性がいいらしい。美味しく感じた。
夢中で食べて、漸く人心地つく。
「そうだ、ランディに連絡しないと」
「協会にも一報を入れておいた方がいいよね」
小型通信魔道具を取り出し、ステフが協会にコボルト討伐の報告をする。こちらはランディに連絡だ。傍らに寄って来たヒューイをモフりながら、魔道具を起動する。
「ランディ、今、話せるか?」
「ヴィル! 大丈夫⁉ ウルはルーイと無事にこっち来れたから」
「ありがとう。こっちも討伐は終わって、腹拵え中だ。魔物の群れはコボルトだったよ」
「コボルト? 東の森に??」
「ああ。何処から流れて来たんだか……」
それから少し遣り取りして、ウルリヒは一晩預かって貰える事になった。明日、街に連れて来てくれるという。冒険者協会で落ち合う約束をした。ステフの方は、協会に明日詳細を上げる事で話しがついたらしい。
食べ終わった後は、討伐の疲れもあって、皆話すでもなく早々にテントへ引き上げた。騎獣達のお陰で、不寝番はしなくて済む。テントは二つ、アーヴァイン達のとうちのだ。ライは当然のようにうちのテントに入って来た。
「何でライがこっち来るんだ」
「おい、俺だけ外で野宿しろってか? ケチケチするなよ」
半ば強引に押し切られ、テントで川の字に横たわる。ステフとライに両側から抱き込まれ、狭苦しい。
「寝返りもままならない……」
「俺の上に乗ってくれてもいいんだぞ」
「オレの方にもっと寄っておいでよ」
「……おやすみ」
張り合う二人を放っておいて、目を瞑る。疲れからか、あっという間に眠りに落ちた。
夜中に、躰を弄られる気配で目を醒ました。より際どい方向に延びる手を払い退けて、溜め息を吐く。不埒な手は暫く大人しくしていたが、間をおいて再び這い寄って来た。もっと乱暴に払い退ける。数回同じ様な事を繰り返し堪忍袋の緒が切れて、その手の主をテントから蹴り出そうと足を向けるが、逆にその足を取られ引き寄せられた。
「いい加減にしろ、ライ!!」
躰が完全にライの上へ乗せられ抱き込まれて、身動き出来ない。腕を緩めようと藻掻いても、益々締め付けがきつくなるばかりで抜け出せなかった。
「少しぐらい、いいだろ? 減るもんじゃなし」
「俺の気力が減る! 放せ!!」
虚しい攻防を続けていると、寝穢いステフも目を醒ました。ぼんやりと目線をこちらに向ける。
「何してるんだよー」
「仲良ししてる」
「何処が!」
「オレもー混ぜてー」
寝惚けたままステフがライの上に乗り上がって来る。これには流石のライも敵わず、上に乗っかった二人を放り出した。その後、ステフを中にして川の字になり寝直したのだった。