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合同討伐の追加動員

何なんだ、あの男、強引で横暴なセクハラ魔神が!!

思い出すのも忌々しい。腸が煮えくりかえり、寝付けないまま夜が明けた。


翌朝、まだ日の昇りきらない頃に、合同討伐の追加動員組が街を出る。自前で馬を持つ者は少なく、大半は協会の用意した馬車で移動する。乗り込む順番待ちをしていると、急に襟首を掴まれて、列から引っ張り出された。


「ぐぇっ!何しやがる、殺す気か!」

「お前はこっちだ、ヴィルヘルム。俺から離れるな」


『紅刃』は外套の襟を掴んだまま歩き、これ以上首が締まらないように襟元を押さえながら渋々ついて行く。連れて行かれた先に、協会幹部達の馬に混じって大きな魔獣が繫がれていた。脚の速い魔獣を乗れるように飼い馴らしたものを騎獣と呼び、高位冒険者達が使役していると聞いたことがある。本物を目にするのは初めてだ。


「こいつに乗って行く。名前はセスだ」

「よろしく、セス」


大型の猫科動物に似た外見に、躰の大きさににあわぬつぶらな瞳をしており、おどろおどろしい見た目を和らげている。挨拶しながら手を差し伸べると、指をべろっと舐められた。頭や首元を撫でてやると、ゴロゴロ鳴るのは猫に似ている。恐ろしい外見に見合わぬ人当たりの良さで、仲良くなれそうな気がする。


「チッ、もう手懐けやがって……いいから、さっさと乗れ」

「可愛いな、飼い主と違って」


『紅刃』は先にセスの背に跨がると、片手でこちらの腕を引っ張り上げる。『紅刃』とのタンデムは気に入らないが、セスに乗れるのは嬉しい。協会支部長の号令で、移動が始まった。馬車の移動速度は遅い。騎獣に乗った数名の冒険者達が、先行して前線まで行く。騎獣も様々で、犬に似たものや馬に似たもの、鳥に似たものもいて、目に楽しい。猫科のセスは走りも滑らかで、初めて乗った割に疲れは少なかった。


途中、休憩を挟みながら先を急ぎ、まだ日のあるうちに前線ベースまで辿り着いた。ベースキャンプには、今日の討伐を終えて戻っていた先発冒険者達がおり、先発組の責任者の協会幹部が追加動員組を出迎える。


「応援ありがとうよ。このままじゃジリ貧だったところだ」

「状況はどうだ。瘴気溜まりの位置は分かるか?」

「おおよその見当はな」


騎獣を降りるなり、幹部と上級冒険者達は打ち合わせを始めた。手持ち無沙汰になって辺りを見回すと、ベースキャンプの端に見知った顔を見つけた。思わず小走りに近づくと、声を掛けるより先に気づいたステフが、こちらに駆け寄ってきた。


「ヴィル!どうしてここに?」

「久しぶり、ステフ。怪我は無い?」

「大丈夫」

「石、ありがとうね。今、細工師に預けてるよ」


ステフと再会し近況を伝え合っていると、いきなり襟首を掴まれ引き離された。


「ぐぇっ!この馬鹿『紅刃』、窒息するだろうが!」

「馬鹿はお前だ!俺から離れるなと言っただろう、ヴィルヘルム」


禄に話もできないままステフと引き離され、『紅刃』に引き摺られて幹部達のところに戻った。打ち合わせは終わっているようだ。何故自分が呼び戻されたのか分からない。不満げに『紅刃』を振り返ると、意地悪く口角が上がる。


「死ぬ気で魔力操作を覚えろと言っただろう。訓練だ」


この場に残っているのは、全員魔力持ちらしい。代わる代わる手を取られて魔力を流され、フラフラになる。中でも『紅刃』の魔力は別格で、その熱さと激しさは途轍もない。絶叫して身を捩るが、ヤツに手を離す気配はない。限界を超えて、気が遠くなる。薄れゆく意識の中、崩れ落ちる躰を受け止められる。懐かしく優しい温かさに、安心して身を委ねた。


目を覚ますと、心配そうに覗き込むステフの顔が間近に見えた。どうやら、倒れた時、ステフに受け止められて、そのまま横抱きにして介抱されていたようだ。こんな間近に触れ合うのは森での一泊以来で少し気恥ずかしいが、安らげるし嬉しくもある。ほんの数週間会えないうちに、子どもっぽかった印象が変わって見える。ずいぶん日に焼けて筋肉もつき、精悍な感じになった。


「ヴィル、大丈夫?」

「ステフ……ぐぇっ!」


またも襟首を掴まれて引き離され、締まる首を押さえながら、自分を猫のようにぶら下げる『紅刃』を睨みつけた。


「何しやがる、馬鹿『紅刃』!いい加減にしろ!」

「甘えんな、馬鹿が!とっとと魔力操作をモノにしろ」


再び始まる地獄の特訓に、涙目になりながら耐える。魔力を流され、その感触を掴み、自ら操作して流せるようになるまで、特訓は続くという。気絶する前と同じく、魔力持ち冒険者達が代わる代わる魔力を流す役を務め、その間ステフはずっと傍らに寄り添っている。『紅刃』の番になると、ステフは警戒心を露わにして肩を抱き寄せる。『紅刃』は不機嫌に眉根を寄せ、鼻で笑った。


「お守り付きとは、どこの令嬢だ、笑わせやがる」

「どっかの馬鹿が無理言うからだ」

「無駄口叩くのは、これが受け止められてからだ、ヴィル」

「ヴィルなんて呼ばれる筋合いはないぞ、『紅刃』」


『紅刃』に魔力を流されると、圧倒的な炎の奔流に巻き込まれて、息が止まる。歯を食いしばり耐えていると、背中からふわりと柔らかな優しい光に包まれるように感じて、力が抜ける。止まっていた息が吸えるようになり、落ち着いて魔力を受け止められた。相変わらず、熱さと痛みは絶えないが、肚の底から力が湧き上がり、押し返せそうな感触があった。背中の温もりに勇気づけられて、徐々に力を加える。限界を超す寸前に、魔力の押し返しに成功した。目の前の『紅刃』が少し驚いたような表情を浮かべる。得意気に笑ってみせるが、気力が持ったのはそこまでで、間もなく意識が途切れた。

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