異変
一通り採集を終え、拠点に戻って来た。流石は薬師の秘匿する群生地での収穫だけあって、その量が普段の採集とは格段に違う。
「収穫した薬草、どうせダールさんの所に納めるんだ。もう一緒くたに纏めてしまうか?」
「ヴィル次第だ。依頼料を何時も通りでいいのなら構わんぞ」
「これからもこの群生地で採集していいなら」
「それこそ、森は誰のものでも無いんだ、構わんさ」
という訳で、それぞれの収穫を一纏めにして、種類毎に仕分けしていく。今回は量もさることながら、その種類の多さが際立つ。何時もの採集地とは比べ物にならない。
「見慣れない種類の薬草があるな」
「ああ、それは他の薬草で代用が利くから、滅多に名指しで依頼しないヤツさ。でも、薬効成分はともかく、これを使う方が味的に良くなるんでな。見付けた時には採っておくんだ」
「成る程ね……」
ダールと雑談しているうちに、薬草の仕分けが終わった。
「やはり大勢でかかると、目標達成まであっという間だな」
確認作業をしていたダールが、ほくほく顔で言う。
「じゃあ、一泊する迄もないか?」
「いや、もう少し余裕をもたせたいから、明日一日作業に充てるよ」
目標達成したならもう引き上げるのかと思ってダールに問えば、野営はするつもりらしい。
「なら、手分けして準備だ」
「オレ、テント張るから、ヴィルは竈作って」
「我は水汲みかの」
三人が自主的に役割分担して準備に取り掛かるも、ダールはウルリヒを抱っこしてニマニマしながら動かない。ウルリヒも愚図ることなく大人しくしていた。ならば、その様に使うまでだ。
「それでは、ダールさんはそのままウルの子守りね」
ダールは戦力外と見做して、皆それぞれの分担を熟した。従魔達も特に指示せずとも周囲の警戒を兼ね狩りに出る。ステフがテントを張る横で簡易竈を組み、荷物から食材を出して食事の支度に掛かった。
アーヴァインに汲んで貰った水を鍋に入れ火にかけ、干し肉と乾燥野菜の野営定番スープを作る。アーヴァインには、行きに狩って捌いておいた魔物肉を切り分け串焼きにする作業を頼んだ。テントを張り終えたステフは、荷物から堅焼きパンを取り出し炙っていた。
「おや、奇妙な気配がする」
作業の手を止め、アーヴァインが立ち上がる。その視線の向かう先に索敵を展開させると、従魔達が集まって警戒態勢になっている。さらにその先へと索敵の範囲を拡げてみると、何やら不穏な気配が蠢いていた。
「魔物の群れか? 何の魔物だろう」
「この気配は、恐らくゴブリンかコボルトの類であろうな」
「どっちもこの辺りは生息域じゃないのに」
ゴブリンもコボルトも、単体では然程強い魔物ではないが、群れを成すと格段に厄介な存在となる。以前、討伐支援に向かったゴブリン上位種のいた群れの事が、否が応でも思い出され、ぶるりと震えが走った。
「不測の事態だが、今から救援を呼んでも間に合わない。この面子で乗り切るしか手が無いぞ」
「逃げられないか?」
「この距離じゃ、追い付かれるのが関の山だ」
「せめて、ウルだけでも逃がしたいな」
「ルーイ!」
羽根竜のルーイを呼び、ウルリヒを乗せて言い聞かせる。
「ランディの所に行け! ウル、しっかり掴まってるんだぞ」
ルーイを見送り、小型通信魔道具を取り出した。
「ランディ、聞こえるか?」
暫く待つと、返答があった。
「ヴィル、どうした? やけに切羽詰まった声だけど」
「緊急事態だ! 東の森でゴブリンだかコボルトだかの魔物の群れが出た。急遽、ルーイに乗せてウルをそっちヘ逃がしたから、保護して貰えるか?」
「了解! 冒険者協会にも知らせるよ」
通信を切り、改めて戦闘態勢をとる。作りかけていた食事は、いつの間にかダールがテント内に避難させていた。きっちり火も消してある。ぼやぼやしているようで、抜け目ない。
「アーヴァインさん、ダールさん、二人の得物は何?」
「我は弓だ。風術も少し」
「俺はメイスだ。盾も扱う」
「じゃあ、前衛はステフとダールさん、アーヴァインさんは後衛で、俺は中衛を務める。ヒューイ、群れの背後をとれ! デューイは後方の警戒を!」
テキパキ采配を揮うと、魔物の襲来に備え身構えた。