想いの行方
散々に人を振り回し好き放題したライは、通信魔道具用の魔石を狩りに行くと言って出掛けた。自宅に残ったステフと二人で、深々と溜め息を吐く。
「何時もの事だが、強烈な奴だ」
「人を巻き込むパワーと言うか、行動力と言うか……凄いよね」
ライの傍若無人さは何時もの事としても、今回の件で何に驚いたかといえば、その発想だろう。庶民の自分たちにとっては、宿にしても家にしても借りるものだ。家主から買い取るなど、端から考えもしない。
その点、ライは今でこそ平民扱いだろうが、元は貴族の出自らしいし、家も買うものなのだろう。後で買い取り額を聞いてみたら、自分にも払えない金額ではなかった。
確かに、自分も冒険者ランクが上がって依頼料を受け取った時、その額に驚いた覚えがある。ましてや自分よりも長く上級冒険者として活動してきたライにとっては、その程度は軽く贖える額だろう。
大人二人が黄昏ている横で、ウルリヒはルーイの背に乗せて貰い、ご機嫌で部屋中をフヨフヨと飛び回っている。その動きを目で追いながら、ステフがポツリと呟いた。
「……ライを受け入れるんだろう?」
「振り回されて疲れる」
「でも、ヴィルは惹かれてるよね」
「前ほど嫌じゃなくなっただけだ」
「捻くれてるなーオレには素直なのにー」
ステフはふふっと笑いながら、背中側から抱き込んできた。
「もう暫くは、オレだけのヴィルかな……」
「暫く? ずっとだろう?」
「……だといいな」
そう言って、ステフは首筋に顔を埋める。後ろ手にその髪を撫で、誰にともなく囁いた。
「苦手意識が慣れで薄まっただけなのにな……嫌いの反対が好きって訳じゃないのに……」
その囁きに対してか、ステフもまるで独り言のように耳元で話す。
「気が付いてる? ヴィル……嫌な相手には無意識に結界張って弾いてるよ。オレの見ている範囲内だけでも……ライは一度も弾いた事ないよね」
「そうだっけ?」
「きっと、魔力に自覚がない頃から、結界で身を守ってたんじゃないかな? ……でなければ、ヴィルがオレと会うまで無事な訳がないよ」
「無意識に弾いてたのか……」
「そう……で、ライは弾いてない……」
ステフに言われるまで気が付きもしなかった。無意識に結界を張って、意に染まない相手を弾いていたなんて。言われてみれば、昔からうんざりする程セクハラされてきたが、最後までされずに済んできた。それが持って生まれた魔力のお陰とは。
「ステフ、よく気が付いたな……俺、自覚なんてなかった」
「そりゃあ、ずっと見てるもの。ヴィルの事」
ステフの腕がこちらを抱き締める力を増し、それに応えるように寄り添う躰に身を預けた。
翌日から、我が家に職人達がやって来て増築作業を始めた。職人の中に魔力持ちがいて、土属性の魔力持ち職人が地面を均したりする基礎工事をし、風属性の魔力持ち職人が材木の切り出しや棟上げをするという。工事を大幅に短縮出来るらしい。
とはいえ、それなりに日数はかかる。その間、ずっと工事の騒音や振動、職人達の出入り等が続く訳だ。
「工事中、何処かに行ってようか」
「手っ取り早く、東の森かな?」
「取り敢えず、行くか」
南から帰って来たばかりなのに、寛ぐ暇もなくまた長期間家を空けるハメになった。