見送り
浅い眠りと覚醒を繰り返し、本格的に目が覚めると、もう外は薄明るくなっていた。旅の疲れからか、昨夜の話し合いのせいか、躰が怠重い。無理矢理上半身を起こして伸びをする。隣で寝ていたステフも、こちらの起きる気配につられてか、目を覚ましたようだ。寝穢いステフにしては珍しい。
「おはよう、ステフ」
「ヴィル、早いね」
ゆるゆると起き出すと、続いてステフも身を起こした。毎朝の習慣で、互いの身支度を手助けしあう。傍らの籠ベッドには、ウルリヒが寝ていた。昨夜はデューイに寝かしつけられ、そのまま朝までぐっすり眠っていた。ウルリヒも、久しぶりの我が家で落ち着けたのだろう。
「ウルリヒ、大きくなったよねぇ。そろそろこの籠ベッドが小さくなってきてる」
「子供用ベッドでも見繕うかな」
他愛もない会話をしながら、寝室を出る。朝食の用意でもしようかと思ったが、帰ってから碌に買い物もしていないので、食材が何も無い。
「朝食は中央広場で済ませるか。皆の見送りもしたいし」
「じゃあ、ウル起こして来るよ」
「寝かせたままでもいいんじゃないか? デューイに抱っこして貰って」
「なら、今から行くか!」
家を出ると、東大通りを中央広場に向かって歩く。朝は家に居なかったルーイが、いつの間にかふよふよと着いて来ていた。大方、ヒューイと朝の狩りにでも行っていて、戻って来たところに丁度出掛ける自分たちを見付けしれっと合流したのだろう。つくづく、ウチの従魔達は自由気儘だ。
途中で冒険者協会の建物前を通る。協会恒例の、朝の依頼争奪戦を勝ち抜いた冒険者達が、続々と建物から出て行くのが見えた。今は指名依頼を受けるばかりの自分達も、以前はこの群れの中に居た。そう思うと、この光景も感慨深い。
中央広場には、朝もまだ早い時間から開いている露店が数多くあった。広場の一角に空いたベンチを見付け、そこにウルリヒを抱っこしたデューイを座らせるとステフと二人で手分けして朝食を確保しに向かった。
「あ、ヴィルさん! 帰ってたんだね」
人混みの中で声を掛けられて目を遣ると、知り合いの冒険者アベルのパーティーで紅一点のホリーが手を振っていた。
「やあ、ホリー。久しぶりだな」
「ヴィルさんは依頼で遠くまで行ってたんでしょ?」
「ああ。南の国境付近まで行ってたよ。ホリーは今日、依頼?」
「それがさー今日は碌なの無くて、結局は常設依頼の間引き討伐なのー! またヴィルさん達とパーティー組みたいわー」
「そのうちにな」
世間話をしていると、離れた所からホリーを呼ぶ声がする。ホリーのパーティーの面々だ。その場で暇を告げ、買い物を再開した。適当に軽食や飲み物を見繕うと、先程のベンチに戻った。
ベンチには、先に戻っていたステフが口をモグモグさせながら待っていた。空腹に耐えかねて、買い込んだ串焼き肉を頬張っていたらしい。肉を飲み込み水を呷ると、こちらに向かってニカッと笑う。
「腹ペコでさ、先に摘まんでたよー」
「早かったな」
「ウルが泣いてないか心配でー」
「俺はそこでホリーと出会して立ち話してたから遅くなった」
「ホリーかぁ……アベル達は今日、依頼受けたのかな」
「いいのが無いってぼやいてたぞ」
食事しながら雑談していると、ウルリヒが目を覚まし愚図りだした。デューイからウルリヒを受け取り、抱っこして揺する。ステフがウルリヒの食べられそうなスープを口元に匙で運ぶと、勢いよく食い付いた。食欲旺盛で何よりだ。手の空いたデューイも、ルーイと串焼き肉にかぶり付いている。
朝食を終えると、北門に向かって歩き出した。昨夜、上級冒険者達の泊まった高級宿は、北大通り沿いにある。ゾロゾロと連れ立って歩いて行く先に、件の宿が見えた。宿から騎獣を連れて出て来る人影がある。
「あ、トールだ。タイミング良かったな」
丁度宿から出て来たのは、上級冒険者の面々だった。こちらにまだ気が付いていない様子なので声を掛ける。
「トール、レフ、おはよう」
「よぉ、ヴィル、ステフ、見送りに来てくれたのか」
「ああ。あれ? ライは?」
「昨日、遅くに宿をとったらしくてな。疲れたから先に行ってくれと伝言があったよ」
「へぇ……疲れたから、ね……」
どうやらライは街に居残り、昨日の話し合いの続きがしたいようだ。ライは何とかしてこちらに同居を承諾させて、言質を取るまで粘るつもりだろう。何とも言えない気分でステフを見遣ると、ステフも肩を竦めて首を振った。これは肚を括って掛からないといけないらしい。
「じゃあ、元気で」
「またな!」
騎獣に跨り遠ざかるトール達を見送り、北門を後にした。
スマホを機種変した為、入力に手間取りました。基本的には変わりない筈なのに、結構違いが出るんですね……(・_・;)