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行き倒れを拾った

なろうでは初投稿になります。


よろしくお願いします<(_ _)>



 


ある日、森の中、行き倒れを拾った。


まるで、熊の出てくる童謡のような話だ。自分の身に起きたこととはいえ、現実味の無さに呆れる。


その行き倒れは、街道から森の奥へと向かう小道の脇に、灌木へ半ば身を隠すようにしてうつ伏せに倒れていた。最初に見かけた時、屍かと思った。まだ腐臭は漂っていない。とりあえず、近づいてみて、耳元に声を掛ける。


「おい、大丈夫か」


返事はない。ただの屍のようだ。門衛に届け出るにしても情報が足りないので、少し観察してみる。簡素な布の服、古びた皮の胸当て、腰のベルトには剣の鞘だけがあり中身はない。ボサボサな髪は薄い茶色で、中途半端な長さだ。うつ伏せだから顔は見えない。そっと手を伸ばし、首筋に触れる。指先に脈を感じ、まだ息があると分かった。肩に手を掛け、揺さぶってみる。


「おい、おい、しっかりしろ。聞こえるか」


まだ返事はない。腕を差し入れ躰を転がして仰向け、上半身を起こす。顔が見えた。ぱっと見に、さして特徴のない、まだ幼さの残る顔立ちだ。成人したばかりの駆け出し冒険者だろうか。


「大丈夫か。しっかりしろ。聞こえるか」


躰を揺さぶりながら声を掛け続ける。返事はないものの、眉根が寄り身動ぎする。反応はあったから、しばらく休ませれば意識は戻るだろう。このまま放置するには忍びず、行き倒れを自分の拠点に連れ帰った。まだ育ちきっていない少年の躰ぐらい、抱き上げて運べたらよかったのだが、如何せんこちらの体格には荷が勝ち過ぎている。小柄で非力な自分には、肩を貸して引き摺るぐらいがせいぜいだ。見捨てるよりはマシだろう。


拠点にしているのは、森の中にある小さな空き地だ。いつも採集クエスト時に利用している場所で、街道からもさほど遠くはなく、水場もあり、自分一人なら充分な広さだ。そこに一人用のテントを張り、簡易竃を設えている。今回も薬草類の採集を請け負って、もう数日間ここに泊まりこんでいる。とりあえず、行き倒れをテント前に転がし、荷物から水袋を取り出した。


「水だ。飲めるか」


口元に飲み口を近づけると、僅かに口を開ける。そのまま飲み口を差し入れて袋を傾け、水を飲ませた。咽が上下し、水を嚥下しているのが分かる。よほど渇いていたのだろう。無意識に水を飲み干していく。袋が空になり、人心地ついたのか、飲み口から口を離し再び動かなくなった。テントから上掛けを引っ張り出して、行き倒れの躰に掛けてやる。先程より幾分、顔色が良く見える。ぐっすり眠っているようだ。


拾った行き倒れをそのまま残していく訳にもいかず、予定を切り上げて街へ戻ることにする。テントの床に今回採集した薬草類を広げて、種類ごとに分けて括る。幸い、依頼分は既にクリアしている。余剰も僅かにあるし、あと自分用にもう少し採りたかったが、また次に回せば済む。広げた薬草類を片付けて、簡易竃に火をいれた。小鍋を持って水場に行き、先程空になった水袋を満たし、小鍋にも水を張る。戻って小鍋を火にかけ、乾し肉や野草、乾燥野菜を入れてスープを作る。食べ物の匂いが食欲をそそったのか、行き倒れの目が薄らと開いた。灰色がかった水色の瞳が、こちらをぼんやりと眺めている。改めて顔をまじまじと見る。やはり、まだ若い。少年と青年の間くらいだろうか。顔立ちは整っている。だが、目鼻口などのパーツが小ぶりで、地味な印象が拭えない。せめて髪ぐらい解いて撫でつけたら、少しは見られるだろうに、行き倒れていたため縺れ放題な酷い有様だった。


「目が覚めたか」

「……ここは……オレ、いったい……」

「ここは森の中だ。お前は行き倒れてた。覚えているか」

「……なんとなく」

「とりあえず、食えるなら食っとけ」


スープを器に注ぎ分け、匙を添えて手渡すと、少年は恐る恐る口にする。一口食べて、目を見開くと、次々に匙を運んだ。どうやら口に合ったらしい。途中でパンも渡してやると、スープに浸して残らず平らげた。のんびり食べているこちらの分まで、物欲しげに見る。知らん顔して食べるが、居たたまれない。予備の携帯食を渡すと、嬉しそうに囓っている。その隙に食べ終えた。


「お前、遠慮ないな」

「腹減ってて、つい」

「名前は」

「ステファン。ステフでいいよ。お兄さんは」

「お兄さんね。そんな歳でもないんだが。俺はヴィルヘルム、ヴィルでいい」


食事の後、雑談がてらステフの行き倒れ事情を聞き出す。どうやら、ステフは見た目通りの駆け出し冒険者で、歳の近い同郷出身の五人とパーティーを組んで、討伐クエストに挑んだらしい。依頼は達成したものの、直後に格上の魔物に襲われて、散り散りに逃げた。その際、剣や荷物を投げ捨てて、身一つで命辛がら逃げ果せたという。それで、鞘だけが残っていたのかと、納得がいった。


「何が出たんだ」

「オーク」

「五人もいて、オークぐらい狩れないか」

「最初に一人逃げたら、次々に逃げ出してさ。オレ一人じゃ無理だから、結局逃げるしかないよ」

「……そうか。災難だったな」


もう街へ戻るには時間的に遅い。今夜一晩テントで過ごし、翌朝に引き上げることにする。鍋や器を濯いでしまい、竃の熾火で魔物除けの香を焚く。一晩なら、一人用のテントでも無理矢理二人寝られるだろう。ステフに上掛けを貸してテントの奥側に寝かせ、自分は外套を羽織り手前側に横たわる。小柄な自分と、まだ少年体型のステフとでも、ぎゅうぎゅう詰めだ。


「さすがに二人はきついな」

「外で行き倒れているより全然いいよ」

「それもそうだな、一晩だけ辛抱してくれ」


こんな間近に他人が寝ている状況など、いつぶりだろうか。緊張して寝付きが悪いかと思ったが、さほど時も置かず、眠りに落ちた。食事の時に感じた、ステフの遠慮のなさが、緊張をほぐしたのだろう。思いの外、ぐっすりと気持ちよく眠れた。


一夜明け……いったい何なんだ、どうしてこうなった。

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