序章
わたくしは罪人です。赦されざる罪人です。
洗礼を受けられないわたくしが罪を悔い改めたところで、御赦しを賜ることはありません。存じ上げております。ですが、そうであってもこれだけは、申し上げなければなりません。そうしなければ、わたくしは、死んでも死にきれないのです。
神様。どうか、この愚かな罪人の、最初で最後の告白を、お聞き入れくださいますよう。
わたくしは、神聖なる教会堂を、恐ろしい罪で穢してしまいました。わたくしは、多くのひとを殺めてしまったのです。婚約者を、三人の異母兄たちを。恐らくは、父と母を。そして、わたくし自身を。
わたくしは今日、わたくしの前で事切れた彼の獣人と、婚姻を結ぶ筈でした。夫となった彼の獣人に連れられて、この国を去る筈でした。そうすることで、わたくしは、翠玉の伯爵家より賜りました大恩に少しばかり、報いることができる筈でした。
それなのに、伯爵家に恩返しをするどころか、恩を仇で返すことになってしまったのです。伯爵家より賜りました純白の花嫁衣装を、わたくしの罪の証によって、穢してしまったのです。
それよりも、なによりも、悲しく嘆かわしいことは、わたくしの罪が、美しい彼の手を……わたくしの、ただひとりのお兄様を……穢してしまったことです。
なにもかも、申し上げます。罪を背負って生まれ、罪を犯して生きて参りました罪深いわたくしの、十八年の生涯を、全ての罪を告白します。
神様、どうか、この罪に蝕まれてしまった子羊に憐れみをおかけください。どうか、憐れな子羊を、この罪からお救いください。