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パラケルススの巫女  作者: 一野 ろん
プロローグ
1/7

2人の日常


朝方のひんやりした空気の中、ベッドの中でスヤスヤと眠っている可愛らしい少女がいる。髪は亜麻色にふわふわとした癖っ毛は腰の辺りまでくらいの長さだろうか。睫毛も長く、頰は桜色にほんのり染まっている。小さい鼻を見ると摘みたくなる。

こんなにも可愛らしく気持ち良さそうに寝ている少女を起こすのに、罪悪感がないわけではないがここは心を鬼しなければならない。


「ほら、起きなさい。」


揺すりながら、声を掛けても彼女は起きない。


「こら、起きなさいってば!」


「んー?なあに?まだ眠いよぉ」


と言いながら彼女は布団を頭まで被り直した。こうなったら最終手段を打つしかない。


「起きなさーい!」


大きな掛け声と同時に布団を全てひっぺがえした。

少女は目をこすりながら起き上がると、せっかく起こしてあげたのに文句を言ってきた。


「紅葉ちゃんひどいよぉー、なんでもっと優しく起こしてくれないのぉ?」


(はな)が起きてくれないからでしょ!最初は優しく声を掛けてたのに!」


すると華はえへへと笑い出した。


「最初は優しく起こしてくれたんだぁ」


んなっ!と思わず声を上げてしまう。なんだか顔が熱くなる。


「あ〜、照れてる〜。五月ちゃん可愛いな〜もう!」


「調子に乗らないの!はやく宿を出る準備をしなさい!!」


華ははーいと言うと、にやにやしなが身支度をし始めた。なんだか毎日こんなやり取りをしている気がする。


華の準備が終わり、宿の一階にある食堂へ向かう。


「紅葉ちゃん、今日の朝ごはん何かなあ」


「さあ?ていうか朝からよく食欲なんて湧くわね。私は、野菜か果物だけでいいわ。」


「紅葉ちゃんっ、朝食べないと体に悪いよ!」


と言いつつ、華はいつも紅葉が残した朝食を綺麗に平らげている。


食堂に着くと朝食のメニューは2種類用意されていた。ここは〈安らぎの兎亭〉、安めで少し古い宿だが、穏やかな主人が営んでいる、清潔感のある宿だ。


この安価な宿で朝食が2種類用意されている宿は珍しい。ちなみにメニューの内容は、1つはマウルス風でライ麦パンにレタスとチーズ、ハムを挟んだサンドイッチに豆のスープ。もう1つは滄華風で、もやしと木耳、魚のつみれが入っている粥だ。


ここはマウルス帝国の中くらいの規模の港町で、滄華帝国との交易が盛んである。そのせいかマウルス風と滄華風、2つの国の朝食のメニューが用意されているようだ。


「2つとも美味しそうだね!どっちにしようかな〜」


何やら華は紅葉の方を見て目をキラキラと輝かせている。


「はいはい、じゃあ華はマウルス風のやつ頼みなさい?私は滄華風のやつ頼むから。私、半分くらいしか食べれないから残りはあげるわよ。」


「紅葉ちゃんっ、朝はちゃんと食べなきゃ駄目だよ!…でも、ありがたく頂きます!」


しょうがない、という感じで出された紅葉の提案に華は嬉しそうに応じたのであった。


紅葉はこれもパターンな会話ね、と思いながら粥を食べ、約束通りに華に残りの粥をあげた。


「この世界にも流石に慣れてきたねーっ」


「そうね、大分ね。最初はどうなることかと思ったものね。」


「ねー!人が中に浮いてたり、土の人形が動いてたりして色々びっくりだったよねー」


そんな話しをしていると、安らぎの兎亭の息子が土人形をお供に連れて、食後の温かい紅茶と烏龍茶を運んできた。彼は私たちの会話が耳に入っていたようだ。


「ねーちゃん達変だよ。なんでそんなことに驚くんだよ。そんなの普通だろ?ジョーシキじゃんか。」


華があっと声を上げて、焦っていると紅葉がやれやれと言う顔をしてフォローを入れた。


「私たち、滄華帝国の辺境の島から来たのよ。だからヒューリアの民やマウルスの土人形を見るのは初めてだったのよ。」


「そうなのかーねーちゃん達器量良しだから都から来たお忍びの貴族のお姫様か旅芸人だと思ってたよ。」


紅葉が入れたフォローに少年は納得したようだった。そうすると華が照れ始めた。


「えー?貴族のお姫様なんて照れるなあ」


「亜麻色の髪のねーちゃんは黒髪のねーちゃんの召使いかなんかだろ?黒髪のねーちゃんは綺麗で品があるよなーっ」


少年は照れながら、紅葉の方をちらちらと見ていた。当の本人は言われ慣れているという風で烏龍茶を飲んでいる。


「なんで紅葉ちゃんはお姫様なのに私は召使いなの?」


「だってあんたはなんかあほっぽいんだもんな」


むうう、とした顔しながら華は紅葉を見た。

確かに紅葉は美人だ。こんな美人な人はなかなかいないと言える程に。卵型の小さい顔、アーモンド型で漆黒の瞳、長くて自然とカールしている睫毛、筋が通った綺麗な形の鼻、林檎色の唇、雪の様に白くて艶のある肌、濡烏の色の腰まで届くサラサラの髪の毛。

兎にも角にも美しい。


紅葉の顔を見ていてうっかり見惚れてしまった華に紅葉があら、と言った。


「華だってとても可愛いわよ。」


「確かに!犬みたいで可愛いとおもうぜ!」


「………」


華はその言葉に、素直に喜べなかった。



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