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直談判

 ……とまあそんな要領でラウガのところまでやってきたわけだが。


「で、ここからなんか策はあるの? あるのよね?」


 ひそひそとファムが囁く。


「ないならここまで来るわけないものね?」

「ないよ。……いてっ!」


 足を踏みつけられて悲鳴を上げる。

 ラウガは怪訝な顔をしたようだが死角で見えなかっただろう。


「じゃあなんでここまで来たのよ!?」

「とりあえずやるだけやるためだよ」


 ファムに囁き返して龍牙は前に向き直った。

 ラウガの目を見て口を開く。


「騎士隊長殿。俺がここに来た理由は分かりますね?」

「どうだかな」

「忘れてしまったのならもう一度言います。どうか俺たちに力を貸してください」

「もう断ったはずだ」

「だから再度頼みに来たんです」

「何度来ても同じという意味で言ったんだがな」

「なら何度でも来ますよ。どんな手段を使ってでも」


 ラウガが顔をしかめた。


「なぜそこまでしてわたしの力を借りたがる? 騎士隊ではどうしたところで泥神に対抗することなどできはしないというのに」

「だからあなたは怖気づいた。そいうことですか?」

「……なに?」

「俺たちに仕事を取られて悔しくないのかと、そう訊いているんですよ」


 ラウガは平静を保とうとしたのだろう。

 だが龍牙はその目に怒りの種火を確かに見て取った。


「あなたは自分たちの手に負えないからと英雄に丸投げするんですか? 何もせずに怯えて隠れてるんですか? そこに騎士隊の誇りはあるんですか? それで国民に胸を張っていられますか?」

「貴様……」


 彼が何かを言うその機先を制して龍牙は床に膝をついた。

 頭を深く、深く下げる。


「重ねてお願いします。力を貸してください。あなたの、あなたたちの力が必要なんです」

「……」


 沈黙は長かった。

 ふと横に目をやるとファムも同じように頭を下げていた。

 二人分の土下座だ。これで効かないなら、もう駄目だろう。


「……わたしは」


 ラウガの声。

 ゆっくりと上げた視線の先で、彼は一度咳ばらいをして続けた。


「わたしは騎士隊の長だ」

「はい」

「それは軽々に物事を判断してはならないということだ。わたしが一つ判断を誤るだけで部下が何人もその命や今までの生活を失う」

「はい」


 それは彼の持つ責の重さだ。

 自分たちはそれに自分たちの都合で干渉しようとしているのだ。

 その重苦しさがこちらの胸にも伝染した。


「お前たちにわかるか。わたしはそのことを考えるだけでいまだに眠れなくなることがあるんだ」


 はい、などと簡単に答えられるわけがない。

 だが、今はそれでも答えるべき時だった。


「分かりません。ですが、分かることもあります」

「……?」

「あなたは俺たちのことが嫌いだ」


 ラウガは苦笑した。


「好かれているとでも思っていたか?」

「なぜ嫌いかを当てましょうか? と言ってもさっきも言いましたが。あなたは英雄が嫌いなんだ」

「……」


 あてずっぽうではない。

 パシリで鍛えた観察眼が、先ほどと今の反応から彼の感情を読み取っていた。


「英雄は何でもできる。騎士隊のの手にも負えない凶暴な化け物を退治することだって。凡人の遥か高みをすいすいと渡っていく。それがあなたは嫌なんだ」

「……っ」


 ラウガの目に動揺がよぎった。


「もしかしたらそんな英雄に頼らざるを得ない今の状況も嫌なのかもしれませんね。あなたは英雄に頼らない立派な自分になりたいんだ。違いますか」

「何が分かる」


 突きつけた言葉に冷たい声が返ってくる。

 鋭い眼光。

 そして問を彼は突きつけ返してきた。


「お前に何が分かる」

「分かりますよ」


 龍牙は静かに立ち上がった。


「俺が、完全な力を取り戻した本当の英雄になりたいくらいには」

「……」


 ラウガは椅子から腰を上げた。

 しばらく考えるように目を閉じ。

 それからゆっくりとこちらの目の前までやってきた。


「分かった。いいだろう。力を貸そう」

「え……!」

「ただし条件がある」


 歓声を上げかけたファムにラウガは鋭く付け足す。


「泥神を確実に仕留める策をわたしに提示しろ。わたしが納得する完璧な案をだ。それができなければ兵一人たりとも出すわけにはいかん。以上だ」

「ちょ、あんた! なにそれケチくさい――」

「分かりました」


 龍牙は相手の目をしっかりと見返して言った。


「待っててください。最高の案を絶対に持って来ますから」

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