とりあえずがんばるまん!
今日は久しぶりの人形教室の日。
二人は荷物を持って家を出る。
荷物と言っても、先日買った石膏粘土は持っていない。
今日は前回イメージを膨らませた人形の具体的な設計図を描いたり、芯となる発泡スチロールの削りをやったりしに行くのだ。
「しかしアレね。
この段階の作業が一番ダルいわね」
電車の中で、今日やる予定の事を思い描いて木更が呟く。
それに理恵も頷いて言う。
「確かに。デッサンとか苦手だもん」
「二人とも仮にも美大生なんだから、デッサン位出来ろって話だけどね。」
「そうは言ってもさぁ、まともにデッサンのやり方なんて習ったの、大学入ってからじゃない」
「高校で音楽選択してたのに、なんで服飾系の美大に通ってるんだって話にもならない?」
「それが不思議。不思議なの」
「まぁ、元々はと言えば……」
話ながら木更が小さなフォトアルバムを取り出す。
ページを捲りながら言葉を続ける。
「この子達の服を作る為だからね~。
これも有る意味人形者の宿命かしら」
アルバムには二人が集めた着せ替え人形の写真が沢山入っている。
着せている服は全て自作だ。
「さて、今日も未来の人形作家目指して頑張りますか」
理恵の言葉に木更も微笑む。
「そうね、地味な作業も嫌がってちゃ駄目ね。」
そんな話をしながら、二人は電車に揺られて行く。
木更の持っているアルバムの最後の方には、着せ替え人形ではなく、二人の作った人形の写真が入っている。
人形作家への第一歩である処女作の事は、二人はきっとずっと忘れないだろう。