やはりプロは違う
先日と同じ様にバイトの無いとある平日。二人は前から気になっていた人形の店へと足を運んだ。
その店で扱っているのは球体間接人形。
二人が作っている様な人形だ。
ただ、素材が全然違う。
二人が人形を作るのに使っているのは石膏粘土だが、その店で売られている人形の材料はレジンキャストと言うプラスチックの様な素材だ。
「へ~、本物初めて見たけど綺麗だね」
「そうね。やっぱメイクもプロの人がやってるんだろうな~」
店内に飾られている人形をまじまじと見つめる二人。
この人形は、ここ数年で大人気を博し、幾多の人形好きの人が買い求めていると言う。
理恵も木更もネットでこの人形達を度々見かけるし、興味もある。
本音を言えば一体くらい欲しい。
ただ難点が一つ。もの凄く値段が張るのだ。
一番安い物で三万円位から。
しかもその一番安い人形は、自分で組み立ててメイクも自分でやらなくてはいけないのだ。
正直、組立もメイクも自分でやるのなら、買うよりも作った方が良いのではないかと二人は思うのだ。
しかし、組立もメイクもしてある人形は五万円以上する。
ついでに、この店ではフルチョイスと言って好きな顔型や肌色、眼球等を選んで世界に一体だけの人形を作れると言うシステムがあるのだが、それも安くて五万円以上する。
「もっと安ければ欲しいんだけどなぁ」
理恵がそう呟くと、木更が溜息をついて言う。
「我々の様な貧乏学生は自分で作れって事かしらね」
それを聞いて理恵も溜息をつく。
「そうだね……
でも、やっぱプロのメイクは違うよね」
「それは言えるけどね。
……と言うか私達も学校でメイクの授業受けてるから、それなりに出来ないとおかしい筈なんだけどさ」
木更の切り返しに、理恵は納得がいかない様な顔で言う。
「あ~、まぁ、うん。そうだけど。
でも人間と人形では根本的にメイクの仕方が違うと思うんだけど」
話をしながら二人が眺める人形には、エアブラシと細い面相筆を使って綺麗にメイクが施されている。
確かに人間にメイクをする時エアブラシや面相筆を使うかと聞かれたら、YESとは言えないだろう。
ファッションショー等の舞台メイクでならエアブラシ位は使うことも有ろうが、二人が学校で習っているメイクは、精々使ってドーランまでだ。
面相筆くらいは持っていても、エアブラシなどと言う高級品、手が出る物では無いというのもある。
なので、二人が人形にメイクをするとなると、面相筆で絵の具をのせていく位の事しかできない。
「もうね、いっその事メイクの参考にフルチョイス一人くらい頼んじゃおうかとも思うけどね」
「ちょっと理恵、そんな事したら人形教室通うお金無くなるわよ」
突然とんでもない事を言い出す理恵に、木更がすかさず釘を差す。
それから、二人して溜息をついて肩を落とした。
「……人形のメイクもパフとかチップとかブラシで出来れば良いのにね……」
「……そうね……
人間と同じ様に出来ればそんなに苦労しないわよね……」
そう呟いた二人は、ちらりともう一回だけ展示されている絢爛豪華な人形を見て、店を後にした。