カエルヤバイスゴイ
とある平日の午後、理恵と木更は大学から最寄りの駅に居た。
普段なら真っ直ぐ帰るかバイトに行ってしまう所だが、その日は用事があり、改札前で人波を眺めている。
「尚美ちゃんまだかな?」
改札の向こう側を眺めながら呟く理恵。
一方の木更は携帯電話を取り出してこう言う。
「ちょっとメール送ってみる?
あとどれくらいかかるかって」
二人が改札前で待っているのは尚美。
何でも尚美がネットで見つけた、新しい人形の店に一緒に行こうと言う話になっているのだ。
ふと、木更の携帯電話が鳴り始める。
何かと思って見てみると、尚美からの着信だ。
「は~い、もしもし?」
『もしもし、木更ちゃん?今駅に着いたよ』
「わかった。改札前に居る」
手短に会話を済ませ、改札前で待つ事暫し。
改札の中で手を振る人物を発見する。
理恵と木更も手を振り、相手が改札から出て来るのを待つ。
「お待たせ~。大分待ったかな?」
そう言いながら駆け寄って来たのは、二人の見知った顔、尚美。
その姿を見て二人は笑みを浮かべる。
「ううん、そんなに待ってないよ」
理恵が手を振ってそう言う。
そして木更が楽しそうな顔つきで尚美に尋ねる。
「今日行く人形のお店って、どんな子が居るの?
やっぱ尚美ちゃんが集めてる様な、頭の大きい子?」
その言葉に尚美は指を振って答える。
「まぁ、頭が大きいと言えば大きいけど、違うんだな。
何とかフロッグって言うカエルの人形」
今度は理恵が少し首を傾げてから携帯電話を取り出し、ストラップを尚美に見せる。
「もしかしてこの丸いカエル?」
良く見ると理恵の携帯電話には、小さなまんまるのカエルがぶら下がっている。
理恵の問いに、尚美は首を振る。
「そのカエルも可愛いんだけどさ、もっと別のカエル。
まぁ、お店に行けばいっぱい居るだろうから、そこで見てみよう」
尚美に言葉に納得した二人は、尚美に先導されて街中を歩いて行った。
歩く事十数分。
辿り着いたのはやや寂しい感じのする商店街の一角。
「…え? ホントにここなの?」
不安そうな理恵の一言に、尚美も気まずそうな顔をする。
「一応地図上ではここの筈何だけど……」
改めて携帯電話で地図を見る尚美を余所に、木更はガラス越しに店内を見る。
それから、二人に手招きをして言う。
「ここで良いんじゃないかしら。
中にカエルいっぱい居るよ」
不安そうな顔をしていた理恵と尚美も、木更の言葉に店内を覗き込む。
「そうそう、このカエル!
やっぱりここで良かったんだ」
嬉しそうに店のドアを開ける尚美。
続いて理恵と木更も店内に入る。
店内はこぢんまりとはしている物の、明るく、悪い雰囲気ではない。
その店内に飾られているのは、円盤形の頭をがに股気味のスリムな身体に乗せたカエルの人形。
色も黄緑、ピンク、ミントグリーンの三色が揃っている。
「どんなカエルかと思ってたけど、結構可愛いわね」
「んふふ、そうでしょ」
「あれ、そう言えばこのカエル……」
三人が言葉を交わしながら店内を見ていると、ふと理恵が有る事に気付いた。
「どうしたの? 理恵」
不思議そうにカエルを見つめる理恵に気付いたのか、木更が声を掛ける。
「あのさ、このカエル全部スタンド無しで立ってるんだけど……」
理恵のその言葉に、木更と尚美も廻りに立っているカエルの人形を見渡す。
確かに言われた通り、どのカエルも支え無しで立っている。
「……凄い……この細い足で……」
思わず絶句する木更。
「このカエルの原型師は、一体どんなデッサン力を持ってるのかな……」
尚美も改めてカエルをまじまじと見つめる。
不意に、尚美が鞄を漁り出す。
何かと思ったら取り出したのは財布。
「まぁ、何はともあれ、今日はこのカエルを買いに来たんだよね」
そう言ってレジへ向かう尚美を見て、理恵と木更が顔を見合わせる。
「確かに欲しいね」
「私達も買ってっちゃおうか」
二人も財布を鞄から出してレジに並ぶ。
後悔はしないけれど、二人にとって予想外の出費となったのだった。