第二章・再来③
視線が真里華に集まる。彼女の視線は、依然拓海から離れていない。
そのかわりの変化として、表情は険しく心配そうで、どこか怒っているようにも見える。
「……赤羽氏?」
「遠くからだったから、わかりにくかったけど……拓海のばか、体調悪いみたいなのに…………!」
「なに?」
その言葉を受け、楓も拓海へと目を向け、また技能を発動する事で目に見える部分が拡大されていく。
そうしてみた限りだと、拓海は変化がないように見えるが――
(赤羽氏が同志の事で間違えるわけがない。となると……)
神秘を熟知する者が必ず開花する、魔力を視る眼を開く。
「これは……」
すると体内に魔力が貯めこめないにも関わらず、悪性の魔力が拓海の体内が忍び込み、暴れているのを目にした。
だが、その体質に救われたのは確からしい。
なんせ拓海の体内で蠢くこの有害な魔力は、内臓という内臓を悉く破壊し、抵抗も出来ない人間は一時間もしない内に死亡する、極めて危険なモノなのだから。
しかし、いつそんなものが拓海の中に―――いや、待て。
(あの時のか…………ッ!)
楓の脳裏に、昨日の――スミレの持っていた短剣が拓海の脚に刺さっていた時の光景が鮮明に浮かび上がる。盟友であれば、あの魔力へと変換し、誰かに埋め込むなんてことは造作もないだろう。
スミレの去り際のあの言葉はそういう意味だったのかもしれない。
「家達さん?」
「デートは中止にしよう。本来なら体調が悪いというレベルじゃない。即刻治療しないと、如何に彼が魔力を貯めこまないと言えど耐えられない」
「それって……⁉」
真里華の顔が一気に青ざめる。
未来達も首を傾げつつ、なんとなく察したのか眉をひそめる。
真里華が拓海達の方に向かって走り出そうとし、後を追うために技能を解除しようとして、
――開いた眼が、頭上の魔力を察知した。
「―――チッ!」
咄嗟に楓は先頭にいる真里華の前まで魔力による縮地――クイックムーブで瞬動し、化石の剣を呼び出すと、一直線に飛んできた半透明の曲がった刃のようなモノを振るい弾く。
勢いは相殺され弾かれたそれは、途端に縮小し出す。
徐々に小さくなっていくそれが地面に落ちるその頃には、元の小さな切った爪の残骸となっていた。
急の襲撃やあの刃の正体に驚いている真里華達とは別に、楓はある方向を睨み、そこから声がした。
「悪いが、そいつは少し待ってもらおうか」
「スミレっ」
人々の流れを逆らうように、ゆらりと楓達の前を遮るように、スミレは作り物染みた笑みを浮かべ姿を現した。
手には楓の持つ剣と同じような化石の短剣を握っているにも関わらず、周りはスミレに見向きもしない。
「誰?」
「……一言で言えば、同志をあんな状態にした張本人だよ」
「――――こいつがッ!」
端的に伝えると、真里華は雰囲気を一変させた。
それは声とは裏腹に、怒りが頂点に達したが故の冷たい殺気だ。覇気は既に拓海よりも大きく感じ、赤羽家が愛娘の潜在能力の一端を感じさせる。
透視化させていた創喚書を取り出し、遠巻きに護衛していた来華を呼び出す。
他の創喚者も各自怒りを携えて創喚書と騎士を呼び出すが、唯一、楓だけは創喚書のみを視覚化させ、指揮棒を取り出しながら一歩前へ出る。
「それで、一体何の用なのかな? まさか、もう決着を着けにきたのかい?」
問いかけながら、楓は飛んできた相手の身体を動けなくする支配の魔術を抵抗。
そっくりそのままお返ししながら念の為に配置しておいた頭上に停滞するカラスの人形を矢として発射する。
対し、スミレもその反射された魔術を一瞬空間が歪むほどの高濃度かつ高出力の魔力で消し飛ばし、外に出したそれを真上に上げた。
迫っていたカラス人形を跡形もなく押し潰し、それを以って小手調べを終える。
「そうだ………と、言いたいところではあるが、答えは否だ」
コンマ一秒に行われた魔術戦は真里華や時亜にすら気取られることのなく、スミレは嗤う。
「余としてはどっちでも良いのだが、〝彼〟がどうしてもと言うのでね」
そう言いながら、空いた手を目の前に掲げ、指を弾く。
「――今回は、足止めに徹させてもらう」
するとその音が波紋となって全体に伝わっているかのように、それは広がり始めた。
その範囲に入った楓達以外の人物が忽然と姿を消す。
止めようにも、侵食速度は早く、既に楓達も範囲内。何かに包まれる感覚を覚えながら、魔術における人払いの結界に閉じ込められた。
――その中に、拓海と時亜の姿はない。
「さぁ、少しの間の余興を愉しんでいってもらおうか。もしかすれば、結界は愚かあの男を蝕むものも消失するやもしれんぞ?」
「……言ったわね? だったら覚悟しなさい。お望み通り叩き潰してやるから!」
啖呵切って跳び出した真里華は長ドスを創喚し、拓海のように身体強化・汎用型を纏う。来華は彼女を守るように先に前へと地面を蹴り、先行放電を残して姿を消す。
そんな二人に笑みを浮かべるスミレは、化石の短剣を手の中で遊びつつ、クイックムーブ。
高速の中で、来華とスミレは衝撃波をまき散らしながらぶつかり合い、スミレの言う余興が始まった。
――それを余所に、そんなスミレと指揮棒を振るい、――〝人形劇〟――を開演した楓は、周囲に目を向けて頭の片隅で、ふと思う。
((もう一人、どこにいった?))
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