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夢と現のクロスロード  作者: 佐月栄汰
創喚者編Ⅲ
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第二章・再来②

 飲食店、ゲームセンターに本屋。

 拓海と時亜は行き当たりばったりなのか、あらゆる場所へ向かい、楓達もまたそれを追う。

 その様子は楽しそうで、真里華と未来は少し嫉妬する。

 が、あれはどちらかというと男友達と遊んでいるような、そんなノリで……。


「家達さん、いい加減教えてくださいな。どうしてたっくんは葵さんとデート、のような事をしているのですか」

「……そうだね。そう疑問を浮かべるのも無理はないか。本来なら、私から話すべきことではないのだけれど……」


 二人の――いや、時亜の邪魔をするのは忍びない。という事は別にないが……まぁ、聞かれてしまっては仕方ない。

 そう思った楓は、彼女を連れていたクラスメイトの村井とばったり遭遇し、少しばかりの会話を楽しんでいる二人に目線を固定したまま口を開く。


「まず初めに、葵氏の男装は葵家特有の習わし……って言うのは、私よりも会長の方が詳しいか」

「ええ、初めに生まれた子が女だった場合、『当主となるまで貞操を守り通すべし』という古い考えから生まれた掟だったはずですわ」


 それも時が経つ程に緩くなっていき、今ではお勤め――学校やお仕事、お家のお役目の時のみで、プライベートでは普通に女の子として過ごしても構わない筈。

 なのに普段の時亜は、プライベートでも男装をしていた。

 まさか、葵家初期のように習わしを破った者に厳しい鍛錬(・・・・・)を受けさせられるようになってしまっているのか?

 そう、時亜と同じような古い家の娘であるナタリアは危惧するも、その心配はすぐに拭われる。

「あぁ、そうだね。そしてそれは、今もそのまま」

 しかし、


「四六時中なのはある富豪――大企業の社長に目を付けられたからさ」


 それ以上に危惧すべき問題が、替わって提示された。


「それは……どういう意味で、ですか」

「さて、ね。どちらにしても、あのままだったら彼女の無事は保証できなかったよ」


 中性的な顔立ちに救われた、と言うべきか。

 印象というのは服装を変えるだけでガラッと変えられるものだけど、普段の姿しか見たことなかったのか、それ以来気付かれた様子はない。


「とはいえ、それがいつまでも続くとは限らない。そんな時、暗い顔をしている葵氏に見かねて顔をかけたのが……」

「拓海さん、ですか?」

「いや、赤羽氏さ」


 未来とナタリアの視線が、楓から真里華に移る。

 本人はこちらを向く事はない。クラスメイトと別れ、ファミレスで昼飯タイムに入っている二人を――正確には拓海を手元にあるものを頬張りながら、ただ見ている。


「確かにその場には同志もいたらしいけれど、その頃にはもう心配だからって声をかける度胸はなかったみたいだからね。

 っと、話を戻そう。最初は警戒されたみたいだけど、なんとか聞き出せた赤羽氏は、どうにかしようと動いた」


 その際、その富豪に雇われた黒服に狙われたりしたらしいけど、それもなんとか撃退。

 しかし、襲われた理由は想像通り、その黒服は目ざといのか、男装した時亜に気付いたからだった。

 まだ気付いているのはその黒服一人だけだったが、このままではバレるのも時間の問題。そう思った拓海は一つの手段に出る。


「ここで私――情報屋・ホームズの出番だ」


 裏方に徹していた拓海が、何時かの危ない橋を渡っていた時にホームズとしての楓を知ったらしい。まぁ、初対面が高校一年というのに間違いはない。


「同志は私を雇い、私は彼の言う通りに動いた。攪乱や隠蔽、陽動にガセを流す等。幸い、その富豪は元々私のお得意様でね。少なくとも有能な男だったから容易く、とまではいかなかったが、下地にあった仕事における信頼のおかげでなんとか騙されてくれたよ」


 ただまぁ、今までが今までだったから、不自然に思われた事は否定できない。とりあえずこんなこともあるだろう、ということで納得してくれたが。

 我ながら良くこんな無謀な仕事を受けたものだ。こんなの、情報屋というより探偵か傭兵辺りの仕事だろうに。

 確かに楓は下手な探偵とか雇うよりは有能だ。

 情報屋をやるずっと前(・・・・)は生きてく為にいろんな事をする必要があったし、手慣れていた。

 拓海の立場から見てもその選択はとりあえず正解と言っても良いだろうが。


(まぁ、私という立場上、学生という普通の身分を味わえることなんてないと思っていたし、それをコネを使ってまで手を回してくれて、こうしていられるきっかけを作ってくれたのだから、私としては割に合ったものではあるか)


 少なくとも楓にとっては、本当にそう思っている。


「で、まぁその間は関係ないので省略させてもらうけど、こうして黒服が来ることが殆どなくなり、条件付きで半永久的に葵氏の安全は確保されたというわけさ」


 と、ここで拓海達が動き出したので尾行を再開。双方割り勘で会計を済ませ、拓海達はまたどこぞへと向かい、その後を追う。

 追った先に辿りついたのは雑貨店。


 ――能力発動。《影なる存在》――


 遠くからでも見える位置にある場所に移動し、誰にもバレないように無詠唱で能力を発動すると、不自然な立ち位置にいるにも関わらず誰からも見向きされずにいた。

「で」、と前置きを一つ。


「一応の解決はしたものの、問題が一つあった。これは閑話、さっきに比べれば些細な問題なのだけれどね」

「なんですそれは?」

「彼女自身の問題……いや、不満さ。解決した、と言っても男装を続けなければ意味を成さない解決方法だ。だからと言って本当にずっとそのままだと葵氏のストレスが溜まるというもの。

 君達なら分かるだろうけど、葵氏だって女の子だ、お洒落だってしたいだろう」


 そうだろうな、とナタリアと未来、それから三笠はうんうん頷き、ふと何か思い当たったのか誰かが「あっ」と声を上げる。


「そういうこと。私が事前にあの富豪が御剣から目を離す時期を調べ上げ、そこを狙って葵氏の息抜きをしてあげよう、ということでこの〝デート〟が始まった。

 葵氏曰く、男と女が遊びに出掛けるなら、それは立派なデートらしいからね」


 相手が拓海なのは時亜の友人であることからと、事情を良く知っていて、尚且つこの件にがっつり関わっているからである。


「――以上。これにて葵時亜の秘密はおしまい。ご清聴ありがとうございました」


 と、最後に読み聞かせていた本の終わりを告げるように締めくくった。

 質問等は受け付けない、という意図を込めて適当に、そして無理矢理に終わらせた。

 ……のだが、その事にツッコミが入る事無く、ナタリアと未来は何やら考え込み、三笠は何を考えているのか分からない顔をしている。

 真里華も変わらず拓海達を監視していて、楓は内心助かったと安堵していた。

 ――なんせ楓は一つ黙っていた事があったから。


(誰もその富豪の正体、何処の会社の社長か聞いてこなくて良かった。同志にも言ってない事を、彼女らに話すわけにはいかない)


 しかもその人物は、少なくとも拓海達に関わり合いのあった人物。知れば有無を言わずに創喚者の力を用いてでも殴り込みに向かっただろう者。

 拓海達の為に、そして自分の生活の為に、まだ奴と手を組んでいたのだが……。


(絞る金も情報も彼と契約を結ぶメリットがなくなってきているんだよなぁ。金も情報も繋がりも絞るだけ絞った。それになんとなく調子に乗り始めている様子。極めつけに最近どうも、私のやっている事に勘付きつつあるようだし……)


「――そろそろ潮時、か」

「なにが?」


 首を傾げる三笠になんでもない、と手を振る。

 スミレの事を含めて、忙しくなりそうだと、いつも通りため息混じりに笑みを浮かべ、


「――やっぱり、間違いない」


 その時、ふと真里華が呟いた。

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