表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夢と現のクロスロード  作者: 佐月栄汰
創喚者編Ⅲ
91/108

第一章・魔術③

「――これで実験と診察は終わり。前の借りはこれで解消だ」

「そいつはよかった」


 そう言って、地下に据え置きされているソファーに腰かけ、楓の用意した紅茶を口付ける。

 何度も付き合わせたささやかなお礼だということなので、有り難く受け取っている。楓の事だから、それなりのものなのだろうが、良く知らない。

 まぁ美味いので良いだろう。拓海としては、何か本を譲ってくれた方がお礼になるんだが、とも思うが口には出さないでおく。バレてるだろうけど。

 さて、拓海としてはもう少しくらい休んでいきたいところなのだが……。


「悪いけど、この一杯飲み干したらすぐ帰るわ。もう夜だし、真里華も送らないと」

「ごめんね、手間かけて」

「良いよ、別に。気にならせてしまった俺達のせいだし、むしろ付き合わせたのは俺なんだから」


 それに――、と付け足す。


「最近、物騒だしな」


 それは一月程前からニュースで持ちきりの事件。少年院から始まって、時々一軒家が被害にあっている事件。

 現場に住んでいた者達が挙って行方不明となり、そこには必ず灰のような砂が山となって発見されているという。

 奇妙で不可解な事件。しかし、生憎拓海達はその事件のあらすじを読める立場にあった。


「確かに、同志の言う通りだね。ここ最近空気が澱んできてるような気がするから、用心しておくように」

「お前が言うと説得力が増すな」

「それはどうも」


 そう会話しつつ、紅茶を飲む。もう少しで底を尽きそうだ。

「それで」

「ん?」

「俺になにかできることはあるか?」


「――――何のことかな?」


「……いや、なんでもない」

 暗に必要ないと惚けられ、拓海は暗黙のルールを思い出して引き下がる。一口つけて、カップの中が空になる。


「んじゃ、行くわ」

「あぁ。いつも通り鍵はそのままで良いよ。私もすぐ出るから」

「あいよ」


 真里華も亮も来華も飲み干したのを確認して、立ち上がり、玄関へと向かう。――その前に。


「余計なお節介かもしれないが、なにかあったらまた呼んでくれ。今まで散々世話かけてたんだ、少しくらい頼ってくれよ、同志」


 言い切って満足した拓海は、三人を連れて地下を上っていく。


「……それが出来れば苦労はしないよ」


 その言葉が、四人の耳に届くことは叶わなかった。



***



「それじゃあおやすみ、また明日ね。早く寝るのよ?」

「分かってるって! また明日な」


 無事、真里華を送り届けた拓海は、亮と共に帰路を辿る。

 空はもはや真っ暗。ガス灯が周囲を照らし、人気のない道はどうにも不気味だ。


「なぁ、拓海。結局どうするんだ?」


 そんな空間の中で、無言なのは嫌だったのか、不意に亮が話し掛けてくる。


「なんだよ急に」

「あの事件の話だ。あれは十中八九、同類による仕業。相手は創喚者か、魔術師か。どちらにしても、きっと被害にあった人たちはもう……」


 その言葉に、拓海は無言のまま真っ暗な、星々を隠した雲の方を向く。

別に全てを救える等と宣るつもりはない。だけど、なんとかできるだけの力があるのに、それを持て余している現状が恨めしいのは事実だ。


「でも俺は〝ヒーロー〟であって〝正義の味方〟じゃない。外道な奴がいた、だから成敗しにいこう、と思う程俺はもうお人よしじゃないんだよ。周りの奴等だけで手いっぱいなんだから」

「……あぁ、そうだったな」


 ……だけど。


「まぁ、その周りに手を出すようなら、話は別。ついでにその人達の分まで、ぶっ潰すだけだけどな」


 なんて言って再び前を向き、早歩きで亮を追い越す。そんな拓海に笑みを浮かびながら、その背を追いかけて隣に立つ。

「主人公っぽい台詞。結構、板についてきたじゃねぇか」

「うっせ!」

 一つ茶化せば拓海は大げさに反応し、そして同時に噴き出す。

 そうしてこの話は終わりだと、今日の晩御飯の話をし出し、残りもの三日連続そーめんに亮が嘆く。いつものやり取り。今日のお話し。



「こんばんは」


 ――それで終わる、はずだった。



「「え?」」

 人気のなかったはずのこの場に、第三者の声が二人を呼び止める。

 声のする方向へ向けば、そこには黒ローブを羽織った誰かがいて、嗤う口元が浮かんで見える。


「今宵は良い夜だ。こんな人気のないところは、どことなく幻想に潜り込んだように想わせる。そう思わんか?」

「は、はぁ……」


 意味不明な事を抜かす『誰か』に、変人だと確信して引き気味に頷いておく。


 ――いや、待て。そういえばこいつ、どこから……?


 拓海と、騎士である亮の思考が重なる。


「どうした?」

「そんな変な顔をして」

「もしかして具合でも悪いのかな?」


 それ以上の思考が進まない。視界も曖昧で、感覚がパズルのようにバラバラに散らばって、また浮ついている。

「っ……!」

 咄嗟に頭を振った拓海は、一時的に頭がクリアになる。その瞬間。漸くさっきから頭をくすぐる違和感の正体に気付いた。


「……なんで気が付かなかった。夜であろうとも人気がなくなるのはおかしい。少なくとも人がいる筈だ。だってここは――」


 人々が闊歩する街のど真ん中なのだから――――!



「おやおや」

「気付いてしまったか」

「凄いな」

「気に入ったよ」

「だから……」


 そう思い当たっても、身体が動かない。気が付けば、『誰か』は拓海の顔を覗き視ていて……。


「――〝そのかおを、もっとよくみせておくれ〟――」


 拓海と『誰か』の紫の眼が交わり、拓海のなかにナニカが入り込もうとしていた。

 鼓動するように強烈な拒否感と異物感に襲われ、脳の端が疼くように痛む。

 それを止めたくて咄嗟に『誰か』を振り払い、何故か目を丸くするヤツから一刻も離れたくて、無意識に技能・身体強化を発動。

 酷い頭痛を抱えながら呆然とする亮の腕を掴んで跳び上がり、後ろの歩道まで下がっていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ