第一章・創喚⑧
『その店にあるお爺さんがいるんだけど、その人に何を言われようとも、耳を傾けないで』
そんな不思議な約束を真里華と交わした拓海は、スーパーで買うべきものを買った後、真里華の案内でその本屋へと向かっている途中。
なのだが―――
(こんな所に本屋なんかあるのか……?)
今歩いている道は、草木が生い茂った獣道。
本来ならば道とは呼べない道。しかもこの先にあるのは、道路すらない山だ。
そんなところに本屋……いや、そもそも建物があるかどうかすら怪しい。
「なぁ、本当にこの先に本屋があるのかー?」
「心配しなくても大丈夫だから、安心して着いてきてー」
(安心出来ないから聞いてるんだが……)
とにかく着いていくしかないだろう。ここまで来たのだ、今更引き下がれない。
それに……もし勘違いとかだったとしても、真里華の手を長時間握っていられるだけで役得というものだろう。
「おっ」
そんな事を考えていると、目の前に開けた所があるのか、暗いこの道に一筋の眩しい光が差し込んでいるのが見えてきた。
その眩しさに目を細め、空いた手で、小さな影を作りながらその光の中へ歩みを進めると、
「――へぇ」
――そこには、まるで別世界のような風景が広がっていた。
左、右と見渡せば、この場を囲うように存在する木。
それらは自分達より二倍は背の高く、苔が生えている事から、かなりの年月が経っている事が分かる。
次に空を見上げれば、さっきまで暗いところにいたとは思えない程明るく青い空が広がっていた。
爛々と輝く太陽も、その眩しさを持って自らを主張している。
地面に生い茂る草や、色とりどりの花。
それらを彩るのは蝶や、木の陰に隠れる山羊と言った、害のない生き物達。
そして目の前に建つ、木造の苔むした一軒家は違和感を感じさせず、むしろこの風景の中に馴染んですらいるくらいだ。
(いや。いやいやいや。おかしいだろ、おい。なんだよここは)
そんなこの風景を見て、拓海がまず率直に思ったのがそれだった。
別に違和感は感じない。だが、それがおかしいのだ。
違和感を感じない事に、違和感を感じるのが普通だからだ。
(考えてもみろ、なんでこんなところに広がった空間がある? なんで一軒屋がここにある?)
要点を上げてみればキリがない。
しかし、それだけおかしい所があるのに、違和感を感じないのは何故だろうか。
見ていると、ドンドン魅了されていくのは、何故だろうか。
そんな自問自答も、すぐに回答が出る。
この風景こそが、この風景が持つこの雰囲気こそが、誰しも一度はその魅力に取り憑かれたもの。
これが……
「幻想か……」
「なにそれっ」
ふと、思わず口走った言葉を聞いた真里華の笑った声で、ぼんやりとしていた意識が戻ってくる。
どうやら、この幻想的な空間に取り込まれそうになっていたらしい。
「この風景についての感想、かな? パッと思い浮かんだのがそれだった」
「分からなくもないけど、まず出てきた言葉がそれって……厨二病かしら?」
「厨二病だが?」
「あら、自覚あるのね」
「そりゃな。多少なりとも厨二じゃないとラノベなんざ書けねぇし」
特に拓海が書くようなファンタジーや、SFは空想。つまり有り得ない話だ。
そういうものを書くにあたって、想像力が一番が必要となる。
そうなると、架空の妄想を常日頃している厨二病である事が、必要不可欠なのだ。
「ふーん……そういうものなのね」
「そういうもんなの。……それで、あれがお前の言ってた本屋か?」
ここをしっかりと目に焼き付けると、真里華の手に連れられ、木造物の前まで来てふと思った拓海は聞いてみる。
「そっ。ここが私が連れて来たかった本屋さんよ」
「そうか……」
確認が取れた拓海はその場で見上げ、看板であろう部分を見てみるが、店名であろう文字が擦れてよく読めない。
(随分と老朽化が進んでるな……)
普通なら、もう人は居らず取り壊しが決定しているものだろうが、真里華が言うのだ。ちゃんと本屋として、一応は成り立っているのだろう。
(ひょっとしたら、とんでもない掘り出し物とかもあるかもしれないな……レア物をたんまり持ってる、楓すら持ってないような超激レアの代物が)
そう思うと、少し楽しみになってきた。
となると、最後に気になるのは内装ただ一点。
(さーて、どんな本屋が俺を待っているのやら)
色んな意味でドキドキしつつも、取っ手を握り、ドアを開く。
するとそこには――