第六章・馬鹿⑧
――光矢の雨が降る。
ミアと周囲に漂うビットは、浪を守る為に立ちはだかり、迎撃する。
その過程でビットは全損するが、それ以外は難なく、全ての矢を撃ち落とし――油断はその間に撃たれたもう一矢に、反応する事を阻んだ。
「っ……⁉」
矢はミアの左肩を穿ち、続くように明がミアの前で跳び上がる。
「技能発動、《拡大》」
そこに、歌の合間を縫って未来がそこに一言送る。
するとルーンルインが一回り、二回り大きくなり、落下しながら振りかざす。
「オオオオォォ――ラァァァアアアア‼‼」
そして魔力をルーンルインへ流し込み、まるでこの地そのものを両断するが如く振り下ろす!
「……っ、分解」
致し方なし、とミアはナノマシンで構築された左腕を分解。それを再構築して、薄い膜のような障壁へ組み替える。
巨槍が振り下ろされ、障壁に直撃。少し触れただけでヒビ割れ、あえなく防御ではなく逸らす方向へ移行。左腕があった方向へ障壁を傾け、着地ポイントを逸らす事に成功する。
魔力と僅かに表面化した熱によって、ルーンルインに触れた地面が焼かれる。同時に未来のかけた技能の効果が切れる。ミアもひび割れた障壁を操り、矢で肩を貫かれる前の左腕へ再構築する。
「兵装展開」
「チッ」
お互いそんな変化に気にも止めず、内部からパイルバンカーや高周波ブレードを取り出したミアと槍兵の構えを取った明は高速の領域で殺意を交えだした。
一方、未来は引き続き光の矢をばら撒きながら、浪の懐へ接近しようとしていた。
しかし、次の創喚されたガトリングによって光の矢の撃ち落としと接近の妨害を同時に行われ、中々思うように近づけない。
だがこの程度予測済み。それならそれでやりようはいくらでもある。
「技能発動・肉体強化」
自らの身体に同化した青い創喚書に呼びかけ、〝あれ〟を発動した時点で強靭なものへと変えた肉体を強化し、浪を中心に螺旋を描くように鉛球の嵐から逃げ始める。
「それから、フェイルノート!」
次に、弓へと呼び掛ける。
応えるように弓は青く発光し、浪の創喚したミサイルポッドから複数のミサイルが発射されたと同時に跳び上がり、弦を引く。
そして歌えば、呼応するようにフェイルノートが若干引き締まり、一〇本の青い光の矢が弓へ番えられ、すぐに一つとなる。
それはイメージした通りの兄妹のような自分の騎士を思わせる槍と成り、定める左目は、ターゲットを絞るように見開き瞳孔が小さくなる。
穿つは阻む兵器が心臓。
歯向かう障害は、例え一つとして逃さない。
(必殺……!)
クランの猛犬と謳われたかの英雄が槍。定めた獲物は逃がさぬその槍。
今こそ暴れ狂い、そして吠えろ。
(《ゲイボルグ・ロア》……!)
指を離し、吼えるような唸り声を上げながら、槍矢は放たれる。
それは周囲に衝撃波を放ちながら、まず未来に当たらないミサイルを放置し、直撃コースにあるミサイルを穿つ。
爆発すると共に、未来のいた場所に、他のミサイルが着弾。爆風と火の粉が舞い散って、未来の髪先を焦がし、僅かに露出された肌が火傷する。
ミサイルを貫いた槍矢は、爆風を掻き分け、そのまま突貫していく。
目の前に置かれた障壁すら意味を成さず、すり抜け穴を作り出し通過。槍矢はガトリングへ到達し――弾丸を無限に作り出していた装置の心臓部を破壊した。
「ぐ、が、ァ――――⁉」
すれば当然爆発し、咄嗟に放して障壁を張ったが、あまり意味を成さず。
浪は爆風をその身に受けて吹き飛ばされ、地面に強く叩きつけられた。
(流石、見込み通りだぜ未来。オレも……)
「負けてられない、なァ!」
高速戦闘をしていた明は途端に動きを止め、高周波ブレードの一閃を魔力で薄い障壁を纏わせたルーンルインで受け止める。
ニヤリと笑う明にミアは何の反応もすることなく、無感情にパイルバンカーを腹に突き立て、そして杭を高速射出しようとする。
が、その寸前に身体を捻り勢い良くパイルバンカーを蹴り飛ばし、杭はあらぬ方向へ飛び出していき、地面に弾着。さらにルーンルインでミアごと高周波ブレードを押し退け、腹を蹴って飛ばす。
「《――魔術師・寺本明が命ずる。魔槍よ、我が声に応えよ》」
その隙に、明はルーンルインを半回し、柄底を前に向ける。
「《魔槍反転》」
するとルーンルインは魔法陣にスキャンされるように通過され、光に包まれると形状を変え始める。
地の底で見つけた、所有者の望んだ形に変わるという、一本の古びた棒だった魔道具。今はルーンルインと成っているこの槍の、もう一つの姿。
魔槍の反転。それは聖槍。かの王が反逆の騎士を屠る際に振るった槍。
「《モード・ロンゴミニアドッ!》」
光が弾けるように現れた槍は、神々しくも気高い大槍だった。
ルーンルインだった頃の面影は一切感じない。それもそうだ。ルーンとロンゴミニアドに何の接点もないのだから。
(まっ、そこら辺はどうでもいい。それより――)
「続けてェ――ッ!」
腹に柄底をつけ、軸にするようにしてドンと構える。
「《魔力解放》!」
蓋をこじ開けるように、魔力が一気に溢れ出す。
「ブースター・フル。イグニッション」
そこにミアが颯爽と現れ、背中のブースターを吹かせ、高速加速のままパイルバンカーの先端を、今度は頭部に向ける。
――避けられない。両者は確信する。
ミアはその事実に酔うこともなく、笑みを浮かべる事もなく、ただ淡々と。迅速に。相手が何かする前に殺そうと、パイルバンカーの引き金を引く。
その判断は正しい。だが、
(そうするのは、動きが完全に止まる前に――魔力を開ける前にするべきだったな)
「――《魔術執行・反射》」
拓海が味わった魔術を口ずさむと同時に、杭が射出される。すると明ではなく、ミアが弾けるように跳んでいった。
これを喰らってもなお、技後硬直程度に動けないだけで大した損傷もなさそうなミアに穂先を向け、大槍を中心に魔方陣がいくつも重なって展開する。
「《魔力充填・最大》《安全装置解除》」
残った体内魔力を全てモード・ロンゴミニアドにつぎ込み、明に、ロンゴミニアドに架せられていたリミッターを一時的に壊す。
魔力が穂先に集中し、ロンゴミニアドは猛るようにプラズマを走らせる。
出力が上がっていく度に明の身体に負担が生じ、身体の至る所から血が軽く跳び、プラズマは左の人差し指の指先を灰にする。
跳び出した血は魔力に変換され、それもまたロンゴミニアドへと送り込まれ、さらに明の身体はボロボロになっていく。
「……とっておきだ。受け取れ――――ッ!」
だがそれでも明はニヤリと笑みを深め、矢から指を離すように、力技で押し留めていた魔力を解き放つ。
――かの本家ロンゴミニアドは、叛逆の騎士の止めを刺した時に用いた槍ということ以外、詳しい詳細はない。辛うじて言うとすれば、かのロンギヌスという槍と同一視された動きがあったようだが、それも眉唾ものらしい。
だが、本当にそうだったなら、ロンゴミニアドは所有する者に世界を制する力を与えたということになる。つまり、世界を滅茶苦茶に――破壊できるということに他ならない。
そういう、ちょっと無理矢理な解釈を元に、明が(正確には未来が)作り上げた極大破壊魔術。
「――《WORLD BREAK》――《BANG》ッ!」
巨大な球体が、放たれる。
その図体とは裏腹に速い速度でミアへと向かっていき、直撃コースに入る。
「っ、障壁展開」
少しマズいと感じたのか、ミアは見るからに厚い障壁を自らを包み込み、すぐに障壁とその魔力の塊が接触する。
割れることはなかったが、障壁ごと軽々と押し出され、掬われるように上空へ。
どんどん上空へ飛んでいくその様に、ロンゴミニアドを落とし、一瞬の圧力で折れた左腕を垂らし、全身から血と汗を流す明は呟く。
「…………《終わりだ》」
それもまた、呪文。
言葉に反応するように、《WORLD BREAK》が呼応するようにドクンと震える。
それに伴って、障壁に僅かなヒビが入った事をミアが検知する。
「危険。退避――」
恐怖に似たものを感じたミアは逃げようとするも、その前に雲の中へ潜り込み――
「《BIG BANG》」
――雲が晴れ、もう一つの小さな太陽が、その瞬間だけそこにはあった。




