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夢と現のクロスロード  作者: 佐月栄汰
創喚者編Ⅱ
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第六章・馬鹿⑦

注意。

一応言っておきますが、浪の回想にあるものは空想です。

こういう会社だったら流石に作家になりたくても嫌だっていうのを想像して書いただけですので、そこら辺、承知でお願いします。

               ***



 さっきの数秒の間、上野浪は、少しばかり追憶する。


『馬鹿でなければ、夢なんてみない。でも夢をみなければなにも始まらない。

 同時に、馬鹿じゃないと夢を叶えようとも思わない。そして、叶えようと思わないと先に進めない。

 馬鹿と天才は紙一重という言葉があるように、わたしは馬鹿でありたいと思っています』


 ――これは、文学系の雑誌インタビューで答えた時の言葉。恐らく拓海がずっと暗に思い出せと言ってきていた事。

 あぁ、確かに。若かった浪はそうありたいと思ったし、そのおかげでここまでのし上がれたのだろう。

 だけど苦労して遂げたその先は、理想とは違ったモノだった。

 周りにいる連中が、そもそも自分を人として扱わない連中だったのだ。

 

 最初に浪を担当した編集者は、自分の文体と全く合わないジャンルを書けと命令してきた。何故かと思ったら、その人は自分の本をろくに読んでいない人だった。

 打ち合わせが終わって、家族が待っているからとすぐに帰ろうとしたのに、無理矢理飲み会に連れて行く作家仲間。

 しまいには、浪が書いたものを自分が書いたものとして出版しようとした人までいた。


 まるでその扱いは都合の良い人形……いや、道具のようだと思った。

 単に、入ったところが、悪かったのかもしれない。いや、きっとそうなのだろう。現にそこは色々あって潰れた。

 だけど、仕事というものは少なからずそういうところがある。同じような事が起きれば、未来はきっと耐えられない。


 ここまで来て、浪はようやく悟った。

 趣味を夢にするのは良い。だけどそれを叶えてしまっては、辛すぎる現実が待っている、と。

 馬鹿だから、そんな事も分からなかった。あんなにもすきだったのに、そのせいで、本を書く事が苦痛になってしまっている。

 だから、浪は悪者で構わない。それで娘が同じ苦しみを味あわなくて済むのなら。

 それが唯一の、父親として出来ること。だから、拓海の言葉を、昔の自分を否定する。


「後は任せたよ――未来ちゃん!」

「――はい!」


 すれば当然、娘が浪の前に立ちはだかっていた。――自分の知らない力強い眼差しで。


               ***


 拓海の言葉を受けて、上野未来は父の前に立つ。

 さっきまであんなにも曇っていた気持ちが一気に晴れやかになっている。きっと、拓海が信頼してくれている声音で、自分に声を描けてくれたおかげだ。


 ――囁かれた言葉を思い出す。


『俺がもう一度お膳立てしておく。だから、今のうちに意思を固めておけ。どんな事を言われても屈しない意思を』


 最初は無理だと思った。それが出来るなら既にやっている。

 なのに、自信満々な拓海の顔を見ていると、なんだか出来そうだと錯覚して、気付けば頷いていた。

 期待されているのだと、信じているのだと分かると、なんだか胸が熱くなって……。


 不意に、公園に来たときの事が浮かんでくる。

 あの時、未来は嘘をついた。本当はとっくの間に公園に到着していて、拓海と真里華が販売車にやってきた時に咄嗟に隠れて見ていたのだ。

 お似合いだと、そう思わざるを得ない状況に、胸が疼いていた。


 あの時は誤魔化していた。だけど、もうそれは出来ない。――私は、叶わない恋をしたのだ。


 ――トクン――


 負けたくないと、鼓動が訴えている。

 どれだけ無謀な恋であっても、真里華あのひとに負けたくないと高鳴っている。


(私の名前は、未来。そんな名前を持っているのに、自分で望んだ〝未来〟を掴まないでどうする……!)


 ――トクン――


 だから、まずは同じところに行かなければならない。夢も、恋も諦めるわけにはいかない。

 ――その為に、私はここに立っているのだから!



 ――――トクン――――



 不意に、最後にひときわ大きく胸が高鳴って、熱くなる。

 目的を成し遂げるためには、力が必要だ。そんな事は百も承知だが、何故かその思いがドンドン膨れ上がっていく。


「……来て」


 なんとなく、そう呟く。そうして導かれるように手を伸ばし、握る。

 ――すると気が付けば、その手に身を覚えのない弓が握られていた。

 しかし、戸惑いはない。それがどういうものなのか、未来は既に知っている(・・・・・)


「……なんだ、それは」


 訝しげに問う父の言葉を無視して、歌を紡ぐ。

 この弓の事を知った(・・・)時に、同時に理解したモノを利用するために。


「――――」


 歌詞は、今まさに衝動的に湧き上がってきたもの。内容は、有り体に言えば、『あなたの心の内を知りたい』。

 すると〝誰かさん〟の感情が、想いが未来に伝わってきて……。


(――そうですか。それなら、貴方がそうする理由も分かります。…………だけど)


 ならばこそ尚更、僅かに残っていた躊躇は必要ない。


 歌はサビ前に入り、今度は『そんなあなたに負けたくない』という歌詞となる。すれば不思議と力が沸き上がってきて、弓を構え、弦を引く。

 光の矢が現れ、番えられれば、当然、浪とミアが警戒を露わにし、同じように明が未来の横に立つ。


「……んじゃ、行くか。露払いは任せろ、未来・・


 その言葉に、未来は頷くもすることなく、変わりにその言葉を合図に、矢から指を離した。


               ***


「――《フェイルノート》」


 傍らに、足止めに使ったサトルを戻し、無茶した拓海と亮、治癒の為に呼んだ従騎士の瑠璃。そして真里華と共に親子喧嘩の前触れを静観していた矢先。楓が、あの弓を見て、ぼそりと呟く。


「円卓の騎士の一人、サー・トリスタンが使っていた弓。またの名を、無駄なしの弓、必中の弓」

「未来ちゃんが持っているあれが、そうだって言うのか?」

「あぁ、間違いないよ。どうして上野氏が持っている……いや、正確には呼び出せた、というべきか。それはわからないけれど、少なくとも、あれは本物だ(・・・)


 確信したように言う楓。それを事実として受け止めている拓海。

 そんな世迷言を信じられるだけの事、もしくは信頼があるのかと、仲間外れにされた真里華はむぅと唸る。


「じゃあ、急に歌い出したのも、それのせいか?」

「いや、それは関係ないだろう。そもそも逆。歌はきっかけでそれに触発されて呼び出せた、いわばおまけと見るべきだ。歌ったのは、今の現状を生み出す為のもの。同志も分かるだろうが、上野氏が歌い出した途端、変わった(・・・・)


 空気が。雰囲気が。見た目が。

 始まりと違って、穏やかだがどこか強さを感じるものだったが、恐らくサビ前にあたる部分で、それらは大いに変貌していた。


 戦場ほ空気はは明らかに未来たちが制し、二人に身体強化のような――拓海の限界突破並みの質を持ったものが纏われ、未来の髪の色は黒に戻り(・・)、明の服装は繋ぎではなく黒と青の魔法衣となって、ルーンルインもその形状をギュッと引き締めたものへと変えた。

 まるで、枷でも解き放ったように。


「これが歌ったことによる仕業、ねぇ。どういうものなのか、さっぱりわからん……」

「私にも、どういうものなのか見当もつかないし、そもそも私達にも同じようなものが手に入るのかすら分からない。興味深いが、私に分からない事が、君には分かる事思えないね」

「言い方はイラッとするが、正論だな――って、と。真里華?」

「…………」


 不機嫌です、と顔に描いた真里華が、目を伏せて「私にも分かるように説明してよ、拓海の馬鹿」と寂しそうに呟く。

 そんな嫉妬交じりの呟きに、不覚ながらキュンとしつつ、どう説明しようかと拓海は悩んでいるそこに、


「要するに、あの創喚者は私達よりも一歩先に進んだ、ということで良い」


 平坦な声が――三笠が割り込んで、拓海の悩みを解消する。


「……そうなの?」

「あーうん、そうだな。俺達の知らない力を手にしたわけだし」

「へぇ、そう。でもそれで全部じゃないわよね?」


 流石、真里華。こういう嘘には鋭い。

 仲介くんの時も、楓に頼んで情報を遮断してもらってないと、すぐに証拠を掴んで拓海を救おうと行動していただろう。


 閑話休題それはそれとして


「まぁ、そうなんだが……それは無許可で話すのはなぁ」


 と、目線と楓に移すと、楓は意地悪な笑みを浮かべて首を横に振る。

 その様子に、真里華はますます不機嫌になるのを見て、拓海はどうすれば良いのかと慌ててしまう。


 ……その時の顔を、亮達は見ていた。

 拓海に見えないように背けた真里華の顔は、それはそれは嬉しそうににやけていたのを。

 言えない事を聞こうとする気はなかったようだ。単に構ってほしかっただけらしい。めんどくさい。


 ……その瞬間、未来の力が爆発的に増大したが、これは関係ない。きっと。


「っと、そうだ」


 そんな真里華に面々がほとほと呆れていると、気分を良くした真里華は傍に警戒する騎士を携える三笠を見る。


「ミカも創喚者だったのよね。だったら私達と仲間にならない?」

「それは無理」


「……そっか。了解」

 良かれと思って問うたその言葉を、三笠は何の躊躇いもなしに断ったが、真里華は気分を悪くしない。少なくとも、理由は一つだけはっきりしているからだ。

 信用できない……というか、いつどんな状況で敵に回るかもわからないわけだし、当然と言えば当然。

 むしろこれだけの創喚者が揃って仲間の方が異常なのだから。


「でも、友達として、一緒にいるだけなら、構わないよな?」


 そこで見かねた拓海が一言割り込ませてみる。

 すると真里華は驚いた表情で拓海を凝視し、三笠は呆れたようなふて腐れたような顔で頷く。


「……ん。敵として、相対していない時でなら、好きにすればいい」

「んじゃ、好きにするさ。な、真里華?」

「――えぇ、好きにさせてもらいましょうかっ」


 微笑んで、声を弾ませる真里華を見て、これが見たかったと、拓海はうっすらと微笑む。

 少しギクシャクした空気が霧散し、既に勝敗が決まったこの戦いへ意識を戻すのだった。


               ***

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