第五章・意味④
――みつるぎ第二公園で、写真の娘を見つけました。逃がさないようにしたので来てください。――
その言葉を受け、浪はミアを連れて公園へと直行する。
すると、まずナニカに潜り込んだような違和感。そしてその先の入口で待っていたのは拓海だった。
その感覚は、正しく張られた結界に飛び込んだ時のもの。
確かにその中であれば、逃げることは出来ないし、聞けば創喚者や騎士でなくても設定次第で入れるらしいから、英断と呼べるだろう。
だが……、
「……君一人かい?」
「はい」
にこりと笑って拓海は答えるが、それは嘘だ。
似たような笑みを、浪は嫌というほど見たことがあるから、それくらい見分けがつく。
〈結界内より熱源多数。恐らく、他創喚者、騎士、従騎士かと〉
〈――嵌められたか〉
少し信用し過ぎたらしい。逃がさないようにされたのは恐らく浪の方なのだろう。……残念だ。
それにしては出迎えに傍らに騎士を携えないのは奇妙に思うが。
「それよりお待ちしてましたよ。さ、娘さんに会いに行きましょう」
そう言って、拓海は二人に背を向けて歩き出す。
娘が、未来がいる事は間違いないらしい。
(ここは、ついていく以外にない、か)
〈いかが致しますか〉
〈言うとおりに。しかし警戒を続行せよ〉
〈了解〉
と、浪は警戒を怠らないように拓海の背を追い始めた。
〈――第二フェーズ、終了〉
周囲に警戒しながら、ついてくる二人に、拓海はほくそ笑みながら心話で報告する。
浪に嘘を吐き、警戒を強化させたのはわざとだ。
これにより、どこから攻撃が飛んで来るか分からない状況にあると錯覚する為、文字通り無防備な拓海にも手を出す事が出来ない。
だから言うことを聞かざるを得ない、という〝風〟に見せる事に成功したのだ。
(勿論、これはこれで付け焼き刃。少しでも違和感を持たれたら芋づる式にバレて俺という犠牲を以って失敗に終わっていただろう)
だがバレていない。冷や汗ものだったが、結果オーライだ。
(さぁ、幕を開けよう)
道なりに進んでいくと、そこには亮と真里華に来華。そして、
『未来ちゃーーーーん‼ 結婚してーーーーー‼』
『もうちょっと静かにしろって言ってんでしょ高山ァ! いくら会長が家の力で人払いしたにしても限度があるのよ!』
『紫苑の奴、まだこんなかわいい娘との繋がりがあってなんて……一人で良いから紹介してほしい』
『『それ』』
『ねぇ今私達の方からも聞こえなかった?』
『嘘でしょ……確かにかわいいけどさぁ…………』
「「――――なっ」」
……約三〇~四〇人の私服の高校生と、その前に立つ未来の姿があった。
「なにを、しているんだ。あの子は」
浪は、学生達の中心に立つ未来を見て、問う。
周囲の一般人には目もくれない。
「なにって、みれば分かるでしょう? 夢に向かうための、ちょっとした度胸比べですよ」
「はは、なるほど。わたしと出会う前から、君達はとっくに知り合ってたわけだ」
と、失敗したなぁと言わんばかりに力なく笑いながら、一歩踏み出す――、
「……なんのつもりだい?」
寸前、踏みとどまる。
亮がカラドボルグの切っ先を、その猫背気味の背中に突き付けていたのだ。
当然、ミアも同じように武器――少し前に回っていた腕が突如サイスの刃へと変形させ、拓海の首に宛がっている。
「すいません。俺、夢を追う人の味方なんで、邪魔させてもらいます。――するにしても、彼女の歌を聴いてからでも、遅くはないでしょう?」
そう言いながら冷や汗を垂れ流す拓海は、未来に向けて目線を送る。
気付いた未来は頷く。
目を閉じ、雰囲気を変えた未来に呑まれるように、うるさかったこの場は一気に静寂する。
そしてゆっくりと目を開き、静かに歌い始めた。
初めは、希望を得たように。しかしすぐに絶望を叩きつけられたように。
すると裏で楓が操る人形達が、未来の脳内で流れている曲の通りに、演奏を始める。
感情の浮き沈みをの激しさを感じるような演奏、そして歌詞は、声は、これまでの未来の人生を浮き彫りにしていた。
楽なのは嫌だと、夢を諦めるのが嫌だと。
こんなにも好きな事を、諦めたくないのだと言うように。
サビ前に入ると、それは変化する。
まるで希望が溢れ出し始めたようなそれは、多分武闘会の事を知った事を意味するのだと、創喚者達は気付く。
その気持ちは、創喚者になった誰もが、感じたものだろうから。
「……そうか。あの子も創喚者に。だから君たちと知り合ったんだね」
サビに入り、誰かに自分の気持ちを全部ぶつけ始めた時、浪は言う。
「えぇ、まぁ。最初は敵同士でしたけど、今はこの通り。その時に嫌という程分かりましたよ。貴方の娘さんの諦めの悪さが……というか、あいつは俺達だとね」
ある人への尊敬を、ある人への願望を語る彼女の歌を少しばかり付け加えるように、拓海は答える。
「なるほど、ね。なら、尚更夢を見るのはやめさせなくてはならないね」
「え?」
だから自分を生意気な子供などではなく、一人で立てる人間として見てほしいという歌を拒絶するように、浪は言った。
その言葉が信じられなくて、拓海は未来に向けていた視線を浪に向ける。
「だって、夢を見たところで、それを叶えられなければ意味がない。それにね、夢を見て苦労するよりも、楽な道を行かせたいという父親の気持ちを変えるつもりはない。
だってそれが、あの子の為になるのだから」
…………あぁ、確かに。
それは父親……いや、親として当然の言葉なのかもしれない。
男ならそうは言わなかったかもしれないけど、相手はかわいいかわいい愛娘だ。生意気だったとしても、娘を絶対に幸せにしたいと願わないわけがない。
だけど、だけどだ。
「それを、貴方が言いますかっ」
そんなことを貴方に言ってほしくなかったと、拓海は失望したように呟いたのを、浪が怪訝そうに見ていると、未来の歌が終わりを告げた。
クラスメイト達による歓声の嵐の中、未来はこちらを緊張した面持ちで見てくる。
「……亮。下がれ」
「……了解」
拓海の気持ちを汲んで、亮が言う通りに下がる。
すると浪は周りを気にすることなく未来のところまで進んでいき、
「……っ、お父さ――――!」
「未来、帰るぞ。もう少しでお見合いのセッティングが出来そうなんだ。こんなところで無駄な時間を過ごしている暇はない」
「――――――」
その言葉を聞いて、未来の顔は絶望に染まる。
周りの学生たちは、今の言葉に不満を覚えたようだが、相手が父親だと察して、むやみに首を突っ込んでいいのかと躊躇していた。
少し前ならば、一、二人くらい声を上げていただろうが、仕方ない。
そうして俯き、未来は手を引っ張られるがまま、浪に連れて行かれていく。
誰もが見ているだけの中、ふと俯く未来からの顔からポツリと、一滴の涙がこぼれ落ちたのが見えて、
――くそったれ。
「――――え?」
気が付けば拓海は、未来の空いた手を掴んで、浪を強制的に止めていた。




