第五章・意味③
***
数日後。祝日。場所はみつるぎ第二公園。
歌は完成した報告を受けて早速ナタリアに結界を張ってもらい、名前以外何一つ変わらないそこに、拓海達はいた。
――大勢の、学生と共に。
「……とりあえず、第一フェーズ終了、っと」
「お疲れさま」
がやがやと、結界を張っているとは思えないほどうるさい公園から一旦抜け出し、夫婦のいない販売車の影に隠れてため息を吐くと、真里華がお茶の入ったペットボトルを差し出しながら、労わりの言葉をかけてくる。
「おう、真里華もお疲れ。悪いな、色々と」
「ううん、気にしてない。むしろ頼ってくれて嬉しかったから、大丈夫っ」
そう言うが、拓海はあまりにも彼女に頼り過ぎた為、割り切る事が出来ない。
「そもそも拓海は肝心な時には頼ろうとしないから、今回の話泣く程嬉しかった事に気付いてる?」
「泣く程なのか……」
理由は分かっているし気にかけてくれることに嬉しく思うが、若干病的だと内心引きつつ、拓海は真里華からお茶を受け取り、口に含みながら少しばかり回想してみる。
まず、結界を張っているにも関わらず公園で騒いでいる学生たちは、碧海学園の生徒。もう一つ言えば、拓海達のクラスメイトだ。
拓海が交友を深めた男子達を呼び、真里華が女子達を、残り――つまり未だ一ヶ月前の事を気にしている少数人は楓に頼んで、まぁ少し脅迫まがいの事をしてもらった。
そうせずに呼びたかったが、一度声をかけたのに逃げたあいつらが悪い。と、割り切る事にする。
閑話休題。
こうして彼ら/彼女らを呼んだ理由は単純。未来の歌を聴いてもらう為。勿論、浪にだが、クラスメイト達にも聴いてもらいたかった。一緒楽しみたかった。
拓海は未来の協力ついでとして利用して、残りのクラスと仲良くなろうという魂胆だったのだ。
未来にその事を明かすと、「ただ助けたいからというだけよりはずっと信用できます」と笑うのだから、逆に良心が痛むというもの。
だからせめて、未来には後腐れなく、思いっきり気持ちをぶつけられるように、支えるだけだ。
「まぁ、〝今からヒーローしようと思うから手伝って〟なんて、アホみたいな事を言われるとは思わなかったけれど」
「……それは言わない約束だ」
苦笑気味に言う真里華の言葉に、口に含んだお茶を飲み込むと、そう言いながら拓海は目を逸らす。
そう。拓海は未来にこの案を提示し、可決した後、すぐに真里華に協力を要請したのだが、その時興奮のあまりそんな事を口走ってしまったのだ。
ヒーローするってなんだ、と自分で思いながら、心話越しに爆笑する真里華の念声を聞いて顔を赤くしていたなんて記憶は燃え滓にしておく。
「ごめんごめん。でも確かにああ言われたら、私絶対断れないから、それで良いんだけどね。言わなくても断らないけど」
――だって他でもない、貴方からの頼みなのだから――
拓海は口にしなかったその先の言葉をなんとなく、正解に近いものを察して、少し照れる。
それを隠すかのように、ただ一言。
「そっか」
「そうだよ」
区切りとして無言になる。だがそれはいつもの事ながら心地のよいもので、二人は穏やかな笑みを浮かべた。
「仲、良いですね。やっぱり」
「おぉう⁉」「ひぇ⁉」
綺麗で、だがいつもより低い声が突如聞こえて、思わず拓海と真里華は驚きの声を上げる。
咄嗟に発声源へ目を向けると、そこには呆れ顔の未来がいた。
「き、来てたのか」
「えぇ、ついさっき結界入りしました。そしたらいきなり馴染みのイチャイチャシーン見せつけられるとは思いもよらなかったですけど。一応言っておきますけど、今日の主役は私であって、貴方達じゃないんですからね」
「わ、分かってるよ。ごめんね」
不機嫌そうに言う未来に、二人は必死に平謝りする。ボソッと「イチャイチャは否定しないんですね……」という、若干胸焼けしたような声がしたのは気のせいにしておこう。
「はぁ……まぁ良いです。それで、準備の方はどうですか?」
「あ、あぁ。バッチリだ。確認も済んでる」
「うちのクラスメイトも全員いるし、他創喚者、及び騎士全員も配置についてる。多分、寺本くんも」
配置とは、あらかじめ決めておいた隠れ場所だ。
近く、それでいて隠蔽力の高い場所に、全員気配を消して居る。
後は――、
「うーろん先生――上野浪を、ここに呼び出すだけだ」
一瞬、未来の顔が強張る。
だがそれも目を閉じて深呼吸することで、落ち着いた――それでいて真剣な顔に変えて、
「分かりました。それじゃあもう呼び出しておいてください。――いきましょう」
その言葉の通り、拓海は心話で浪に、嘘の中に本当を混ぜた報告をしつつ、真里華と共に我先にと歩き出す未来についていった。
***




