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夢と現のクロスロード  作者: 佐月栄汰
創喚者編Ⅱ
72/108

第四章・娘⑥

 その時。


〈――拓海ッ!〉


〈――お嬢様ッ!〉


 再び、亮/沙良の心話が届く。

 心話越しからでも分かる、緊迫した声。それは若干緩んだ思考を、帯を締めるように引き締めてくれた。

 まずは、


〈亮、どうした。なにが――〉

〈沙良? とりあえず落ち着いて――〉


〈〈いいから今すぐ結界を張れ(張ってください)!〉〉


 と、創喚者ふたりは自分の騎士ナイトを諭すように言いつつ問おうとするが、騎士ふたり創喚者クリエイターの声を遮って叫ぶ。


 ……良く分からないが、ここは素直に従っておこう。


 拓海はナタリアに目線を送る。

 その意味を素早く察した彼女は、ずっと抱えるように持っていた黄の創喚書を開き、場所を示す文字をなぞる。

 そしてすぐに宙に停滞させ、宣言となえる。


改編結界エリア発動! 指定《くるるぎ第二公園》!」


 すると一面は塗り替えられ、しかし殆ど変わらない風景が顔を見せる。

 違うとすれば、この場所の名前といたはずの一般人が挙って姿を消しているくらい。


(場所自体が同じだと、こんなにもスムーズに結界が張られるのか)


 なんて事を思いながら、何も起きないぞと亮に心話を送ろうとした。

 瞬間。


「――――ッッッ⁉⁉」


 ――胸の鼓動が凍り付く。勿論、錯覚だ。

 なのに未だ背筋に冷たいものが触れ、全身の産毛が総立ちしていた。

 身体が震える。それを止めようと震える息を吐く。


 落ち着け、落ち着け、落ち着け…………!


 これ(・・)の正体そのものは知っている。

 正確には知っているけど(・・・・・・・)知らない(・・・・)。これは殺気。

 実のところ、拓海は一度もその身に受けた事はないけれど、同じようなものを知っているから、まず間違いない。

 ただ予想以上に冷たくて、暗い。

 感情の一滴すら残っちゃいない純粋な殺意に、飲み込まれてしまいそうだ。


(これは、マズい)


 理解したところで、耐性のない拓海ではどうする事も出来ない。

 身体も、石にされたのかと思うくらいに動かない。

 横にいるナタリアも同じ状況らしく、徐々に目の前に浮かんできた気配を、ただ黙って見据えていて……。



 ――暗示が起動する(スイッチ・オン)――



「――――ッ! リア姉ぇ!」


 途端に、身体が熱くなる。

 眠りから目を覚ましたように身体を動かせるようになった拓海は、ナタリアに飛び込むように覆いかぶさる。

 するとベンチごと倒れ、気配は動揺したように少し乱れ――、


「よくやった拓海ッ!」


 そうしてできた間に、割り込むように、突如亮が姿を現した。

 最速で疾走してきた為か、風が周囲に波打って飛び回る。

 白いジャケットが靡く。

 地面を踏み締め、地面は崩れる。

 気配のある場所を見据え、左肘を引き絞る。まるで矢の如し。

 そして弓の弦を離すように、一気に突き上げる!


『――――――!』


 鼓膜が破けそうな程大きな破裂音と共にカリバーンは突き出され、その衝撃で嵐でも通ったかのように木は大きく揺れ、ベンチが吹き飛んでいった。

 周囲を荒らす突風に、ナタリアを抱えながら耐えた拓海は一度の嵐が通った後、その中心部を見る。


 そこには依然としてカリバーンを突き出す亮と――その前を遮るナニカ(・・・)がいた。


 カリバーンの刃は、未だ火花を散々と連続して散らしている。

 亮はナニカを力づくで弾き飛ばすと、気配は後ろへ高らかに跳んでいく。

 ――それを待っていたッ!


「サラッ!」


 亮は叫ぶ。

 するとその気配に追い打ちをかけるように、上空から七本の浮遊刀が飛来。

 切っ先は全てナニカに向けられ、串刺しにせんと飛翔する!



 ――ステルスシステム・オフ――


 ――メインコンバットシステム・ドライブ――



 機械音声のような、女の声と共に、ナニカのベールが剥がれていく。

 少しずつ見えなかった姿が開示されていく中、構わず浮遊刀は迫る。

 そして、一本の浮遊刀が加速し、ナニカを突き刺さすその瞬間、浮遊刀は弾かれ、粉々に砕かれる。

 そのせいか、浮遊刀を払ったらしい部分のメッキが我先にと剥がれ――まるでドリルのように、回転する右腕が開示された。


『なっ――――』


 その場にいる誰しもが絶句する。

 亮と相対した時のように焦ったのか、沙良は浮遊刀を全て加速させ、ナニカの至る場所へと狙いを定め射出する。


「――――――」


 だが、それは逆に動きを単調にし、ナニカが道筋を把握するのは容易となった。

 迫り迫る浮遊刀達を、ナニカは弾き弾いていく。

 地面に近付く中、浮遊刀は砕かれ、同じようにベール(光学迷彩)が剥がれていく。


 そして、それが地面に着地する時、ナニカの姿は全開し、浮遊刀は何一つ残さず砕かれ――、


 少女はただ一人、その場で佇んだ。



               ***



 少女は、異常なくらい整った顔にある無機質な赤い目をこちらに向ける。

 ふんわりとした紺色の髪は、名残り風でわずかに揺れ、スレンダーな身体を隠す黒を基調とした動きを阻害しない衣服も伴って揺れている。

 真っ白い肌には、一切の煤もなく。

 武器一つ見当たらないが、パッと見、普通の騎士にんげんのように見える。


 ――だがそれを帳消しにするが如く、まるで微調整をしているように腕が一回転。

 型に嵌るような音と共に、わずかにずれていたらしい部品(・・)を腕とした。


「あいつは……いや、あれ(・・)は――」


 なんだ、と亮は誰かに問う。

 まるで人間じゃない。いや、そもそも生き物なのか(・・・・・・)

 一回転した腕然り、騎士とはいえ端麗すぎる(・・・)姿形然り、明らかに異様だ。

 人の姿をしていながら、生物の動きをしないナニカ。

 まるで――、


「識別番号α―3A―/。通称、3A(ミア)

「え?」


 ふと、拓海が意味不明な事を呟く。

 振り返ると、そこには神妙な表情をした拓海がいて……。



「十数年前に出版され、現在絶版――というか、作者がこれだけは趣味で書きたいと唐突に言い出し、一巻以降続きが表に出なくなってしまった作品の主人公ヒロイン


 拓海自身、その本を読んだことはない。

 ただその話はあまりにも有名で、ちょっと本に詳しくなれば誰でも知れるものだっただけ。

 そもそもに興味を持ったのはその話が発端だったのだけど、まさかこんな形でお目にかかれるとは思わなかった。


「後は彼女はアンドロイドとしか知らないけど、間違いない――ですよね、うーろん先生?」

「――うん、まあね」


 そう思いながら呼びかけてみると、木の影に隠れていたうーろんが、顔を出した。


創喚者マイスター――」

「ミア、戦闘モードを解除。通常モードに移行」


 咎めるようなミアの言葉を遮って、うーろんはキーワードを口にする。

 ミアの目が色が切り替わり、敵意を示す赤から、穏やかな緑へ。

 するとミアは口を閉じ、不満そうに後ろに下がった。


「ミアがすまなかったね。いきなり襲ってきて、驚いただろう? 実は君たちを探していてね、ミアに探索をお願いしたんだけど……まさか襲うとは思いもよらなくて。ちゃんと戦うつもりはないって言っておいたんだけどなぁ」


 口ぶりからして命令していたわけじゃないのだろう。

 なら、未だ敵には変わりない創喚者の捜索を騎士にお願いすれば、そうなるに決まっている。


(いや、もしかしてそういう口実か? あわよくば一組減らす、みたいな)


 もしそうなら気が抜けないと、警戒心を強めつつ、「それで」と口を開く。


「俺達を探していた理由は、なんですか?」

「あぁ、うん。君達のおかげで姫凰には着いたんだけど、ここ数日娘が学校に来てないらしいんだ」

「不登校、ですか?」

「いや、というより、わたしから逃げている。のが正しいかもしれないね」


 少し気になる単語が出たが、無視しておく。

 とにかく、用件は理解した。


「つまり、俺達にも探すのを手伝って欲しいということで良いですか?」


 うーろんは頷いて、「君達だけが頼りなんだ」と頭を下げた。

 ――仕方ない。こう頼まれてしまっては、ヒーローとして捨て置けない。


「……分かりました。できる限り手伝います」


 お礼はその本を読ませて貰うだけで良い。


「ありがとう……!」


 最後の欲望ことばを口に出すことなくそういうと、うーろんは拓海の手を握り締めて感謝の意を示す。

 勝手に決めた拓海に亮とナタリア、それから木の上から降りてきた沙良も何も言わなず苦情しているのは、頼まれた時点で察しがついていたからだろう。


「それで、その娘さんの顔が分かるものってありますか?」

「あぁ、この一枚だけ。一先ず君に預けておくよ」


 と、うーろんは懐から写真を取り出し、拓海に手渡す。


「わざわざすいません」

「それはこっちの台詞だよ。――それじゃあ、わたしはもう少し探してみるから、これで。連絡は……」

「心話で良いんですよね?」


 そう言うと、うーろんはにっこりと微笑んで、軽く手を振りながらミアを連れ、立ち去っていった。


 その後ろ姿が見えなくなると同時に結界は砕かれ、公園に生活音と人が溢れ出す。

 緊迫した空気が若干薄れ、思わずため息を一つ。


 とりあえず、まずはと、受け取った写真に目を向けて――、


「………………」

「? 拓海?」


 突如として沈黙した拓海を、怪訝そうに見つめる亮。

 拓海は気にすることなく、一度裏をみて、何も書かれてない事を確認する。


「なぁ、リア姉。うーろん先生の本名って、知ってるか?」

「えぇ、まぁ。いつだったかのパーティーに出席した時、そのペンネームと名前だけは聞いていたので」

「教えてくれ」

「……必要な事なのですね?」


 頷くと、ナタリアはその名を口にする。


「――あぁ、なるほど」


 なんとなく、合点がいった。

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