第四章・娘③
そんなサトルを見向きをしない騎士達は、すぐさま立ち上がろうとして、
「あら?」「うわっ」
そのうち、美月と来華が崩れ落ちるようにその場に倒れ込んだ。
「あー……」
土下座をすれば、必然的に正座にならざるを得ない。
名前が日本人だからすっかり忘れていたが、真里華と時亜から聞いた話だと世界観的には西洋寄りなんだったか。
だから、たった数分でも二人はこうなったのだろう。足の裏を突けば面白い反応を――、
「ほれ、ほれ」
「うひゃっ⁉ りょ、亮やめなさいっ。ダメ、駄目だって――駄目だっつってんでしょーが‼‼」
「も、もしかして、あっ、だからさっき真っ先に立ってタクミの傍に行った、ぁっ」
「今更気付いたところで遅い!」
「あ、アンタ後で覚えてなさいよあひゃあああああぁぁぁあああ⁉⁉」
「み、美月だいじょ、ぶぅぅぅううんっ⁉」
…………していた。これ以上ないほど良いリアクションである。
「ところでなんでお前はそんな楽そうなんだ?」
「生まれは海外、育ちは日本って設定だからネ」
「…………あぁ、なるほど。TRPGのプレイヤーキャラだから、そこらへん融通が利くのか」
良い事を知ったと、脳内でメモする拓海であった。
***
それからしばらくして。
ぷすぷすと煙を漂わせて倒れる亮をみて苦笑しながら、横目に他創喚者達を見る。
熱中した様子で、一連の騒動に気が付いてないところから察するに周りに殆ど目がいってない様子。
まだしばらく続きそうだ。
次に、中央に置いてある家に買い貯めてあった原稿用紙の枚数をパラパラと片手で確認する。
やはり少ない。このペースだと、一時間もしないうちになくなってしまうだろう。
「……よし、ちょっと今から原稿用紙買いに行ってくるから、留守番お願いしてもいいか?」
「任せて」
「りょーかーい」
「良いけど、別に部屋の隅とかベットの下とか探しても構わんだろう?」
「それはやめろ」
創喚者達は返事をし、騎士達は無言で頷く。
楓の言葉に思わず反応しつつ、それらを見てすぐ立ち上がり、部屋から財布を持つ。
「あっ、そうだ」
ふと一つ思い当たった拓海はもう一度茶の間へ。
ついでだと、彼女を呼びかける。
「一人じゃ寂しいから、リア姉もできれば着いてきてくれるー?」
未だ執筆中だったナタリアは、顔を上げた。
キョトンとした表情で拓海を見ている。
が、すぐに呼ぶ理由を察したのか、徐にペンを置く。
「…………えぇ、分かりましたわ」
「お供します」
言って立ち上がる。
すると即座に沙良も立ち上がり、ナタリアの背を守るように連れ添う。まるでSPかなにかみたいだ。
「オレも行くぞー!」
釣られるように、意識を取り戻していたらしい亮も元気よく名乗りを上げる。
いつ他の創喚者と騎士に襲われるか分からないし、それはそれはとても助かる。
だが、たかが数分だけの買い物についてくるほどではない。
「…………狙いはなんだ?」
「狙いってほどでもない。ちょっと帰りついでにミニカステラ買ってもらいたいんだ。ほら、公園近くで屋台やってる《ラーシェウゼ》の」
そういえば、あそこにカステラが気に入ったとか言っていた。
……まぁ、守ってもらう為の報酬だと思えば安上がりか。
「分かった、分かった。そんじゃあ行くぞ」
「やったぜ!」
「ゴチになりますわ」
何故か一人、いや二人追加することになってしまった。解せぬ。
(まぁ、良いか)
公園でなにか食べながらゆっくり落ち着いて話を聞く方が、聞く体制としては良いし。
『いってらっしゃーい』
そんなことを思いながら、数名の騎士、創喚者の声を背に家を出るのだった。
***
「ありがとうございましたー」
いつも世話になってる文房具屋に訪れ、求める物を買った拓海達は店を出る。
お目当ての原稿用紙を、まとめて買い、ついでに色々を物色して購入。
今のところ、買いたい本は次の月に発売だし、他趣味の買い物も事前に済ませてある。
「満足、満足。後は、お望みのカステラを買うだけだな」
だから、いつものように亮は革命的な食べ物を食べられると、子供みたいにはしゃぐ。
――と、拓海は思っていたのだが……、
「…………なんでそんな引きつった顔してんだよ」
それは亮だけじゃない。
ナタリアの護衛で着いてきた沙良も、二人ほどでないにしろ、ナタリアも口元をひくひくと震わせている。
「い、いやぁ、だって」
「?」
疑問符を浮かべていると、三人の視線の先は揃って拓海の手元にあり、釣られて自分の手にあるものを見る。
そこには、原稿用紙――――を、かっつかつになるまで詰め込んだダンボール箱三つを乗せた、リアカーがあった。
「ん? これのことか? まぁ確かに自転車でも持ってきてれば、楽に引けたな」
「違います、そうじゃなくてですね……」
「わたくし達は、規格外の量にドン引きしているのですわ」
あぁ、なるほど。
確かにこの量は普通では絶対にあり得ないものだ。引くのも納得がいくだろう。
だが、だがだ。
「それを言うなら、俺は水無月の言動にドン引きしたね。どんだけ他人のふりをしたかった俺達の気持ち、分かるか?」
「確かに……」
「まさか公然の場でそういう事を言うとは、わたくしも予想外でしたわ……」
さっきの事を思い出す。
お目当ての原稿用紙を早々に見つけて、ついでとペン他文房具が物色している時のこと。
拓海が鉛筆の列を見て、その横で退屈そうに亮が着いていき、ナタリアは蛍光ペンを一つ取ってみていた時に、沙良がコンパスとシャーペンを手に取って、一言。
『――うん。これなら、暗器としても十分扱える。意外とフィットするし、首裏に突き刺して抉るのも悪くないですね』
聞いた瞬間、耳を疑った。
拓海とナタリア、亮ですら目を見開いて沙良を見ていたのに、当の本人は気にした様子もなく。
他の客にも見られていたので、学校にあるような大型三角定規を手にしようとする前に手を引っ張ってその場から脱出したのだ。
「い、いや、その、あんなに暗器に適したものをこんな場所でみるとは思わなくてですね……」
その口ぶりから察するに、沙良の物語にコンパスとシャーペンはないということらしい。
なんだってそんな特定の文房具のない世界観なのか、とツッコミたいとことだが、だからと言って一般人が沢山いる場所で物騒な事を言うのはどうかと思う。
「ちゃんとあるはずですわよコンパスとシャーペン。そういう言及とかしてないですし、時代的にもそう変わらない。そもそもわたくし達に着いてきたのは、護衛の為だけでなく、それを口実に暗器代わりになる文房具を探しに来たかったんですよ。そういう娘なので」
「嘘かよ」
しかも思ったよりバイオレンスな性格でびっくり。
「意外でもないな。オレの腕をちょん斬った時、ニタリとめっちゃ悪者顔かつとても嬉しそうだったし」
「うっ」
自覚があるのか、呻くような声を上げる沙良。
……そろそろ、助け船を出しておくとしよう。
「まぁ、俺も水無月もアホな事をしたってことで良いだろう。ほら、亮。お目当てだぞ」
角を曲がると、商店街を抜けた先にあるかの公園近くで停まっている移動販売車が見えてくる。
店の名前は《ラーシェウゼ》。
名前の由来は不明だが、拓海達が小さいころからあるため、お袋の味ならぬ、町の味と、拓海達の間で親しまれている。
「おっ、じゃあ先行ってほしいの頼んどくわ!」
自分の目で確認した亮は目をキラキラと輝かせ、子供みたく走って行く。
拓海達はそんな彼を苦笑気味に見ながら追いかけ、沙良が小声で「感謝します」と言ってくる。
気にするなと手を軽く振りつつ、ラーシェウゼに到着。
「らっしゃい! おっ、紫苑んとこの坊主にいつもの嬢ちゃん。それから嬢ちゃんの付き人ちゃんじゃねーの」
「あらあら、いらっしゃい。拓海くんは久しぶりねぇ」
四人を出迎えたのは、先ほどまで亮と親し気に挨拶していた中年男性と、その妻たる女性だった。
二人はいくつか皺の見える顔で、にこやかに笑みをこちらに向けてくる。
「おっす、久しぶりおっちゃん、おばちゃん」
「また来ちゃいました」
沙良は無言で会釈し、ナタリアと拓海は応えるように言うと、二人はくすっと噴き出すように笑い出した。




