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夢と現のクロスロード  作者: 佐月栄汰
創喚者編Ⅱ
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第四章・娘①

 ――あれから、一週間経って、今日は日曜日。


『…………』


 いくつものペンを滑らせる音が重なったり、時折疎らになって聞こえる。

 ここは、拓海の家。

 拓海、真里華、楓、ナタリア、そして快く入部してくれた時亜と、形式上部活に入れない明日葉。

 未来を除く創喚者が集まり、早速活動を始めたところだ。当然、騎士達もいる。


 未来がいないのは、単に用事があると心話で連絡があったから。

 実は今回が初の活動になるわけで、それなのに全員揃ってないのは少々残念だが、そういうことなら仕方ない。

 今日のところは、このメンツだ。


「…………」


 そんな中、そんな創喚者達を横目につまらなそうに拓海の部屋にあった漫画雑誌のページをめくる亮。

 ただジッとしているのに慣れていない亮としては、こんな静かな時間はどうにもくすぐったい。

 同じように寛いでいる騎士達も、居心地が悪そうだ。

 少しでも動いていれば――例えば、散歩でもすれば少しは誤魔化せるのだが、そうもいかない。


 そもそも亮達までこの溜まりに参加しているのは、他でもない創喚者の提案によるものだったから。


「――――できたっ」


 ふと、小声ながら弾んだ声が耳に届く。拓海の声だ。

 全員が挙って目を向けると、拓海はクリアブックに原稿用紙をかっつめていた。

 その様子から察するに、


「もしかして、書き終わったのか?」

「おう、完結だ。もうこの物語が続くこともないし、この物語に一文字も付け足す気もないよ」


 亮が問い、拓海が肯定するところまで目撃しても、周囲の視線は逸れることはない。

 それもそうだ。だって、騎士がここに居残っている本題が次の工程にあるのだから。


「へぇ、じゃあもう書かないのか? 小説」

「まさか。前はお前の言った通りだったけど、今のこれはもう趣味だよ趣味。書き終わったなら新しいのを書くだけさ。書きたいものはいくらでもあるしね」

「例えば?」

「そうだな……一つは、伝奇物。次に、SF。他にも色々あるけど、とりあえずはそんなところかな」

「ふーん」


 亮と雑談しながら、一枚一枚確認してクリアブックに入れていく拓海。

 二人は周りの目に気をつられる事無く、言葉を交わし、バイトの単純作業をしているかのように淡々とページを捲ったり用紙をつめたりしていく。


「――これで、よし」


 そして作業を終えた拓海は、満足気にため息をと共に会釈程度に頷いた。

 すると、周りの目線の密度が、増さったような気がした。

 勿論、気のせい。錯覚だ。

 だから拓海は気にすることなく、黒いグリモアの種とクリアブックを手に取って、亮と面と向かう。


「……行くぞ」

「いつでもどうぞ」


 緊張が表に出たのか、少し固い口調で言うと、相手はまるで紙みたいに軽い感じで答える。

 その言葉に従って、拓海はクリアブックにグリモアの種を植えつけると、


『っ――』

 ――まるで時が止まったみたいに亮が硬直し、グリモワールと化した本にある宝石が仄かに光ると、今度は早送りするように動かない亮の全てが進み始めた。


 カチカチ、カチカチと、針が進む音がする。

 亮の皮膚、目付き、服の褪せといったあらゆるモノの時間が四倍速されていき、雰囲気まで若干変わり始めている。

 その光景に、思わず創喚者は息を呑む。

 これまでも非現実的光景を目の当たりにしてきたが、これほどまでに分かりやすく自分らとは違うという線分けされたような場面を見るのは、初めてだった。


「わたくし達とは違って、文字一つで人生も時間も進む。

 そんなこと分かっていたはずなのに、認識はどこか上の空だったようですわね……」


 この光景が視たかったから騎士もいるというのに、なんて愚かだろうと、創喚者達は自分に嫌悪する。


 ――気持ち悪いと思ってしまったのだ。一緒に戦う仲間を。


 人間というのは、自分が理解できるものしか受け入れる事が出来ない。

 種族、人種、思考、所有物、趣味でさえ、一般人と違えば(変わっていれば)、それは外敵となる。

 人間として当然の防衛本能かもしれないが、相手は知っているなのだ。

 それなのにそんな感情を向けるなんて、どうかしている。と、思わずにはいられない。


 ……だが、一人だけ。


「認識が上の空、ね。だったら俺の認識にはバグでも起きてんのかな?」

「え?」

「この亮に起きてる現象を、俺は「凄い」としか思えなかったんだけど」


 そういう拓海の目は嫌悪の色を一切宿していなかった。

 何も考えてないような眼は、いつもテレビを見ている時みたいにつまらなさそうに亮を視ている。


「まぁ、確かに。オーディンのような神がいて、夢現武闘会なんて非常識があるのなら、別に早送りされる人間がいても別に不思議じゃない。ならそれ以上の化け物がいたって、別に不自然でもないでもないね」


 いや、もう一人いたらしい。

 楓はなんでもないと言うように苦笑して言った。……少し嬉しそうにも見える。


「そう言ってくれるだけで、オレ達は救われる。あぁ、勘違いしないでくれ。単に異常者同士、分かち合っているようなものだ。普通ならその反応で合ってるから、むしろ誇っていい」


 早送りが終わったらしい亮が、苦笑気味に言った。その表情には若干憂いがある。が、どうでもいい。


「おいそれ俺達が異常だとでも言うのか? お?」

「逆に聞くけど否定できるか?」

「………………」


 言い返されると、思わず黙ってしまう。その様子に亮は苦笑気味から苦笑に変わる。


「しっかし、あの展開からまさかとは思ってたが、オレの世界ものがたりはバッドエンドかよ」


 沈黙する拓海をフォローしようと、話を振ってきた。

 お言葉に甘えて、乗っかるとしよう。いつか見返してやるという、子供みたいな目標をまた一つ掲げつつ。


「……すまんな。あのまま予定変更したら矛盾というかご都合主義が過ぎて、物語が劣化する恐れがあったから」

「それに今はどうあれ、兄貴が根暗だった事には変わりないからね仕方ないね!」

「うっせぇぞ男装天パロリ!」

「それは言わないって約束でしょ眼鏡鬼〇郎!」


 拓海と時亜がじゃれあいにも似た口喧嘩を観戦しながら、亮はおかしそうに笑う。

 ずっと眺めていたい気持ちになりつつも、話が進まないからか、無理矢理割り込んでくる。


「まぁ、世界観の時にも言ったけど、別に気にしてないって。もしあれなら、オレの手で運命(シナリオ)をぶち壊すだけだから」

「うひゃー、ザ・主人公って感じの台詞だ! 実際に聞くと背中がムズムズする!」

「そ、そうだな」


 ……似たような事を何度か言った覚えがあるが、黙っておこう。

 時亜にも言った覚えがあるとか、左前で楓がニヤニヤしているとか気にしてはいけない。

 気にしてはいけないのだっ。

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