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夢と現のクロスロード  作者: 佐月栄汰
創喚者編Ⅱ
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第三章・生徒会⑨


「――――……ははっ」


 思わず乾いた笑みが溢れる。

 あぁ、確かに。沙良もナタリアもこの一撃で終わるとは思っていなかった。

 ただ起死回生のチャンスだと、対等の立場に戻す為に沙良は右腕を犠牲にして必殺を振るった。

 それも早々上手くはいかないと、頭の隅で思ってはいた。

 だが、だがだ。それでも――――、


「やぁ、元気? 私は見ての通り――五体満足ピンピンしてるよ」


 埃すら付いていない(・・・・・・・・・)まったくの無傷と誰(・・・・・・・・・)が思う(・・・)


 その事実には、流石に沙良もナタリアも脱力するしかない。

 ……とりあえず、聞いてみよう。


「…………参考までに、どうやって無傷で凌ぐことが出来たのか、聞いてもいいよろしいですか?」


 楓はその質問を待っていたと言わんばかりに笑みを深め頷く。


「参考、と言っても、別に大したことはしていないけどね。単に私に降りかかってくるモノ。熱、衝撃その他全てを片っ端から相殺しただけさ。……ま、流石に素だと死ぬと思ったから――」


 ――ちょっとだけ、本気出したけど――


 そう言って、楓は握られている化石の剣を軽く振った。

 傍らには、予想を反して誰もいない。

 つまり、騎士の援護もなしに、たった一人であれを防ぎ切ったというのか。


「しかし、君たち正気かい? 騎士が腕一本犠牲にするほど本気の一撃なんて、いくらなんでもやり過ぎだ。おかげでまるで核でも落とされたようになってしまったじゃないか。私じゃなかったら死んでるよ?」

「死んでないし、そもそも夢現武闘会では死なないんだから良いではありませんか。というより、貴女以外にはあんなの撃ち込みませんよ」


「ここまで遠慮したいラブコールは初めてだよ」

 と、くすくすとおかしそうに笑う。

 結局、分からないことが増えてしまったが、一つ理解したことがある。


 こうして、彼女の前に立ちはだかった時点で、自分らは詰んでいたのだと。


「――創喚者よ」

「あぁ」


 不意に、楓の隣に舞い降りた男が一人。騎士のサトルだ。

 沙良は鬼切を突き出し、ナタリアは片手にコイン、片手にグリモワールを持って闘志やるきを二人に示す。

 サトルの姿も、覇気も先ほどと変わらないが、ナタリアと沙良には分からないところで変わっているのだろう。


 だが、どうだって良い。向かって来るなら立ち向かうまで。

 徹底的に勝機を砕かれようとも、この意志は砕けない。

 だって、やっと。

 やっと彼の役に立てる時が来たのかもしれないのだから。

 だから――、


「分かってる。皆まで言わなくても良いよ、サトル」


 そういう楓の口調は、嬉しそうで、でも顔は少し悔し気だった。


「なんなのだ、彼は。私の起動を阻止させるなど、馬鹿げてるぞ」

「そりゃ、よしみで本の見せ合いとかしたことあるからね。あれこれの特徴は勿論、弱点だって熟知しているのさ。お互いにね」

「だがそれでも信じられん。いくらなんでも、棺桶を殴り飛ばす(・・・・・・・・)なんて、力技の方で止めるのは創喚者がやることではないぞ」

「それが、彼だからね。必要だと思ったらとことん突っ切るのを見ているのは気持ちがいい。ま、身内だとひやひやものなんだけどさ」


 二人の会話を警戒していると、いくつか心当たりがあるものが聞こえる。

 どれだけ力不足だと理解してても、やると決めたらやる。

 それがどれだけ危険だとしても、その先に臨む道があるのなら迷わず突き進む、見た目に似合わず愚直な人。

 そんなことをやらかす男なんて、ナタリアは一人しか知らない。


「おっと、そちらも感づいたようだね。そう――」


 ナタリアの顔を尻目に、楓は空を見上げる。

 釣られるように、上を向くと、明るくなって星々が隠れていく中、飛来してくるモノが一つ。

 黒い点は、やがて人形と形を成し――否、あれは人形じゃなくて、


「――時間切れさ」


 一人の人間バカだった。



「――――――」


 このままだと、グチャッとなって死ぬなぁ、と。

 落下する自分の結末を知って、まるで他人事のように内心呟いた。

 棺桶を殴ろうと飛び出した時に、後ろからの「バカーーー!」という幼なじみの叫び声が今一度脳裏に浮かんでくる。

 うん、自分でもそう思う。

 時計塔の時ですら自殺行為だと理解していたのに、今度はナタリアと楓達の真上――それもさっきよりも高いところへと能力・転移して、パラシュートなしスカイダイビングと来た。これを馬鹿と言わずなんという。


(いや、一応打開策はあるんだけどね)


 じゃないとするわけがない。雲と同じ高さにまで転移したのもそれが理由だ。


 まず、肉体の限界出力まで身体強化をする。

 身体の周りに膜を張るように、血液を巡らせるように力を身体中に循環させる。

 すれば身体は霊体に近いモノを体内に埋め込まれ、一時的に騎士に近しいモノとなる。


 だがまだ足りない。

 騎士と言えど、浮きもしない身体がそのまま落下すれば押し潰れてしまう。

 ならば、どうするか。


(なら、一瞬でも浮けば良い。この速度を台無しにすればいい)


 簡単ではない。そんなことは分かってる。

 けれど、やらなければ死ぬのだ。夢現武闘会による敗北じゃないと、きっとシステムに作用しないから。


 準備する。地面に近くなってきた。

 頭を勢いよく縦に振るようにして回る。左足を曲げ、右足をピンと伸ばす。


花閃流はながさく


 力を主に右足に集中し、エネルギーは青く発光する。

 その頃には身体は大車輪のように回っていて、光は勢い余って輪を作る。


参ノ道(そのなは)――――」


 それはまるで月のよう。

 赤羽家に伝わる、拓海が身に着けた花の流派。

 これよりお見せするのは栄光という意味を持つ花。


 あと数秒で地面に届く。

 一度着地すれば、重力と衝撃が自分を押しつぶすだろう。

 なら、


月桂樹げっけいじゅッ!」


 栄光の一撃を以って相殺するのみッ!


「ッ、――――!」


 回転の勢いが乗った一撃あしが地面に着く。

 すると地は揺れ崩れ、衝撃は周囲に飛び散った。

 身体が浮き上がる。肉体に掛かった圧力が帳消しされる。


 全ての衝撃は逃がしきれず、右足は畳むように折れ曲がり、地面は軽く陥没したように滅茶苦茶だけど――どうにか生きていられたようだ。

 折れ曲がった右足に、目の色が遠退く程の激痛が襲うが、それが逆に生きている実感をくれる。


(我ながら、無茶したものだ。いつものことだけど。……さて)


 そろそろ真里華が来て、話がこじれる前に。


「双方、武器を下げろ本を閉じろ手を降ろせ。――喧嘩あそびはおしまいだ」


 全部、済ませて置かないと。

 勿論、穏便に。




             ***



 

 結界を張る前と一切代わり映えしない空と、部活動に勤しむ生徒達の声が聞こえる。


 拓海の存在で闘争は終幕を迎え、沙良の霊体からだを修復し、拓海の脚を治し、結界を壊して元の現実せいとかいしつに戻ってくると、


「全く、いつもいつも拓海は! 一度戦うたびにどこか折らないと気が済まないの⁉」

「め、滅相もございません……」


 拓海を待っていたのは、説教だった。地に正座し、その前に真里華が仁王立ちで怒鳴っている。


「じゃあなんでああも無茶するの! 心配する私たちの身にもなってみてよ! 大体ねぇ――」


 ガミガミ、ガミガミ、ガミガミと。

 真里華の気持ちも良く分かる楓とナタリアは揃って苦笑する。


「……赤羽氏、そこらへんにしてあげてくれないかな?」


 だが、流石に長すぎると、拓海より先に痺れを切らした楓が言う。


「……でも」

「いつも言ってる事を何度言ったところで無駄な事さ。それに、無茶をしない同志なんて想像できない。そもそも、君はとっくに気は済んでるはずだけど?」

「………………」


 図星を突かれたのか、黙りこむ真里華。

 気は済んでいても、言っても分からない拓海に口酸っぱく言った方が良いと思っていたのだ。

 自分らが少しでも危険な目に合う事があると分かっている時点で、それは無駄ということも、理解しているが。


「さ、同志立って」

「あ、あぁ」


 少々戸惑い、真里華をちらちらと見ながら恐る恐る立ち上がる。

 そんな様子の拓海に、ため息を大きく吐いた真里華は、あきれた様子で彼に許したと軽く笑って見せた。


「では、改めて聞きましょう」


 と、頃合いを見てナタリアは問う。

 何のことかは、拓海も分かっている。


「……うん。リア姉の提案に乗るよ。俺も、文芸部がないままなのは我慢ならなかったからね」

「理解していただけて嬉しいですわ」


 そう嬉しそうに微笑むナタリア。

 対照に、仕方なさそうに微笑みながら、ちょっと面白くなさそうに楓は目を細める。


「ただ、リア姉の権限を使うのはいただけない。どうにかしてどこでも表だって行動できるようにしたいからな。俺達も、上野さん達も」

「……ではどうしろと?」

「それは後々考える。とりあえず、今のところの拠点はいつも通りの場所か、楓の言うように俺ん家で良いだろう」


 二人の表情が入れ替わる。が、気にすることなく言葉を続ける。


 とりあえず、今やれること、言える事をしていくのが最優先だ。

 一つは、ナタリアと手を組むこと。

 一つは、部活を作ること。

 そしてもう一つは――、


「あぁ、あと。手を組むんだ。さっきみたいな出過ぎた真似はしないように」


 喧嘩を良くする二人の牽制だ。

 喧嘩するほど仲が良いとは言うが、この二人に関してはそれが適用されるのか不明である。

 だからこうしてきちんと言っておかないとならない。

 勿論、手綱を引く事は出来ないし、完全に喧嘩を止められる程の意味はないけれど、それでも予防線にはなる。


「異論は?」

「ないよ」「ありませんわ」


 現に、今度の二人の表情は揃って顰め面に変わり、お互いに目を向けているが、後に諦めた様子で目を閉じている。


「――それじゃあ、改めてよろしく」


 今度はこっちから、手を差し伸べる。

 するとナタリアは肩を落とし、困ったように笑って、今度こそその手を握った。

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