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夢と現のクロスロード  作者: 佐月栄汰
創喚者編Ⅱ
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第三章・生徒会⑤

「っ…………!」


 若干、サトルの力量に押しつぶされそうになったところを見たナタリアは、袖から下ろしたコインを複数、目の前にばら撒く。

 落ちる前に、そのコインを指先で触れる。

 するとコインはその場で浮き、よく見ると風が纏われていた。


 これこそが、先ほどナタリアが使った技能の正体。

 身体強化の類いでは決してなく、風を纏わせるだけの初級の初級。

 要するに攻撃性もない、補助性も殆ど皆無の……唯一の利点は身体じぶんに使うことで驚くほど軽くなり、羽でも生えたように跳べるだけの代物。

 けど、それこそがナタリアにとって、一番「あったらいいなぁ」という設定関係無しに妄想した術だった。


「――くだけ」


 その理由を証明するように、ナタリアは素早く、まるでビリヤードの早打ちのように浮いたコインを目標目掛けて弾ち出した!

 すると、それは流星の如く勢いを纏って、以前亮の足の骨を粉砕した〝それ〟の再現をするべく豪速で跳んでいく。


 羅漢銭らかんせん

 正確には指弾というその技術は、銭形平次が使っていたとされるもの。

 ポピュラーなものを言えば、拳を握るような形で、親指で弾くという方法だという。

 それが暗器である理由は、言うまでもなく、その隠蔽力だが、ナタリアにとってそれは関係ない。憧れて覚えただけなのだから、前線で使っても何ら問題ない。

 それが行なえるくらいに、彼女は技術を――そして力を得たのだから!


退魔爆裂あばれろ――〝鎌鼬かまいたち〟!」


 風纏う剛銭ごうせんがサトルのすぐ近くまで迫った時、ナタリアは紡ぐ。

 するとコインはその場で爆発し…………散らばった欠片は、〝魔〟を殺す呪いとなってサトルに襲い掛かった!


「ッ――――⁉」


 それはさながら鎌鼬が暴れるよう。

 ただそれだけでも、きゅうけつきにとっての〝毒〟を彼の第六感が察知し、背筋が一瞬凍りつく。

 咄嗟に沙良を押し退け、方向転換。大剣を振るい振るって爆風と欠片を吹き飛ばす。一瞬、ホッと一息つきそうになるサトルはすぐに重大なミスを犯したことに気付いた。


 目線を横に。

 すると案の定、沙良が鬼殺しの二刀をサトルの頭上に構え、今にも振り下ろさんとしていた。

 再び視界がスローになる。

 しかし今度は走馬灯。身体は既に死を受け入れていた。

 だが――、


「そうは問屋は卸さない、ってね」


 途端、沙良の動きが止まる。

 沙良自身、何が起きたのか分からず自らの身体を見回す。

 ――鎖だ。

 時計搭を縛っていた鎖が、此方にまで手を伸ばして、沙良を縛ったのだ。

 理由は分かってももがいても、これをほどく方法が分からず、鎖は沙良を振り回し、果ては地面に叩きつけられた。


「ガッ――ハ―――ッァ⁉」


 激痛。鈍痛。

 内臓は大きく揺れ、吐血しながら吐き気を催す。

 全身の骨が響き、ズクンズクンと腫れるような、脈を打つような感触と痛みが襲う。

 そのせいで、とてもじゃないが今は身動きが取れない。


 そこに、沙良へとひとりでに突貫してくる紅い剣が―――。


「くっ……!」


 苦渋の表情を浮かべながら、七の浮遊刀達を沙良の前に突き刺し盾に。

 浮遊刀と紅い剣が甲高い音を立てて接触したその時、紅い剣は融け液状スライムとなって浮遊刀達を包み込み――最後にそこに残ったのは、その紅い液体で、それも蒸発するように音を立てて消えていった。


「こんなえげつないものを人に向けて放つとは、人の所業やることとは思えませんね……」


 沙良は危機回避し、痛みが徐々に薄れてきた今も尚、引きつった顔を正さない。とりあえず心配そうに見ている創喚者に顔を向けないで手を振っておく。

 それもそうだ。さっきのあれは、硫酸りゅうさんですら生易なまやさしいく思えるほどの代物と思えた。


(……恐らく、 赤の騎士(かれ)の血)


 吸血鬼の真祖に近しいモノだと、彼は頷いた。

 なら、彼の血そのものも、ナニカとんでもないものであっても不思議じゃない。少なくとも、剣が数秒で全て融けていったところを見るに、少しでもかかった時点で沙良は現実ぶたいから下ろされていただろう。


 そんなifを思ってゾッとし、それを忘れるように上を見上げ――、


「……?」


 少し、下げる。具体的に言うと時計塔へと顔を向けて目を細める。


(……間違い、ありませんね)


 あそこに浮いているのは、確かにサトルだ。いつの間にあんなところに移動したのだろう。

 いや、それよりあの鎖で縛られた棺桶の前で何をして……。


「いやぁ、流石だね黄の騎士。隙をついたと思ったのにあっさりと凌ぐとは」


 思考が途切れる。

 顔を正位置に戻すと、騎士とはいえ人を殺すような真似をしておいて、知らん顔えがおの楓がいて、沙良を 称賛する(煽る)


「ははは、それはどうも。お礼にその身体に玉鋼たまはがねをぶち込んであげましょうか」

「そいつは勘弁。……しかし、やはりというか、あの程度じゃ君をころすには至らないか。まぁ良い」


 途端、楓は笑みを深く、眼を細める。

 その時、沙良に予感があった。


 ――あの女を止めなければマズい事になる、と。


「そろそろ――」

「ッ――――――‼‼」


 楓の言葉を遮るように浮遊刀を二つほど射出する。

 このままでは創喚者は串刺しになり、敗北すると言うのに、サトルはこちらを見向きもしない。

 ただ棺桶に触れ、なにかを呟いている。


 ――すると、棺桶に触れる手が棺桶にめり込み始めた。

 泥にはまっていくように、底なしの沼には沈んでいくように。

 それをサトルは黙って受け入れ、そのまま棺桶の中に取り込まれてしまった。


 その光景にどういうことだと疑問が湧き上がる中、迫り来る浮遊刀を前に、楓はう。


「〝二度目の鐘が、鳴った〟」


 その言葉の通り、再び鐘が鳴る。

 その瞬間、空から襲来するモノが浮遊刀の前を遮り、楓の盾となる。


(あれは、人形?)


 見間違いでなければ、上から糸で吊るして劇をするようなタイプの人形だ。

 サイズは人間と同等だが、まず間違いないだろう。


「〝これにて余興おあそびはおしまい〟」


 それが糸が切れたように倒れるのを境に、デザインの違う同等の人形が次々と降ってくる。


「〝さぁさぁ、それでは皆様お待ちかね。―― 人形劇(fairy tale)――の始まり始まり〟」


 それは人間タイプだけではない。

 巨大な蛙やうさぎ、馬にライオン。果てはドラゴンといった様々な生物が、巨大な人形となって降りてくる。


「〝役者は私と〟」『〝わたしたちと〟』

「『〝あなたたち〟』」


 糸に吊らされたような態勢で静止している人形かれらを見ながら、謳いつつ楓はいつの間にか取り出した指揮棒らしきものを一振り、二振り。

 するとそれらは命が吹き込まれたように動き出し、ボタンの眼は全て沙良とナタリアに向かれる。


「〝観客はいないけど、〟」

『〝それならわたしたちは好きにやろう〟』


 何故か生気があるかのように錯覚した沙良は、その事実に恐怖する。

 機微の動きは、まさに生き物そのもので、とても人形とは思えない。


「〝楽しく? 悲しく?〟」

『〝楽しく悲しい舞踏会!〟』


 だが魂を植え付けたようには決して思えない。

 ならば、全て楓は操作しているということなのか?

 どちらにしても、人間技ではない。まるで悪魔の所業だ。

 そもそも、能力アビリティとして登録できるかどうかすら怪しいものを使っているこの女はなんだ?


「〝じゃあ脚本はいらないね〟」

『〝ではでは皆様楽しく悲しく好き勝手に〟』


 人形は/楓は嗤う。

 操作しているというのなら、この余裕はなんだ?

 騎士の沙良ですらできない事をやってのこているであろう彼女は、なんなのだ?

 いや、そもそもだ。本当に、本当に――――、


「『〝思い思いに殺し合いましょう〟』」


彼女は人間なのですか・・・・・・・・・・――――⁉)

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