第三章・生徒会②
「……あぁ、ごめん。ちょっと話しててさ」
「あら、そうだったのですか。でもそれなら、事前にメールくらい欲しかったです」
「そう、だな。次は気を付けるよ」
「そうしてくださいな」
……いつも通りだ。不自然な程に。
三日前の事なんてなかったように笑顔で。今までと何一つ変わらないというように自然で。
それが反って不自然さを生み出している。
――不愉快だ。
そんな風に思う自分が不愉快だ。
そんな風に思わせる従姉弟が不愉快だ。
この鳥肌が立つ怖気が不愉快だ。
「なぁ、リア姉――」
「さっ、三人とも席に着いてください。今日の議題に取り掛かりましょう」
その感覚を止めたくて声を掛けるが、それも虚しくナタリアに遮られ、いつものように催促する。
「拓海。いつまでもこんなところに立っていたって仕方ないし、大人しく座ろう?」
「…………そうだな」
座った方が落ち着いて話が出来るというものだし、それに――――。
「どうしたんだい、二人とも。ほらほら、座って座って」
『………………』
我先にとさっさと座った阿呆もいる事だし。とりあえず後で殴ろう。
そう後の予定を一つ決めつつ、拓海と真里華はいつもの定位置に座る。
書記・拓海。
会計・楓。
副会長・真里華。
生徒会長・ナタリア。
生徒会役員全員が着席した。
するとナタリアは再度確認するように見回すと、そっと両手を合わせて、
「――それでは、もう何回目になるか分からない生徒会会議を始めたいと思います」
と、笑顔を深めて言った。
――瞬間、空気がギリッとズレる錯覚に陥る。
改編結界によるもの――ではない。あっちはズレるというより反転するという方が近い。
では、なんだというのかというと、多分拓海の胸の内で早鐘を打っている心臓が答えだ。
――緊張――恐怖――期待――不安――。
それらが入り混じった感情が、まるで拓海の心理的視界が生み出しているのだろう。
「それで、今日の議題ですが……まぁ、あなた方の目が催促を促してるようなので、〝私たちにとっての〟の本題に参りましょうか」
「っ!」
緊張からか、心臓は高く跳ね上がり、思わず息を呑む。
ドクンドクンドクンドクン。
拓海の心理状態とは裏腹に、静かでゆっくりと時間を進むのを待つ教室は、運動場で部活動に励む生徒たちの声を響かせる。
「では、まずたっくんにはこの資料を差し上げますね」
ただの一秒が一分、はたまた一時間にすら思えてくるような中、ナタリアはふと手に持つ資料を手渡してくる。
若干の疑問が頭に浮かぶが、とりあえず資料を素直に受け取る。
これは…………、
「部活動申請用紙?」
文芸部という部活名と、部員枠には碧海に在学している創喚者の名前。拓海達の担任である倉沼が、顧問枠に。
果ては仮の活動内容、仮の申請理由まで。
書いた覚えのない、既に空欄の埋まった申請書だった。
「えぇ。帰宅部の私たちには、創喚者として必要な安住の地が、安心してグリモワールの書き足しをする場所がない。あの中立域だって、神様がいないからとて他の創喚者が来ないという理由にはならない。だったら部活を作って、その部室で書けばある程度安心でしょう?」
文芸部は数年前に部員不足で廃部になってるし、復活させる意味でも丁度良い。
文化部の中でも一番メジャーな部活がないなんて、生徒会長としても、ナタリア個人としても見過ごせない。
だって、仮には実際に自分で書いてみるくらいには、本が好きなのだから。
「……なるほど。それに部活動であれば、部費が手に入るというのもでかいですね。合宿なんてこともできるかも」
「あぁ! それは良いですわね! 今後出来るか検討してみましょう!」
ただ拓海は呆然と話し合う真里華とナタリアを見る。
確かに、最近周りばかり気にして続きを書いてないし、それらしいことは亮達騎士からもそれとなく忠告されていたから、それは有り難いけど。
(姫凰にいる明日葉とか、どこの学校の人なのか分からない上野さんとかの事はどうするべきも考えないと……)
――ではなく。
つまり、話の流れから察するに……、
「俺達の仲間に、なってくれるって事で、良いんだよ、ね?」
「はい。そうですよ」
「――――はぁぁぁぁあ」
その一言を聞いた瞬間、ドッと身体の力が抜ける。
無駄に警戒しすぎたのかもしれない。というか、もしもの方に気を取られ過ぎていたのだろう。
まるで忠犬というか、猫みたいだと自分を比喩し、また真里華とナタリアは拓海らしいと笑う。
とにもかくにも、何事もなく一件落着。
空欄である部長欄はどうするのか、今後の方針とか色々離さないといけないけど――――。
「今後とも、よろしく頼む。頼りにさせてもらうから、そのつもりだね、リア姉」
「こちらこそ。お姉ちゃんにドーン! とおまかせなさい!」
ちょっと日本語が変だぞ、と笑い合い、そうして握手をしようとして、
「――ちょっと待った」
楓の言葉によって、一旦それは遮られた。




