プロローグ
創喚者編Ⅱ、始まります。
引き続き、拓海たちによる夢のような物語をお楽しみいただけたらと思います。
ブックマーク、感想、評価してくれたら嬉しいです。
小さな時、彼女は初めてテレビを見た。
いつだったかは正確に覚えていないが、とにかく衝撃的だったのを覚えている。
『わぁ………』
画面に映る複数の人達が笑いを取ったり、感動を与えたり、様々な感情を伝えているのが、とても新鮮で。
とても、凄く感じて。
自分もこうなれたら――そう思えるようになった。
中でも彼女に影響を与えたのは、ある歌手が歌っているところ。
胸が高鳴った。身体が熱くなった。
それが夢に変わるのは、そう時間はかからなかった。
だけど、
『駄目だ、認められない』
周りはそれを許してくれなかった。
決められたレールを歩ませようと強制してくるばかり。
(そんなのは、嫌だ)
それに委ねれば、きっと楽なのかもしれない。
簡単に就職できて、簡単に結婚出来て、簡単に人生を歩む事が出来るだろう。
でも彼女はそれが嫌だった。
(私は〝誰か〟の人形じゃない、皆と同じ、ここに生きる人間なんだ)
そんなつまらない人生に身を委ねたくない。
誰かの〝物〟になんか、なりたくない……!
だから私は――!
(必ず、黄金の果実で願いを叶えるんだ)
傍らにいる騎士と共に、彼女はそう誓った。
***
――夢現武闘会の開祭から一ヶ月。
ここは、武闘会の中立区域、夢と現の交差点。
陽光が眩しく、まるで幻想というものを体現しているかのような場所。
ここに対峙するは、二人の男。
一人は、黒の創喚者である紫苑拓海。
一人は、青の騎士である寺本明。
そのパートナーは傍らにおらず、小屋の近くに座って見学している。
「技能発動《身体強化・汎用型》!」
拓海の幼なじみ、赤羽真里華とその騎士、神崎来華も含めた観客に見守られる中、拓海は弾けるように動き出しながら、球体のエネルギーの塊を握りつぶして肉体を強化。
青い光に包まれながら、右手を拳に肘を引く。
ただひたすらに前に進み、明の範囲に侵入する。
「フッ―――!」
そこで明は動いた。
手に持つ魔槍・ルーンルインを振るい、拓海の拳と槍は激突した。
周囲に衝撃。それは暴風となって周りを荒らす。
お互いに己の武器を押し出すように弾き、一手、二手、三手と、二人は猛威振るう攻防の連鎖を繰り返す。
「クァ――!」
その最中、ここだ、と明は少し後ろに下がった。
身体をくるっと回し、回転する勢いをルーンルインに乗せた明は、風を斬る轟音と共に空振り無防備となった拓海のあばらを叩き折らんと得物を振るう!
(おいおい、それは流石にナメ過ぎだぜ)
しかし、それは悪手。
焦ることなく拓海は軽く跳んで落ちる要領でしゃがみ、難なく回避することができた。
前の拓海ならいざ知らず、今の拓海にそんな隙だらけの攻撃は通じない!
そうその隙を逃すことなく懐に潜りこむ。
その時明はほくそ笑んだ。
(誘われた!)
拓海の右拳が猛威を振るう直前、何やら呟いていた。
……だが何も起こらない。
そう不思議がりながら拳を止める事なく、明の鳩尾を殴り――
「――――ぁっ?」
その場に倒れようとしていたのは拓海だった。
認識すると共に、鳩尾に激痛が走る。
視界が霞み、膝がガクガクと笑っている。
(これは、まさか⁉︎)
「シオンも気付いているだろうが、これは反射。与えられたダメージをそっくりそのまま返す魔術だ。ついでに言うと、我が創喚者――未来による能力でもない、
れっきとしたオレが使う魔術だ」
まぁ、魔力とんでもなく食うから滅多に使わないが、と言う明の言葉を、拓海は半分も聞き取る暇がない。
「確かに、テメェの拳は脅威と言って差し支えない。だが残念ながら、冷静に対処さえすれば、簡単に攻略出来ちまう程に真っ直ぐ過ぎんだよ。他にもあるぜ? 例えば――」
「くっ……!」
苦渋の表情を浮かべながら、拓海は抵抗をやめず、立ち上がり様殴りかかる。
そしてそのまま直撃しようとした時――一瞬、手の力が緩み、その隙に手を掴まれてしまった。
「次がこれ。模擬戦だからか知らないが、騎士であるオレ相手に加減しようとしてしまっていること。これが続けば癖が付くし、次の戦いの際には邪魔でしかない」
そう掴まれた手を放されるも、既に攻撃する気力はなく。
「とまぁ、他にもあるが、とりあえず結論を言わせてもらうと……出直せ素人」
脱力し、その場で寝そべり降参の意を示したのだった。