第六章・一歩①
翌日。
明達を半ば強引に仲間に引き入れてから次の日。
拓海は今日、久々に六時という早朝に眼を覚ましていた。
今までの朝と違って、気持ちも頭もスッキリしている。
その気分をじっくり味わいたくて、カーテンを開いてその前にじっと佇む。
(こんなに心配事や、もやもやすることのない朝は、何時ぶりだっけ)
小三以来か……もしくは今までなかったかもしれないというほど記憶にないが、こうして今いい気分なのだ。思い出せないものを思い出そうとしなくていいだろう。
……いや、一つだけ。気にするべきことがあった。
『――好きです!』
実はあの後。明達と和解してすぐ。
何やらニヤニヤしている楓が、顔を真っ赤にしている明日葉を連れてきた。
その時、楓がなにか催促するような仕草をしたかと思えば、明日葉が突然告白してきたのだ。
後に聞いたが、負けたら黄金の果実で何を願うつもりだったのか言わせようという賭けのようなものをしていたらしい。楓らしく悪趣味だ。
当然ながら、拓海の答えはNO。それを分かっていたのか、明日葉は笑いながら答えを求めなかった。
『アスはぁ、タクミンと一緒にサークル活動をしたかったのぉ。タクミンはシナリオ。アスはイラストって分配でねぇ』
『それだけ?』
『それだけぇ。流石に結ばれる事を願うのは、流石のアスでも違うと思うしねぇ。だったらせめて、サークル活動を一緒にしたいと思ったのぉ』
ただ、それを暴露するのなら思い切って告白してきっぱり諦めるのが良い気がしたのだと、明日葉はスッキリした笑顔で言った。
ちなみに、サークル活動に関しては拓海自身興味があったので、黄金の果実云々抜きにして設立予定だ。
(まぁ、その後せめてもの抵抗だとかなんとかで『明日葉』と呼んでほしいって言われたから呼んだら、後ろの視線が痛かったのは辛かったけど)
今思い出しても胃が痛くなってくる。
「はぁ………」
「――あれ、起きてたのか拓海」
そうため息を吐いていると、扉が開き、亮が入ってくる。
その顔には少し驚きが混じっており、目を丸く拓海をみている。
「今日は早く起きれたんだよ。それで、なんか用か?」
「ん、あぁ。大したことじゃない。ただ確認したくてな。その腕の」
「あぁ、なるほど」
拓海は思わず包帯で巻かれた右腕を振り、手を開いたり握ったりする。
「どうだ、痛かったり違和感を感じたりしないか?」
「大丈夫、今のところなんともない」
昨日、楓が来るまでの間、亮、明、来華、美月の手によって動かなくなっていた右腕を治してもらっていたのだ。
ただ、拓海が思った以上に重症だったらしく、現実の治療技術では切り落とす以外の選択がなかった程だったらしい。
治すのは最後で良いと言った時は、創喚者だけでなく、騎士一同からも『駄目』と怒鳴られたものだ。
「一応、治りはしているはずだが、それでも完治と言うには心配がある。だから、少なくとも一週間は安静にしろ。良いな」
「わかってるって、心配性だなぁ。これでもう十数回は聞いてるぞそれ」
「なんとなくだが、アンタは下手なバカよりも無茶しそうな雰囲気を漂わせてるからな。こうまで言わないと言う事聞かない気がして」
「大丈夫だって。余程の事がない限り、自分から危険に跳び込むような真似はしないさ」
「……心配だ」
(どこまで信用されてないんだ、俺は)
既に過保護と言っていいレベルではないか。そう苦笑していると、鍵が開く音がする。
「ほら、真里華も来たことだし、茶の間に行こうぜ」
「お、おい! ちょっと待て!」
未だうんうん唸る亮の背中を押し、二人して茶の間へと向かおうとするが、止まる事を余儀なくされる。
まだ何かあるのか、そう思っていると、スマホにメールが届く。
亮の言葉を聞き流しながら、そのメールを開いて――
「…………」
「――おい、聞いてんのか?」
「あ? あぁ、悪い。もう一回頼む」
沈黙していた拓海は意識を呼び戻されると、さっとスマホを懐に入れながら聞き返す。
「……挨拶だよ、挨拶」
「はっ?」
「だから、朝の挨拶。オレ達まだちゃんとしてないだろ。朝は、この一言なしじゃ始まんないだろ?」
「あー、確かに」
そう言いながら、この様子からしてメールを見られていなかったのだと安堵する。
メールの内容は、吸値と蛇居から。いつもの要件だった。
腕の事を考えると、行かない方が良いんだろうが、個人的には行かないわけにはいかなかった。
(ヒーローをもう一度目指すなら、一歩踏み出すなら、こんな事はもう終わりにしないといけない。――仲介くんを、卒業しなくてはいけない)
下手な事を言わなければ、きっと大丈夫。だけど、万が一の事もある。
それでも、このままこの問題を放っておくわけにもいかない。
だから、一応「ごめん」と心の中で謝って、今は実感しよう。
「――というわけで。おはよう、拓海」
「あぁ、おはよう亮」
いつもと違う、朝が来たことを。




