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夢と現のクロスロード  作者: 佐月栄汰
創喚者編Ⅰ
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第五章・我儘⑥

 途端にグリモワールを開いた拓海の前を遮るように、亮が先行する。

 途中、カラドボルグを納刀。

 カリバーンは両手で持ち、刀身を背に刃を外側に向け、まるで居合のような構えで疾走する。

技能スキル発動、《身体強化・速度型スピード》!」

 拓海のサポートが割り込む。すれば亮は身軽になり、目に視えて速度が上がった。

 手に力が込もり、獲物を睨んで三度ステップを踏むように跳び、最後に力いっぱいに蹴り跳ぶ。

 疾走する狼。剥くはきば

 通り抜きざま食いちぎるように、最小限の動きを以ってなぞり振るい、獲物を狩る我流剣術が一。


「《迅狼じんろう》―――!」


 風が鳴き、赤が散る。

 明の背には亮がいて、白き刃を突き出すような形で佇んでいた。

 しかしったのは亮が狙った左脇腹とは見当違いの左肩。

 直前に柄で弾かれ逸らされたのだ。それでも脚を止めることは叶わなかったらしい。

『チッ――』

 ――狙い通りにはいかなかったか……だがこれで良い。こちらの準備は整った。

 二人の舌打ちが、思考が重なる。

技能スキル――」

 明に向かって再び走り出す。口ずさむのは創喚者の呪文。

 着実に距離を詰めるもう一匹の獣。動きたくても後ろの亮が恐らく許してくれない。

 だけど、それは百も承知。この状況を打破する準備はすでに整っている!


「創喚者!」

能力アビリティ発動、《瞬間停止とまれ》!」


 止まる。

 拓海も、亮も、前回と同じように硬直させられた。

 穂先を向けられ、先には赤い光が集束する。

 瞬間、動き出す身体。砲撃に構わず明に向かって走る拓海。

「なっ――チッ!」

 少なからず止まると思っていた明は驚きを隠せないまま、貯め込んだ熱を砲撃として解き放つ。

「発動、《武具強化――!」

 唱えると共にかき消される声。一寸も違わず砲撃は拓海に直撃した。

「兄貴⁉」

「大丈夫」

 爆煙は拓海を隠し、この場は静寂する。

 終わった。明達の勝利だと、他から見れば一目瞭然だろう。

 ――だが、それを真里華は否定するように笑う。

 対するように、明も赤く染まった穂先をまだ向けている。

 その理由は、煙が晴れた目の前で証明される。

「あれは――」

 黒いジャケット。否、それはブレザー。

 自分が着ていたブレザーを盾に、拓海はその場に立っていた。

「―――防御型ディフェンス》」

 そう、ブレザーや学ランも、学生にとっては防具と言っても差し支えない。ならばそれを強化し、即興の盾としても別に問題はない。拓海はそう解釈しただけ。

 別に創喚者にとって、特別な事はしていない。


(だがこれで、瞬間停止と砲撃を使わせた!)


 脱いだブレザーを放り投げ、止めた足を走らせる。少し痺れ始めてきた右手を握り肘を引いた。

「くそ――!」

「おっと、させないぜ?」

 応戦しようと身構える明の横から亮が割り込み、槍を巻き込んで地面に双剣を叩きつける。


「てめ、自分の武器になんて真似してンだ⁉」

「勝ちだけを狙いにいくスタイルなんだろ? だったらオレ達もそうさせてもらっただけだ。そら、決めろ拓海」

「ッ⁉」


 気が付けば、拓海はもうすぐ傍。右肘を引き、あとは勢いに乗せて突き出す態勢になっていた。

 回避しようとする明の姿が見える。予想よりも回避行動が早い。

 これを空ぶれば、明はその隙を突いて、その魔槍を以って拓海の身体を貫くだろう。


 ――と、確信したその時。一筋の弾丸が明の足元に着弾し、動きを止めた彼の身体をプラズマが這っていた。


「ガッ―――⁉」

 肉体は麻痺し、数秒硬直する。

 誰がやったかのなど、見渡す必要もない。


〈――臆病者なんて言って、悪かったわね〉

〈お膳立てしてあげるんだから、男の子らしくしっかり決めて、私の創喚者に良いところみせるんだよ、ヒーローくん・・・・・・


 二人の心話はさっきまでの拓海のもやもやを全て拭い、気持ちは晴やかになる。

 自然と、拓海の顔に笑みが浮かぶ。しかしすぐに引き締め、地面を踏みしめ腰を捻る。

〈―――当然ッ‼〉

 一瞬浮かんだ諦めを払拭し、光纏う剛拳が唸る。

「これで―――!」

「グッ⁉」

 迫りくる敗北に、明は諦めず後ろに下がろうとする。

 彼を援護しようと、未来はグリモワールを開こうとするが、発動までには間に合わない。

 舌打ちを一つ。明は逃げようと膝を曲げ、


「絶対今、オレの事忘れたよな?」


 その背中を亮が逃げられないようにそっと押さえていた。


「しまっ――」


 明は侮りすぎた。時間をかけ過ぎた。途中から、周りを見なくなっていた。


「終わりだアァァァアアアアアアアアア―――‼‼‼」


 致命的な敗因は、主にその三つ。

 完全に身動きの取れなくなった明に吠える無名の獣の一撃が迫っていき―――


 そして、勝敗は決した。

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