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夢と現のクロスロード  作者: 佐月栄汰
創喚者編Ⅰ
33/108

第五章・我儘⑤

「――――ァッ」

 声が出ない。ただ喘ぐ。

 その衝撃は、腹から全身に伝わり、内臓と脳を揺らす。

(なんだ、この威力は⁉)

 視界が点滅する。胃から喉へとナニカが這い上がってくる。

 あり得ない、例え身体強化していたとしても……いや、たかだか身体強化した程度で、ここまでの威力が出るなどあるわけがない。

 ましてや、騎士たる人外あきらに創喚者たる人間たくみがたった一撃であっても渡り合えるなど、常識として……。

「……くく」

 千鳥足で後ろに下がりながら、明は己を恥じ、そして嗤った。

 何が常識だ。そんなもの、〝自分達がここにいる時点でないようなもの〟だろう。

 にも関わらず、明は拓海を常識に当てはめ、侮っていた。

(そうだ、この男がこの場に立った時点で、オレにその身で立ち向かおうとした時点で〝コイツはオレ達と同じ例外イレギュラー〟だ)

 身体が熱くなる。あぁ、いつぶりだろうか。この感じは。

 倒れない明に舌打ちする拓海に槍先を向け、鋭く睨み、笑う。


「失礼した、紫苑拓海。一人の戦士として詫びよう」


 もはやこの男はさっきのような震えるだけの弱い人間じゃない。我らと同じ戦士にして、強者。

 なら、もう何も躊躇う必要はない。


「ここからは全力で行かせてもらう――!」


 そしてルーンルインの封印を解き、溜め込んだ火炎を吐き出した。

「ぐっ―――⁉」

 仕留め損ねた明がついに本気になったらしく、ただ拓海一点目掛けて砲撃を放ってきた。

 直撃は避ける。しかしその後に待っていた爆風で節々に火傷を負いながら後ろに向かって吹き飛ばされる。

「おっと危ない」

 地面に不時着する寸前で、亮が首根っこ掴む事でそれは回避された。

「……感謝はする。もう大丈夫だからさっさと放せ」

 さっきから猫みたいで嫌だ。

 そいつは悪かった。そう笑って言いながら、亮は拓海を地面に降ろす。

 ようやっと放された拓海はすぐに立ち上がると、仕切り直しだと言わんばかりに拳を握り――


「―――ッ」

「……大丈夫か?」


 右手に瞬間の激痛。まるで痺れるような痛みが拓海を襲う。

「だい、じょうぶだ」

 労わる亮を抑え、震える右手――いや、右腕を止めるように、左手で強く握る。

 恐らく、肉体のキャパシティが限界を越えていたのだろう。

 明の言うように創喚者自らが戦場に出向く必要はない。だから、身体強化にしても創喚者が使う事を想定されていないのだ。

 それを拓海は比喩ではなく全力で使った。多分、本来人間の蓄える事が出来る力の限界を越える程。


(どうなるかは、誰であろうと察しが付くだろうな。むしろ腕の形に未だ整っているだけでも不思議なくらいだ)


 それでも、すでに中身はぐちゃぐちゃになっていてもおかしくない。本当ならすぐにでも引っ込んで騎士に治癒してもらう必要がある。

 ――だけど、まだ明は立っている。双眸はこちらを捉え睨んでいる。

(それに腕もまだ動く。あと一撃くらいなら、まだ)

 だったら男として、逃げるわけにはいかない。それに、ようやくあの槍の正体が分かったのに引き下がれるか……!


「……真っ赤になっていた刃。煙が出るほどの熱。血を浴びせれば逆戻る青い槍」


 三つほど槍の特徴を述べれば、途端に明は眉を震わせる。


「それにルーンルインという銘。どこかで聞き覚えのあるものだと思っていたが、思いだした」


 なんてことはない、作家であるなら誰でもしそうなアレンジ。なぜ気付かなかったと自分を責めたいくらいだ。

 あの槍の大元は――


「ルーン。別名、ルインとも呼ばれるケルト神話に登場する魔槍か」


 持ち主はアルスターの戦士・ケルトハル・マク・ウテヒル。

 他人が使っていた事もあるらしいが、それでも《ケルトハルのルーン》と称されたもの。

 その穂先ほさきにどす黒い液――血の煮液や毒液に浸さないと、柄が燃焼したとされている。

 その部分をアレンジし、その溜まった熱を砲撃のように開放したという風にしたのが、あのルーンルインなのだろう。

 見たところ、自身の血が封印素材と言ったところか。

 自滅の凶器とか、予兆の槍とも言われたらしいが、まぁそこら辺はどうでもいい。


「返答を聞かせてもらおうか?」

「……正解です、紫苑さん。ですがどうするおつもりで? その腕、もう一回振るだけでも動かなくなるのでしょう?」


 答えたのは未来。その口ぶりと表情は無感情だが、目は心配だと語っている。根っこから心優しい娘なのだろう。


「………あぁ、そうだよ。あと一振りで俺の右腕は動かなくなる。亮達に治癒してもらえれば治るかも知れないが、それをお前たちは待ってくれないだろ?」

「当たり前だ」

「そうだよな。まぁ、どちらにしても――」


 痛む拳を握る。思わず顔が引きつるが、それでも尚握り続ける。

 するといつの間にか、震えが止まり、痛みがなくなっている。アドレナリンが分泌されているのだろう。

「まだ一振り動くんだ、だからまだやれる――!」

 ――ならば、今しかない!


「そうかい――だったら、抗えよッ!」

「そうさせてもらうッッ‼ いくぞ、亮!」

了解ヤー!」


 一歩踏み出す。タイミングは同時。

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