第四章・夢⑤
――炎は灯された。
凍てついた心を、信念を溶かし、再び血が通いだす。
胸に秘めるは決意と覚悟。
それは今まで拓海に足りなかったもの。
現実を受け入れ、それでも尚、立ち向かわんとする意志。
――あぁ、身体が熱い。
凍るような寒気が嘘のように消え、それどころか身体が熱く燃え上がる。
そのせいか身体が軽い。さっきまで躊躇った身体が簡単に動く。背筋も真っ直ぐ伸びている。
「よし、良く言った! なら、さっきの奴等を守るために後を追わなきゃな」
その背中を、亮は押すように叩く。かなり痛いが、まるで友達同士のようで、気分としては悪くない。
………痛いといえば、
「その前に思ったんだが、そういえばお前、大丈夫なのか?」
「? なにがだよ」
「なにがって、俺が気絶している間に、紫の騎士から受けた傷の事だよ」
チェーンソーで抉られたと聞いたが。
「あぁ、その事か。それなら……ほれ」
亮はその部分らしい、脇腹を服を捲って見せてくると、そこには傷一つない身体があった。
「この通り、完治してる。オレ達騎士の自然治癒能力がダンチだから、死にさえしなければ大丈夫なんだよ」
まぁ、流石のたった数時間で全快したのは、殺し屋兼精霊使いである美月に治してもらったからなんだが。
肉を再生させただけで輝力は殆どなくなったし、仕方ない。
「あぁ、そうだ。ついでに話しておこう」
そう言いながら、亮は鞘からカリバーンを抜くと、おもむろにに刃に指を当て、引くようになぞって傷つけ血を溢れさせた。
「⁉ お前、何を――!」
「まぁ見てろ」
溢れ出る血を亮は見つめるように言う。
その血が雫となり、そして床のカーペットに落ちる。だが、それは染みつく事無く、そのまますっと消え、痕跡となるものが一切なくなった。
傷も、小さかったからかその頃には塞がっている。本来なら、小さいからといって数秒ほどで治るわけがないのだが。
「とまぁ、見ての通り。アンタも予想していたろうが、オレ達は完全に受肉したわけじゃない。未だ見える霊体のまま」
それでも――
「こんな身体であっても、作られたモノだったとしても、オレはここにいる。心だってある。今ここで、生きているんだよ」
この言葉、分かっていたのだろう、拓海が亮を所詮は夢幻の存在だと思っていた事を。
勿論、今は違うと言いたいが……それでも、少しはまだ思っていた節があったかもしれない。
だが、霊体であっても、本来は存在しないとしても、今ここに立っている、話している。それだけで良いという亮の主張は、拓海の考えを変える。
――そうだ、それだけで存在証明になるのだ。俺達と同じ、人間として在れるのだ。
「……無駄話が過ぎたな。さっ、行こうぜ、創喚――」
「拓海で良い」
それならもう、他人行儀であるべきではないだろう。
「……はっ?」
「だから、拓海で良いって言ってるんだ」
何か間違えてしまっただろうか? 亮が目を丸くして固まっている。
如何せん、男友達と思いたい奴は数年ぶりだから、どう接せばいいのか、どう言えばいいのかまるで分からない。
聞こえなかったのか、と思ってもう一度言ってみても反応はない。時間が経つ事に恥ずかしくなって、
「その代わり! 俺もお前のこと亮って呼ぶから、そのつもりでいろよ‼」
(って、これじゃまるでツンデレみたいじゃねぇか!)
拓海にそんな気はないのだが、色々テンパって何故かそう言ってしまい、それでまた慌てる。
そんな拓海に亮は可笑しそうに笑みを溢しながら、肩をポン、と叩いて、
「あいよ、んじゃ改めてよろしく頼むぜ? ――拓海」
「! おう、亮」
先を行く亮の背中を追って玄関へ向かう。
扉を前にして、少し躊躇してしまう。これではいけないと、拓海は深呼吸して、心を落ち着かせていく。
(――さて、きっと真里華達が待っているだろうし)
改めて整理をつけ、ドアノブを掴むと、そのまま開いて家を飛び出す。
「おや、やっと出てきたね。それでも、私の予想よりは早いかな?」
「お前は……」
するとその先に待っていたのは、赤い創喚書を持つ少女。
傍らには赤い長髪の、黒ローブを羽織った赤黒い大剣を軽々と背負っている男。
その彼女は、良く知る少女。参加している事には驚きだが、別に不思議じゃないと勝手に納得する。
「さて、与太話は後にして、同志。赤羽氏一同を助けに行くのに、知恵は必要なんじゃないかな?」
少女――楓はそう言って、意味もなく意味深に微笑んだ。




