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夢と現のクロスロード  作者: 佐月栄汰
創喚者編Ⅰ
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第四章・夢②

「――そろそろ良いかしら」


 タイミングを見計らって、二人の会話に割り込んできたのは美月だ。

 こんな時間に全員がまだこうして固まっている時点で、理由はあらかた察しが付く。


「あぁ、すいません。状況的に多分時間がないんでしょうし、俺に構わず進めてください」

「話が早くて助かるわ」


 さて、と美月は前振りを呟きながら、この場にいる創喚者及び騎士達を見渡す。


「黒の創喚者もこうして起きたわけだし、改めて相手の素性について、正確には敵騎士の情報を共有しておきたいんだけど、良いかしら?」

「? それは良いけど、作戦はどうするの?」


 そう疑問は口にしたのは来華。それに対しては美月は「立てないわ」と即答する。


「まだお互いの事を、戦いの癖を、能力を良く知らない中で作戦を立てるのは愚考よ。そもそも私たちはお互いにまだ信用し切っていない。そんな中で、作戦を立てたところで上手くいくとは思えないのよ」

「確かに、そうだね……」

「その点、敵の情報を共有するのはメリットしかないわ。自分を晒すことなく、敵の手を知ることができる。戦いは質よりも量よりも、情報が私の持論だから、そう思ってるだけだけど……一応、異論はあるかしら?」


 問うも、異議を申す者がいるわけもなく。


「……それじゃあ、この中で一番中途半端に情報を持っている私から――」


 美月が出す基盤を元に、他の騎士達から修正と追加を施されながら、全員に明と未来。そしてミラーナとその創喚者の情報が行き届いていく。

 その中で気になることがいくつかあった。


「指が血だらけ、ですか?」

「えぇ、青の騎士、寺本明の右手。その指が血だらけだったのよ。ルーンルインとかいう槍を持っている方ならいざ知らず、持ってない方が血まみれになるなんておかしいわ」

「……一つ良いか?」

 確かにおかしい。だが、その疑問に待ったをかけたのは亮だった。


「そんなとこ良く見てなかったから良く分かんねぇけど、額にも血ぃ付いてたし、それを手で拭ったからじゃないのか?」

「それは私も考えたけど……あれは拭って付いたような感じじゃなかった」

「それに、聞くに血は指にだけ付いていた。とすると、拭ったのだとしても、指だけなのは不自然だね」


 補足してくれた来華に、美月は「そうなのよ」と頷く。

 ということは、自分で指を切ったって事か? 一体何の為に?


「騎士の自然回復は早いとはいえ、自傷する理由にはならない。彼は魔術師だから、魔術的な理由があるはずだけど……」

「これ以上考えても泥沼化するだけか」


 確かに、憶測で考えすぎれば、いざという時、判断を間違えてしまうかもしれない。ここらで次に行くべきだろう。


「しかし、ルーンルインか……」

「どうした、創喚者」

「いや、なんでもない。単にそのなまえに覚えがあっただけ」


 きっと気のせいだろう。それより次だ。


「えっと、大森美月さん。紫の創喚者の特徴はそれで間違いないんですか?」

「えぇ、間違いないわよ」

「そうですか……」


 茶髪のサイドテール、舌ったらずの口調、漫画、というかイラストを描く人である事。

 そして何より、特徴からして着ていたのは、少し遠めにあるお嬢様ばかり通う姫凰学園の制服。間違っていなければ……


「その創喚者、きっと知り合いです」

「……そうなの?」

「はい。俺の予想が間違ってなければ、その人の名前は枢木くるるぎ明日葉あすは。俺達の元同級生で、それなりに付き合いはあったんですけど、数ヶ月前に転校してるんですよ。今でもメールでやり取りをしていたんですけどね」


 ただ、解せないのは、明日葉が描きそうもない狂ったキャラクターが騎士ということ。

 単に趣味が変わっただけなのだろう。しかしそうなるとその騎士の全体像、内部設定がまるで見えなくなってしまう。

 それさえ分かれば、ある程度有利になっただろうが、こればっかりは仕方ない。


「すいませんが、これだけです」

「別にそこまで期待してなかったから大丈夫よ」


 それはそれで傷付くのだが……


「美月、口が過ぎるよ」

「すいません、我が創喚者」

(俺に対する謝罪はなしか……)


 まぁ良いんだけど、とため息を吐くと、時亜とタイミングが一致した。

「で、他に何かないかしら?」

 そんな二人を他所に、美月は話を進める。

 ――そして十秒。手を挙げる者は一人としておらず。

「……ないようね。なら、少しもやもやしたところはあるけれど、これで話を終わりにするわ――と、言いたいところだけど」

「?」

 なんだろうか? そう疑問を浮かべる拓海を、美月は睨みながら問うた。


「今更ながら聞かせてもらうけど―――あなた達、戦う勇気はある?」



 それは確かに今更な問い。しかしなによりも必要な問いだった。それは創喚者とて同じ。

 勇気がなければ足がすくむし、宣言する事さえ、恐怖でままならなくなる。

 なにより、強い騎士を狙うより、弱い創喚者を狙う方がずっと効率的だ。であるならば、創喚者も戦っているも同義だろう。

「特に黒の創喚者……紫苑拓海。貴方に聞いているのよ」

 ――そしてきっと、まだ聞かれてないのは拓海だけ。

 他の創喚者は自分の騎士に問われて、覚悟の上でここにいるはずだ。だからこうして美月は名指したし、皆も拓海一身に目を向けるのだと思える。

「拓海………」

 当然、真里華もだ。

 心配そうに見つめるその目。だが、きっと少しは期待も含んでいる。

 かつてのように、小さかった頃のように、皆の前を立って歩いていた頃のように。

 ――《ヒーロー》に憧れていた頃のように、なってほしいと。

(その気持ちに応えたい、けど……)

 頭に浮かぶのは、かつて目の当たりにした惨劇。

 それから、後に身に沁みついてしまった臆病癖が拍車をかけて………

「――ごめん。俺には、無理だ」

 こんな情けない言葉しか、拓海の口からこぼれる事はなかった。

「……そう。良く分かったわ」

 それを区切りに、美月は興味が失せたようにひるがえし、さっさと家から出て行ってしまった。


「この、臆病者」


 なんて、拓海の心を抉る言葉を去り際に置いて。

 彼女に続くように、来華も出て行き、そして時亜も立ち上がる。

「トキ……」

「兄貴の判断は、人として正しいよ。そして当然でもある。けど――」

 振り返り、拓海を見るその目は、

「男として、そして先輩の幼なじみとしては、今この場では大不正解だよ」

 ――哀れみ。そして失望の色を滲ませていた。

 その言葉と目に、拓海は何も言い返せず、時亜が出て行くのを黙って見ているしかなかった。

「拓海……その、えっと」

 そんな中、真里華だけはただ残り、何か言おうとして口を開いたり閉じたりを繰り返す。

「……ごめんね」

 そうして、最初に出た言葉がそれだった。

「やっぱり、私間違ってたね! あんなところ連れて行かなきゃ良かった。私のせいで、拓海が傷付いた」


 ――……違う。


「でも、心配しないで! もう武闘会には参加しなくて良いから。オーディンにもそれとなく伝えておくから。だから……」


 ――違う。


「待っててね、とりあえず今は拓海も狙ってる人達やっつけてくるから」


 違う! 謝るのは俺だ、お前じゃない! 俺が弱いからであってお前は決して悪くない! だから、自分をそんな悪く言わなくて良いんだ‼

 そう言いたい、言いたいのに、何故か言葉に出来てなくて。


「………うん」

「……ん。それじゃあ、行ってきます」


 言ったと思えば、考えていた事とはまるで違う、たった二文字。

 それを受け止めた真里華は、笑みを一つ拓海に送ると、静かにこの家を後にしていった。


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